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『進撃の巨人』はなぜ“中毒性”が高い? 音楽家・澤野弘之の劇伴から探る

2017年04月09日 11:33  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 アニメ『進撃の巨人』Season2の放送がスタートした。豪華な声優陣に臨場感あふれる映像、アニメオリジナルの脚色もうまい具合にフィットしていて、原作ファンでも十二分に楽しめる内容となっている。そして、作品の世界観にさらなる深みを与えているのが、音楽家・澤野弘之が手掛ける劇伴だ。


参考:『おそ松さん』第2期はどこまで盛り上がる? アイドル的手法とその可能性を考察


 澤野はこれまでにNHK連続ドラマ『まれ』や『医龍-Team Medical Dragon-』(フジテレビ系)など、実写作品の劇伴も数多く担当してきた。しかし、ファンからはとりわけアニメサントラの人気が高い。というのも、アニメではSFやファンタジーといった壮大なテーマを扱う作品が多いため、劇伴も必然的にインパクトが強いものになるからだ。澤野自身も、日常的な世界観の実写ドラマより、巨人やゾンビなどが登場するファンタジックな世界観を持つアニメの方が「いろんなことにトライできる」と語っている。(参考:『進撃の巨人』で経験したサントラのおもしろさーー作曲家・澤野弘之インタビュー)


 アニメに見る澤野音楽は、“陰”と“陽”でいえば確実に“陰”のイメージだろう。時に叙情的で、時に退廃的なメロディライン。『もののけ姫』の久石譲サウンドに影響を受けたという、重厚感のあるオーケストレーション。そこにデジタルサウンドやバンドサウンドが重なることで、クラシックとモダンが表裏一体となった独特な世界観が構築される。


 さらに澤野サントラの特徴として、ボーカル曲が多いことも挙げられる。普通、劇伴にはインスト曲が使われることが少なくない。なぜなら、歌詞が登場人物のセリフとカブって物語の進行を妨げてしまう可能性があるからだ。最近でいえば、『君の名は。』でRADWIMPSのボーカル曲が劇中に使用され、賛否両論が巻き起こった例などがわかりやすいだろう。彼らの楽曲は良くも悪くもメッセージ性が強いため、サントラとしては少し目立ちすぎたのだ。


 しかし、それと比較すると、澤野のボーカル曲はあくまでバックミュージックに徹しているように感じられる。というのも、楽曲の多くが英詞のため、歌詞が耳に入ってきにくいのだ。日本語詞が使われる場合も、意味をなす文章というよりも単語の羅列で“音”として作用するパターンが目立つ。澤野に言わせれば、「もともとそんなに詞の意味に重きを置いていない」、「詞もサウンドの一部と捉えているので、メッセージ性より響き」なのだそうだ。(参考:Aimer×澤野弘之対談)同じように、アニメ作品を中心にボーカル入りサントラを多数手掛ける梶浦由記も、主に「梶浦語」と呼ばれる外国語風の造語を使用している。そのため、歌も楽器の一部のような働きを見せるのだ。このように、歌詞の意味を通じにくくすることで、ボーカルがあってもストーリー進行の邪魔にならない劇伴となる。


 『進撃の巨人』1期では、こうしたボーカル曲がストーリーの盛り上がりに大きくリンクしていた。アニメの展開にハマれば、同時にサントラにもハマってしまう。その相乗効果が、サントラへの中毒性を生み出していたといえるだろう。本作においては、音楽と作品の一体感がとにかく見事なのだ。それもそのはず、荒木哲郎監督と澤野のコンビは『ギルティクラウン』(2011~2012)に続いて2作目。さらにその後、『甲鉄城のカバネリ』(2016)でも再三タッグを組んでいる。


 もともとは、『機動戦士ガンダムUC』で澤野サントラに惚れ込んだという荒木。『ギルティクラウン』のオファーを経て、現在では阿吽の呼吸で制作を進めているそうだ。監督からの楽曲に関する細かい指定もほとんどないようで、「澤野さんにお願いするときはいつもそうですが、自由に作った劇伴で作品の幅を広げてほしいんです」と荒木自身語っている。(引用:「甲鉄城のカバネリ」荒木哲郎監督×澤野弘之対談)


 そうして実現した4年ぶりの『進撃の巨人』アニメシリーズ。そして4度目となる荒木監督×澤野音楽の融合。Season2用に制作した新曲も続々と投下されていくようなので、脚本やアニメーションはもちろん、前回を超えるサントラの仕上がりにも存分に期待したい。


■まにょ
ライター(元ミージシャン)。1989年、東京生まれ。早大文学部美術史コース卒。インストガールズバンド「虚弱。」でドラムを担当し、2012年には1stアルバムで全国デビュー。現在はカルチャー系ライターとして、各所で執筆中。好物はガンアクションアニメ。