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Drop'sが新体制で見せた、吹っ切れた笑顔と強さ 『HELLO, NEW SEASON』レポート

2017年04月09日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

Drop's(写真=たたみ)

 まだ全国的に知られているとは言えないが、各地のライブハウスを駆け巡り、都内で数百人キャパのハコをしっかり満員にしている若き才能。当連載でピックアップしているのはそういうバンドが多いし、そこに集まってくる観客といえば、楽しいことが大好きなキッズ、常に新しいことを探している好奇心旺盛な若者たち、というイメージでまず間違いないだろう。


 そんな場所をライブハウス・シーンと呼ぶのであれば、今回のDrop’sは少々、いや、だいぶ特異な環境で活動しているバンドだ。メンバーは皆20代前半と若いのだけど、ひょっとするとメンバーの親世代? という感じのファンが毎回驚くほど目につくのだ。


 もちろん、これはバンドの音楽性に拠るところが大きい。中学のときにTHE BACK HORNやThe Birthdayなど日本のバンドを知った中野ミホ(Vo&G)は、そこからルーツを掘り下げ、THE ROLLING STONES、トム・ウェイツ、マディ・ウォーターズやキャロル・キングなどに惚れ込んだという。とても90年代生まれとは思えない感性。軽音部の同級生とバンドを結成し、半ば強引にサウンドの方向を決めたそうだが、「古いブルースやロックンロールが格好いい」という価値観はメンバー全員で共有することができた。むしろ流行りの音楽から離れれば離れるほど「若いからって、女子だからってナメられたくない!」との意識は強まっていったようで、高校3年生で初めて出したCDには「激シブで本格的な女子高生ブルース・ロック!」との評価が下された。ゾクゾクするほどハスキーな中野の声質も評価を高めた要因のひとつ。べつに彼女は「場末がよく似合う女の哀しき性」みたいなことを歌っていたわけではないが、10代特有の鬱屈やモヤモヤを吐き出していく様は、年相応のブルースと言えただろう。


 今どきとは言えないサウンドだから、また下手な愛想笑いも見せないからこそ、最初に増えたのは「キミたち、わかってるな!」と言わんばかりの表情で見守る中高年ファンだった。それ自体は悪いことではない。ブルースやロックに一家言ある耳の持ち主が認めるホンモノという証だ。ただ、だからこそ、こんな特異なバンドはもっと幅広い世代を驚かせていいはずだ。メジャーに進出した2013年からは楽曲がどんどんポップ&カラフルになったし、歌詞の内容も前向きに、同時にぐっとパーソナルにもなっていった。もはやブルース云々の枠には収まりきらないのだから、何かもっと起爆剤があればいいのに。そんなことをぼんやり考えていたのが近年のことだ。


 果たして、思わぬ形で事態は動いた。本年1月にドラマーの奥山レイカが脱退。原因は肉体的負担なので気持ちが離れたわけではないが、それでも「高校時代からずっと一緒だった友達5人組」という関係性に終止符は打たれたようだ。中野ミホ、荒谷朋美(G)、小田満美子(B)の3人は札幌から上京することを決め、新たなドラマーと出会う。さらにキーボードの石橋わか乃が大学卒業と資格取得のため約一年は学業に専念することも先日発表された。目まぐるしく状況が変わる中、彼女たちは一体何を感じていたのか。一時的にバンドが止まったことで、人前で音を鳴らせる喜びを再確認しただろう。さらには地元を離れて東京に住むことで、なんのために今ここに居るのかも自問自答しただろう。4月1日、新宿レッドクロスでのお披露目ワンマンライブ『HELLO, NEW SEASON』で見えてきたものは大きかった。


 もう革ジャンも着ていないメンバー。「古典的ロックンロール」の武装がない代わりに、「今を楽しむ!」というストレートな笑顔が印象的だ。そして楽しいだけでなくずいぶんと頼もしい。いち早く理解を示してくれたファンに「見守られている」だけでは物足りない。思い切り爆音をぶつけて、自らファンを引っ張っていくのだ、というくらいの気概が感じられる。強い。


 だからこそ客のテンションも右肩上がりだ。3曲目「アイスクリーム・シアター」で自然発生する大合唱。フロアは全力で拳を上げる者、無我夢中で叫んでいる者ばかり。こういう光景をDrop’sのライブで見たのは初めてかもしれない。だが、本来はこれがロックバンドだ。大人たちに「わかってる」と言われてどうする。むしろ「大人になんかわかってたまるか」くらいの負けん気で、自分たちだけの特別な空間を作り上げていかなくちゃ。古いルーツを知っているとか、声質がそもそもブルージーとか、知識や素質の問題はさておいて、ただ気持ちの部分でこの日の彼女たちはロックバンドをやっていた。ものすごく楽しそうに。


 おそらく、今彼女たちが鳴らしたいのは「哀しみ」ではないだろう。もっとポジティブで、大胆で、思い切りのよいバンドサウンド。つまりは頭をカラッポにしてくれるロックンロールだ。1960年代も2010年代も関係なく、ドラムス/ベース/ギター/キーボードを「せーの!」で鳴らせば成立するもの。BPMがいくつと数値化せずとも、楽器が合わさるだけで自然に生まれるグルーヴというもの。それさえあればDrop’sを続けられる。言い換えれば、Drop’sを続けるためにはそれしかいらない。そういうシンプルな吹っ切れ方が潔かったし、揺れる心模様を歌うバラードがほとんどなかったのも正解だと思う。パーソナルな心象風景は今後いくらでも歌にできるが、今見せるべきは、ロックバンドのバンドらしい姿、現在のメンバーの生き生きした笑顔であるべきだ。


 また、この日初めてお披露目された新ドラマー、石川ミナ子との相性が最初から抜群であることも驚きだった。奥山の脱退から彼女の加入までは驚くほどスピーディーだったが、試運転の要素は感じない。鋭いスネアで曲を引っ張っていくし、かといって主張しすぎることもない。何より、フロントの中野が歌いやすそうなのが最高だ。ボーカルがドラムにストレスを感じるとバンドは成立しないとはよく聞く話だが、中野がいつになく楽しそうにのびのびと歌う姿は、このバンドの前向きな未来につながっていると思えたのだ。


 ライブハウス・シーンを見渡せば、今は若い女性バンドが特に元気だ。音楽性や方向性を一緒くたにはできないが、赤い公園、SHISHAMO、ねごと、SCANDALやSilent Sirenなどが、それぞれ同性のリスナーたちから支持され、10代から「私もバンドやってみたい!」と憧れられる存在になっている。もちろんDrop’sのライブにも、そういう若い子たちはチラホラと見受けられる。まだ10代とおぼしき彼女たちの切実な眼差し。そこに宿る感情がよくわかる。「こんなふうにタフに歌えたら」。「これくらい強烈なギターを弾いてみたい」。「ロックバンドって、すごいかも!」。それだけで十分だ。


 デビューした頃から、「若いのに、わかってるねぇ」という声はたっぶり集まってきた。そこに甘んじる時期は過ぎた。今のDrop’sが求めているのは、時代とか流行とか空気とかも気にすることなく「遠慮なく好きなことやる人たちがいるって、格好いい!」という声だろう。バンドは今、そういう段階に歩を進めている。(石井恵梨子)