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女子高生マウンティング合戦に漂う美と残酷さーー清水富美加&飯豊まりえ『暗黒女子』の背徳

2017年04月08日 16:53  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2017「暗黒女子」製作委員会 (c)秋吉理香子/双葉社

 お嬢様学校で繰り広げられる、美しい女子高生たちの騙しあい。挨拶は「ごきげんよう」。豪華なサロンでスイーツを食べながらキャッキャと笑う彼女たちを演じるのは、今を時めく注目の女優たち。だが、その笑顔の裏には相手を蹴落とし、自分が一番になりたいという暗い欲望が潜んでいる。


参考:清水富美加、『暗黒女子』で怪演! 色眼鏡で見てはもったいない3つの理由


 沢尻エリカ主演のドラマ『ファーストクラス』や水野美紀の熱演が話題を呼んだドラマ『黒い十人の女』など、美女たちのマウンティングを扱ったドラマや映画は数多い。でも、女子高生を主人公にしたマウンティングはあまりないのではないのだろうか。「い~や~だ」と叫びながら高笑いする飯豊まりえや、女の子の人形を、藁人形のように木に何度も突き立てる玉城ティナは、なかなか衝撃的だ。清水富美加の出家騒動で話題になってしまったこの映画だが、終始おしとやかにヒロインたちをまとめていた清水が見せる終盤の迫力の演技は圧巻である。


 学園中の憧れの的だった白石いつみ(飯豊まりえ)が、すずらんの花を持って死んだ。その謎の死は様々な噂を呼び、彼女が主宰していた文学サークルのメンバーに疑惑の目が向けられていく。その文学サークルが開催する定例闇鍋朗読会で、彼女たちはそれぞれの「白石いつみの死」を語り始めるのである。


 原作は、秋吉理香子のイヤミス小説『暗黒女子』。イヤミスとは、読んでイヤな気持ちになる最悪の結末だが、それが余計に癖になってしまう小説のことを言う。それぞれの女子高生の視点から見た「白石いつみの死」が、あくまでそれぞれの「小説」として描かれ、彼女たちをまとめる立場にある小百合による独白に始まり、独白に終わる形が、よりその後味の悪い感じと、どんでん返しの面白さを際立たせている。


 映画は、原作と同じくそれぞれの自作小説の朗読とその講評の繰り返しという一見地味な構成で成り立っている。だが、光源を限りなく落とした、視覚を制限されたその空間で、闇鍋を混ぜる不気味な音だけが鳴り響く様は、それだけでゾクゾクさせられる。そしてそこにうっすらと女子高生たちの制服の白が輝き、時折外の雷光がその張り詰めた表情を照らすのもまたなんとも背徳的だ。


 途中までは、これは白石いつみという女王様の寵愛を得るための女のバトルなのかと見まがうほどの甘美な雰囲気が続く。女子高という特殊な空間だから存在するのだろうこの異様な世界観。相手を巧みに褒め、相手の喜ぶことをして至近距離に近づき、まるで「あなただけに話しているのよ」とでも言うようにでまかせで他のメンバーのネガティブイメージを植えつけ、それでいて自分の株は上げるといういつみの手法は、人間掌握に長けた、典型的な悪女であると言えよう。飯豊まりえが、泣いている平祐奈の髪に自分のバレッタをつけて後ろからハグする姿や、マカロナージュの仕方を教わるために小島梨里杏の傍に寄り添い、振り返った小島がその至近距離に慌てる時の2人の身長差は絶妙で、なんだかドキリとするものがある。時折見せる笑顔が可愛い眼鏡の妹キャラの平祐奈や、ふんわりとした笑顔とスイーツ作りがよく似合う小島梨里杏が好演している。


 本作を手がけた監督である耶雲哉治監督の『百瀬、こっちを向いて。』を観た時も思ったのだが、女子高生というのはそれだけで美しく、それだけで傲慢で、残酷だ。『百瀬、こっちを向いて。』における屋上に佇むショートカットの早見あかりの姿は、揺れるスカートにちらりと見える白い太ももを垣間見るだけで罪深いような気がしてくる。主人公の少年を見るために振り返った彼女の表情は、違う人に一途なだけに残酷で、それだというのに許される。なぜなら彼女は美しく光り輝いているから。そしてそれは『暗黒女子』の言葉をそのまま引用すれば、「時間制限のある美しさ」なのだ。学園の屋上から落ちていく女王蜂・白石いつみもまた、そんな罪深いような美しさを垣間見せながらゆっくりとゆっくりと落ちていった。


 この映画は、高校生活のたった3年間を、人生全て、人生の輝き全てだと思い込んだ少女たちの物語でもある。清野菜名演じる志夜が、「女子高生である1年は貴重だから、今しかないから!」と叫ぶように、彼女たちには今しかない。大人から見ればたった1年の我慢で、あさはかな恋愛で、あさはかな憧れやコンプレックスだったとしても、彼女たちはそんな簡単なことで大きな罪を犯してしまうのである。


 スイーツでいっぱいのテーブルに並んだ女子高生たちの「最後の晩餐」。その可愛らしい見た目とは裏腹なドロドロした欲望。ぜひ一度、ご賞味あれ。(藤原奈緒)