今週末の岡山から始まる2017年シーズンのスーパーGT。GT500クラスはレギュレーション変更にともない、レクサス、ホンダ、ニッサンの3メーカーがそれぞれ新型車両を投入され、勢力図が改められる形となった。オフのテストではレクサスLC500の6台が上位を独占する速さを見せるなど他メーカーを圧倒。果たして、この開幕でそのパワーバランスに変更はあるのか。3メーカーの首脳に岡山の現地で聞いた。
「(クルマが)遅いです」
真っ先に自車のパフォーマンス不足を認めたのは、今年からホンダ陣営を指揮する佐伯昌浩プロジェクトリーダ-。
「今年から大きくなったタービンに合わせてターボラグも大きくなりましたが、その合わせ込みなどエンジンの面ではうまくいきました。前年比で言えばNSX-GTも大きく進化できたと思いますが、レクサスさんの進化がテストではさらに大きい分、我々がキャッチアップしようとした上に行っているという印象を受けています」とレクサスとの相対関係を話す佐伯プロジェクトリーダー。
ホンダNSX-GTはこのオフ、鈴鹿では好タイムをマークしてライバル陣営を驚かせたが、その後の岡山、もてぎなどのテストでは精細を欠く結果となった。ドライバーやチームからは、ブレーキング時の挙動、安定感に不安があるとの声も聞こえてきている。
「タイムとかクルマの挙動を見ていてもそうですが、ブレーキングについてドライバーからコンプレイント(不満)が挙がっていますし、ブレーキの多い岡山やもてぎではちょっと厳しい状況かなと思っています」
もちろん、そのウイークポイントをそのまま放置しているホンダではない。この開幕戦の岡山には合同テスト時とは異なる改良版の足回りを導入し、ブレーキングなどの課題解消を狙っている。今年のホモロゲーションは第2戦富士の直前が締め切りとなるが、「この岡山以降もギリギリまで開発をやっていこうと思っています」と佐伯プロジェクトリーダーは意気込む。
ホンダ陣営としては、ここ数年、長らく決勝ではタイヤのピックアップ(タイヤかすが飛ばずにタイヤ表面に残りグリップ低下を招く)現象に悩まされており、このオフもその問題は完全には解決できていないというが、足回りの開発と合わせて、ホンダの今季のポイントになりそうな気配だ。
■大不振からの出発となったGT-R陣営
このオフではそのホンダ以上の不振に見舞われたのが、ニッサンGT-R陣営だ。岡山の合同テストではエース車両のMOTUL AUTECH GT-Rが最下位になるなど、去年までには考えられなかったリザルトとなっている。
「シーズンオフのテストは、苦労していたのは事実です」と話すのはニッサン陣営をまとめる田中利和総監督。
「苦労はしていましたが、ひとつひとつ課題を見つけて解決してきているので、今週末は今、できることをやるしかないですね。GT500は参戦する4台ともいいレースができればと思います」
ニッサンGT-Rが苦労している箇所にはさまざまなエリアが挙げられているが、特にエアロとタイヤのマッチングに苦しんでいるようで、その中でもMOTUL GT-RとS Road CRAFTSPORTS GT-Rのミシュラン勢とのマッチングが課題になっている。
「クルマとタイヤ、両方が歩み寄って、チームもタイヤメーカーも素人ではないので、狙いが少しズレていたとしても修正してくる力は確実に持っていますし、そういう部分はきちんと見つけて来ています。ライバル勢が強力なのは事実ですが、ほんの少しの差が大きな違いになるのがこの国内最高峰のスーパーGTですので、そんなに簡単ではないですよね」
ニッサンのミシュラン陣営がこのオフでは苦労した一方、新戦力、新コンビとなった2チームには光明もあり、田中総監督の言葉も軽い。
「ヤン(マーデンボロー/カルソニック IMPUL GT-R)は期待どおり、適応力の高さと本来の速さをみせていますので、十分、GT500でも通用すると思いますし、この開幕から優勝を狙えるレベルにあると思っています。J-Pは知ってのとおりですが、今、24号車のヨコハマタイヤさんの開発の進歩は著しいものがありますし、今年はヨコハマタイヤさんが100周年ということもあって、今年はなんとしてでもチャンピオン争いがしたいという強い意志があります。J-Pはこのオフもさすがの速さを見せていますし、今、若手で一番ノリに乗っているホープの(佐々木)大樹と合わせて、最強のラインアップのひとつだと思います」
明るい材料と不安が混在するニッサン陣営。田中総監督にこの開幕戦の目標を聞くと「表彰台の一角にきちんと入ることですね」と、現実的な順位を挙げる。それがおそらく、今のGT-Rのパフォーマンスなのだろう。
ちなみに、ホンダの佐伯プロジェクトリーダーの開幕戦目標は「天候が読めないですが、テストでも雨は悪くなかった。最初から雨に頼るのもなんですが(苦笑)、ドライではウインターテストの結果から厳しいのは分かっています。雨ならいい勝負ができると思っています」と、こちらも極めて慎重な答え。
■レクサス陣営のファイナルアンサー
開幕戦なのに、「優勝」という言葉が出ないほど、ホンダ、ニッサンともにレクサス陣営の強さを認めているわけだが、では、そのレクサス陣営はこの開幕戦の目標をどう見据えているのか。TRDのエンジン開発を担う佐々木孝博エンジニアに聞いた。
「目標は予選、決勝ともに1~6位独占です。予選はちょっと厳しいかもしれませんが、レースはきちんと走れば達成できると思います。雨はNSXが速そうですが、レクサス陣営のオフのテストの速さをきっちりと証明したいですね」
なんたる自信! これまでのスーパーGTの開幕戦で、ここまで評価がはっきりした中で迎えるシーズンもなかったはず。誰もが認めるレクサス1強状態で迎える第1戦岡山戦。いつもとは違った緊張感の中、新時代を迎える今シーズンのスーパーGT500クラスの戦いが、いよいよ幕を開ける。