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電気グルーヴのライブには二種類の“多幸感”があるーーZepp Tokyo公演レポート

2017年04月07日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

電気グルーヴ全国ツアー『TROPICAL LOVE TOUR』Zepp Tokyo公演の様子。(写真=Masanori Naruse)

 自ら“最高傑作”と称するアルバム『TROPICAL LOVE』のリリースを受けて、6都市7公演で行われた電気グルーヴの全国ツアー『TROPICAL LOVE TOUR』。その最終日となった3月25日、Zepp Tokyo公演を観て感じたことを、以下書き留めておくことにしよう。結論から言うと“多幸感”。面白さも狂気もない混ぜになった、得も言われぬ“多幸感”が、今の電気のライブにはあるのだった。


 揃いのアロハにサングラスという出で立ちでステージに登場した石野卓球とピエール瀧。サポートに牛尾憲輔(agraph)を加えた、最近ではお馴染みの編成だ。「人間大統領」からスタートした本編は、4曲目の「プエルトリコのひとりっ子」までシームレスに繋がってゆくなど、アルバムを完全に踏襲した流れだ。


 そして、その後は「いちご娘」をリアレンジした楽曲「いちご娘はひとりっ子」、今の季節を意識したのかアルバム『KARATEKA』収録の「March」など懐かしい楽曲を『TOROPICAL LOVE』のモードで披露。そこから今度は、「The Big Shirts」など前アルバム『人間と動物』の収録曲に突入するなど、結成20周年以降、現在へと連なる流れを一挙総まくりする構成に。気がつけば、『VOXXX』収録の「Eine Kleine Melodie」まで11曲を、MC無しのノンストップで繰り出したのだった。


 ようやく訪れたMCタイム。しかし、ここでも饒舌なトークは、ほどほどに控えられ、後半戦へと突入。そう、今の電気は、何よりも“音楽”を優先するのだ。そして、再び『TROPICAL LOVE』の流れに戻りつつ、終盤は「Upside Down」、「FLASHBACK DISCO」、「Baby's on Fire」など人気曲を、ステージ前に出張ってきた石野と瀧のツートップ状態で歌い上げるなど、そのステージングはさながらロックスターのそれだった。その極みは、そのあとに披露された往年の人気曲「N.O.」を会場中でシンガロングしたときだろう。観客にマイクを向けて、サビのフレーズを、観客にシンガロングさせる石野。


 今回のアルバム取材で、石野が「電気グルーヴは、真顔か笑顔で歌える曲のどっちかしかない」と言っていたけれど、この終盤の展開は、まさしく“笑顔”のそれだった(参考:電気グルーヴが語る、楽曲制作の流儀「悲しみや怒りを無理やり同意させるのはカッコ悪い」)。さらに、気が付けば20年以上も前の曲となっている「N.O.」を今歌う意味について、かつてふたりはこんなふうに語っていた。「体験から作った曲だから嘘がない」(瀧)、「嘘がなくて普遍的なところがあるから歌っていて恥ずかしくない」(石野)。このように胸を張って「N.O.」を歌える潔さが、今の電気のライブを、非常に風通しの良いものにしているのだ。


 とはいえ、そのクライマックスは、アルバム同様、「ユーフォリック」、「トロピカル・ラヴ」という、実にフロア映えするふたつの楽曲が披露されたときだった。“ユーフォリック・トランス”や“トロピカル・ハウス”など、テクノ・ミュージックのトレンドに目配せをしたような、コンテンポラリーなサウンドが醸し出すメロウネス。ミラーボールの輝きのもと、思い思いに身体を揺らしながら生で体感するこれらの楽曲は、観客たちの身も心も解き放つセンシュアルな魅力を打ち放っていた。やはり、この2曲こそが、アルバム『TROPICAL LOVE』のキモであり、本作を“最高傑作”たらしめている理由のひとつと言えるだろう。


 そんなクライマックスを終えたあと、アンコールで登場したふたりは、ついに堰を切ったようにしゃべり始める。とりわけ、観客のリアクションを待たずに次々と話題を変えていく石野のMCは、いつも通り、ほとんど幻惑的ですらあった。相方の瀧ですら「半分くらい何言ってるかわかんない(笑)」と言うのだから、その様子は想像つくだろう。さらには、なぜか最近恒例となっている「瀧、相撲とろうぜ!」という石野の呼びかけから始まる石野と瀧の大一番。この日は、立ち合いから四肢を広げた石野が瀧に飛びつき抱っこされるという不思議な展開に。なぜか会場から湧き上がる歓声と拍手。依然として既成概念を打ち破るトーク&パフォーマンスで観客の度肝を抜きながら、ようやくアンコール曲、ゲストアーティストの夏木マリが出演する映像とともに「ヴィーナスの丘」を披露。そして最後は、人生時代の楽曲をリメイクした「半分カメレオン人間」で、この日の幕を閉じたのだった。


 テクノサウンドの高揚が生み出す音楽としての多幸感と、電気グルーヴーーいつも仲良さげではあったけど、最近とみに仲が良さげなアラフィフ男性ふたりが放つ多幸感が、絶妙なバランスで入り混じった空間。それが今の電気グルーヴのライブなのだ。野外フェスなどで観る電気グルーヴも最高だが、この“音圧”の至福と“密室”ならではの狂気のMCは、やはりワンマンならではのものだろう。文字通り“ユーフォリック(多幸感のある)”な体験。この日が初めての電気ワンマン体験という若い客もチラホラ見受けられたが、興奮気味で会場をあとにする彼/彼女らの頬は、なぜかちょっぴり赤らんでいたように思えた。(麦倉正樹)