4月7日(金)からアルゼンチンのアウトドロモ・テルマス・デ・リオ・オンドでMotoGP第2戦アルゼンチンGPが開催される。
■路面状況が刻々と変化するテルマス
アウトドルモ・テルマス・デ・リオ・オンドは、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスから北西に約1000kmのところにあるテルマス・デ・リオ・オンドという街にあり、2008年に開設された新コースだ。2013年の5月にMotoGP開催を目的に改修工事が行われた。
コースの全長は4806メートル。1076メートルのストレートと、右コーナー9、左コーナー5のレイアウトで構成されており、1周の平均速度が167km/hという高速コースだ。
ひんぱんにレースが開催されているコースではないため、毎年、金曜日のセッションの段階ではコースは汚れており、セッションが進み路面にラバーが乗って来ると路面コンディションは改善していくという。
アルゼンチンは、金曜日と日曜日の路面コンディションの差が大きく、決勝に向けてマシンセットアップが難しいコースで、決勝日に合わせたマシンセットアップができるかどうかがカギを握る。
2015年のMotoGPクラスでは、マルク・マルケス(ホンダ)とバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ)が終盤にバトルを展開。残り2周のバックストレート後、6コーナーの切り返しで前にいたロッシのリアタイヤと直後にいたマルケスのフロントタイヤが接触、マルケスが転倒リタイアとなる。
このアクシデントは審議の対象となったものの、レーシングアクシデントとしてペナルティの対象とはならず、ロッシは開幕2連勝を飾った。しかし、この接触は2015年シーズン終盤のセパンクラッシュにつながる切っ掛けともなった。
2016年のMotoGPクラスでは、フリー走行4回目でミシュランのリアタイヤに問題が発生。急きょ構造の硬い新しいリアタイヤが供給され、決勝朝のウオームアップセッション前に30分間の追加セッションを設けることになってい。
しかし、ウオームアップがウエットコンディションとなったため、追加セッションはキャンセル。決勝レースはドライとなったため、レース周回数を20ラップとし、9周目、10周目、11周目のいずれかの終わりに、ニュータイヤを履いたバイクに交換しなければならないこととなった。
これはタイヤに対する安全性確保のためのもので、2013年のオーストラリアGPで採用されたものと同様の手順だった。
ドライコンディションで争われたレースでは序盤からトップ争いに加わったマルケスが、マシン乗り換え後にリードを広げ、最終的にはトップ独走でシーズン初勝利を飾った。2位にロッシ、3位にダニ・ペドロサ(ホンダ)が続いた。
Moto2クラスではヨハン・ザルコ(カレックス)が優勝。ウエットからドライへとコンディションが変化し、タイヤチョイスが勝負の分かれ目となったMoto3クラスでは、スリックタイヤを選択し、1周目からトップに立ったカイルール・イダム・パウィ(ホンダ)が、フル参戦2戦目にして独走でグランプリ初優勝を飾った。
■ビニャーレスの速さはアルゼンチンでも健在か
ヤマハでのデビュー戦で優勝を飾り、ランキングトップで2戦目に臨むマーベリック・ビニャーレス(ヤマハ)。オフシーズンのテストから好調だったビニャーレスだが、予選が雨でキャンセルになり、決勝も雨でスケジュールがディレイする状況の中、落ち着いた判断で最終的にトップに立ち、見事な優勝を果たした。
今年でMotoGPクラス3年目となるビニャーレスだが、テルマス・デ・リオ・オンドでは、1年目の2015年に10位入賞、昨年は終盤まで2番手争いに加わりながら、残り2周の1コーナーで転倒リタイアに終わっている。
「素晴らしい開幕戦カタールの後、テルマスで再びM1に乗ることができるので、わくわくしている」とビニャーレス。
「いい結果を残すために難しいチャレンジを続けよう。カタールは18戦の内の1戦に過ぎない。ライバルのレベルはとても高いから、少しプレッシャーを感じているが、それが懸命に働くモチベーションにもなっている」
「ステップ・バイ・ステップで、レースごとに進化できるように慎重に仕事に取り組まなければならない」
チームメイトのロッシはランキング3位。開幕前のテストまで2017年型マシンにいい感触を得ることができずにいたものの、開幕戦では勝負強さを発揮し、3位入賞を果たした。
テルマスでは2014年に4位、2015年に優勝、2016年に2位とコンスタントに上位でフィニッシュしている。ロッシは今レースで、グランプリ通算350戦目(最高峰クラス通算290戦目)を迎える。この記録は歴代トップだ。
「チャンピオンシップのスタートは簡単ではなかった」とロッシ。
「テストからハードに仕事を続けたが、開幕戦のウイークでいくつかの問題、特にフロントに抱えていた問題をようやく解決できた」
「(開幕戦の)レースはとてもうまく行った。表彰台に立つことができてとてもハッピーだったよ」
「テルマスのコースは大好きだし、テルマスに行くことができてうれしい。今年は路面コンディションがいいことを期待している。去年は難しいコンディションだった。今週末もよりよくなるようにトライして、再び表彰台に立てるように頑張りたい」
カタールで2位入賞を果たしたアンドレア・ドビジオーゾ(ドゥカティ)はランキング2位。昨年のアルゼンチンGPでは最終ラップの最終コーナー手前まで2位につけながら、当時のチームメイト、アンドレア・イアンノーネに接触されて両者転倒、ドビジオーゾは再スタートして13位に終わった。
しかし、2015年には2位表彰台を獲得しており、テルマスとの相性は悪くない。
「このコースは特別で、金曜日と日曜日の間に路面状況が大きく変わり、決勝レースで(コースが)ベストコンディションとなる」とドビジオーゾ。
「テルマスはいいコースだし、ドゥカティはいつもここでうまくいっている。開幕戦のカタールと、先週の水曜日に行なったヘレスでのテストではポジティブでよい仕事ができたから、アルゼンチンでの週末が楽しみだね」
チームメイトのホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ)は移籍初レースのカタールGPを11位で終了。開幕前のテストまではマシン特性の違いに戸惑っていた様子も見られたが、初ライド時よりもマシンへの習熟は進んでいる。
ただし、決勝序盤にラインを外してポジションを落としたとは言え、昨年は優勝し、得意とするカタールGPで11位に終わったことはロレンソにとって落胆する結果となった。
ロレンソはアルゼンチンGPでは2014年に3位、2016年に5位、昨年は転倒リタイアとまだ勝利を記録したことはないコースだ。
「カタールの開幕戦は望んだ結果ではなかったが、次のレースに向けてページをめくるように集中しなければならない」とロレンソ。
「アルゼンチンGPが待ち遠しいよ。ドゥカティで距離を走り、経験を積むことができるからね。テルマスはここ数年、苦戦していたコースで、特別なコースだ」
「昨年のドゥカティはうまく行っていたので、もう一歩前進することができると思う。アルゼンチンはボクとドウカティの組み合わせでは初走行となるから、可能な限りすばやくセッティングの作業に集中しなければならない」
開幕戦カタールでは4位に終わったマルケス。雨で決勝スタートがディレイし、その間にフロントタイヤをハードからミディアムに交換したが、このタイヤチョイスが裏目に出た。
2戦目のテルマスは2014年と2016年に2勝を記録しており、マルケスが得意とするコース。ここからマルケスの巻き返しが始まる。
「カタールはハードなグランプリだった」とマルケス。
「(カタールでは)表彰台を獲得できなかったけど、週末を通じてよくなった。それをアルゼンチンで使えるか見てみよう」
「(テルマスの)コースレイアウトはとてもいい。このコースではいつもいいフィーリングがあるが、グリップレベルは非常に低い。タイヤのライフをコントロールする必要があり、この問題を小さくするために、仕事に取り組み、全体的なセットアップの改良を続けたい」
「アルゼンチンの情熱的なファンの前で表彰台を争いたいね」
チームメイトのペドロサ(ホンダ)はランキング5位。テルマスでは、2014年に2位、2015年は腕上がりの手術のために欠場、2016年には上位の脱落もあり3位表彰台を獲得している。
「全てが少し不思議な感じだった開幕戦の後で、ポジティブなことを維持し、改良に向けて懸命に働き続けたい」とペドロサ。
「カタールと同じベースのセットアップで始めるけど、当然、ギアと電子制御をコースに合わせなければならない」
「コースコンディションとタイヤのパフォーマンスを理解する必要がある。コースに出る前に物事を予想するのは難しいが、準備はできているよ」
「(テルマスの)コースは汚れていて、タイヤへの要求が高い。いい結果を残すために全力をつくそう」
ライダーラインアップを一新したスズキは、アレックス・リンス(スズキ)が開幕戦でルーキートップとなる9位に入賞したが、開幕戦翌週、スペインでモトクロストレーニング中に転倒し、右足首を負傷。バルセロナ市内の大学病院で精密検査を受けた結果、脛骨と踵骨の間に位置する距骨(きょこつ)に小さな骨折を負った。
「MotoGPデビュー戦のカタールは、とてもエキサイティングな体験だった。正直、全てがとても速く進み、あっという間だったよ」とリンス。
「新たな感動を体験できることが待ち切れない。先週、トレーニング中にケガを負ってしまった。重傷ではないが、回復にはある程度の時間が必要で、痛みが走行に大きく影響しないことを願う」
一方、エースのアンドレア・イアンノーネ(スズキ)は、カタールでは上位を争ったものの、転倒リタイアに終わった。
イアンノーネは開幕前のテスト、開幕戦のフリー走行2回目までマシンのセットアップが決まらない様子だったが、フリー走行3回目で2番手にジャンプアップ。予選が雨でキャンセルとなったことで2番グリッドからトップ争いに加わったが、前を行くマルケスに接触して転倒、リタイアに終わった。
「シーズンの2戦目を迎えられることがうれしいよ。失望したカタールの後で、巻き返したい」とイアンノーネ。
「ボクたちにとって、テルマスは有利なコースかもしれない。高速でテクニカルなレイアウトは好みだ。コースコンディションがよいことを願う」
「全体的にコースはとても汚れているから、グリップが高まるまである程度の時間が必要となる。今年はうまくやりたい」
開幕戦でインディベントチーム最上位の6位に入賞したアレイシ・エスパルガロ(アプリリア)。MotoGP復帰3年目となるアプリリアにとってベストリザルトとなった。
アレイシ・エスパルガロはテルマスではスズキ1年目の2015年に予選2番手を獲得している。
「開幕戦のカタールをいい感覚で終えた。アルゼンチンで早くマシンにライディングしたい」とアレイシ。
「テルマスは好きなコースで、ライディングスタイルにも合っている。レースのコンディションに最適なセットアップを得ることができることを願っているが、予選でもいいポジションをねらって行きたい」
■好調の中上。アルゼンチンで今季初優勝なるか
Moto2クラスでは開幕戦カタールでフランコ・モルビデリ(カレックス)がグランプリ初優勝をポール・トウ・ウインで飾った。2位にトーマス・ルティ(カレックス)、3位に中上貴晶(カレックス)が入賞し、中上はタイトルに向けて順調なスタートを切った。
また、KTM製シャーシのニューマシンを使うミゲール・オリベイラ(KTM)が4位と初投入のマシンとしては上々のスタートを見せた。
昨年の後半から調子を上げ、今年の開幕前テストから好調だったアレックス・マルケス(カレックス)は予選2番手からスタートしながら、4位に終わったが、着実に上位に食い込むようになった。
長島哲太(カレックス)はカタールは19位でゴール。2014年以来、2度目のMoto2フル参戦となるが、2年間のCEV(スペイン選手権)Moto2クラス参戦で実力は確実に上がっており、入賞の期待は高い。
Moto3クラスでは、フル参戦2年目のホアン・ミル(ホンダ)が優勝した。ミルは昨年のオーストリアGP以来となる通算2勝目。昨年のアルゼンチンGPでは5位に入賞している。
カタールで2位に入賞したのはジョン・マクフィー(ホンダ)。今年からブリティッシュ・タレント・チームに加入し、再びホンダNSF250RWを駆ることになった。
3位のホルヘ・マルティン(ホンダ)は今年からホンダにスイッチ、初戦で表彰台に立った。4位にアロン・カネト(ホンダ)、5位にロマーノ・フェナティ(ホンダ)が続き、開幕戦ではホンダ勢がトップ5を独占。
日本人ライダーでは佐々木歩夢(ホンダ)がルーキートップの11位に入賞。今年からホンダにスイッチした鈴木竜生(ホンダ)は15位入賞で1ポイントを獲得し、ルーキーの鳥羽海渡(ホンダ)は19位完走でグランプリ初レースを終えた。テルマスはルーキーの佐々木と鳥羽にとっては初走行のコースとなる。