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TVアニメ「サクラダリセット」川面真也監督インタビュー 原作独特の空気感をそのままに映像化したい

2017年04月05日 18:54  アニメ!アニメ!

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TVアニメ「サクラダリセット」川面真也監督インタビュー 原作独特の空気感をそのままに映像化したい
2017年4月から、テレビアニメ『サクラダリセット』の放送がスタートする。本作は角川スニーカー文庫で刊行されている同名ライトノベル(著:河野裕)を原作とした作品。
人の半数が特別な能力を持つ街・咲良田(さくらだ)を舞台に、過去に体験したすべての記憶を思い出すことができる「記憶保持」の能力を持つ浅井ケイと、世界を最大3日分巻き戻す能力「リセット」を持った春埼美空が力を合わせて過去を変え、世界を変えていこうとする物語が展開する。

今回、アニメ『サクラダリセット』で監督を務める川面真也にインタビューを敢行。コミカライズや実写映画化も行われている本作をアニメでいかに表現していくのか、繊細な高校生の感情をどう見せていくのか訊いた。
[取材・構成:ユマ]

『サクラダリセット』
http://sagrada-anime.com/

■原作を読んで感じた雰囲気をそのまま活かしたい

――まずはどのような経緯で『サクラダリセット』に関わることになったのか、教えてもらえますか。

川面
以前david productionが制作した『ジョジョの奇妙な冒険』をお手伝いしたことがありまして、そのとき津田さん(津田尚克ディレクター)と連絡を取り合っていました。その縁があって、『サクラダリセット』を制作することになった際、david productionからオファーをいただいた形です。

――河野裕さんによる原作小説を読まれて、どんな印象をお持ちになりましたか。

川面
お話をいただくまで原作のことは存じ上げておらず、この仕事を受けることになってからあらためて読ませてもらいました。読んでみると青春群像劇やSFといろいろな要素が折り重なっており、「これらの要素を積み重ねていったらどうなるんだろう」と興味を惹かれましたね。すると終盤の2、3巻でストーリーが怒涛の展開を見せて、構成がとても面白かった。

――怒涛の展開、というのはアニメでも活かされるのでしょうか。

川面
そうですね。原作の良さは極力削がないように作っていきたいです。テレビアニメだとどうしても尺が限られてしまいますが、特に後半の展開はしっかりと見せられるように構成を組んでいます。

――2クールだとじっくりと描ける部分も多そうですよね。ちなみに、2クールというのは最初から決まっていたことなのですか?

川面
オファーをいただいたときにはすでに決まっていましたね。本当にさまざまな要素が入り組んだ作品なので、4クールはほしいくらいですけどね(笑)。

――さまざまな要素が入り組んでいる原作小説をアニメ化するうえで、一番のポイントとなったのは何でしょう。

川面
『サクラダリセット』に限らず、基本的に僕は原作通りにやりたいと考えているので、原作を読んだときの印象、感じたままの雰囲気を活かすことはいつも考えています。先ほどお話した構成にもつながってきますが、ストーリーの流れも変えないように心がけています。でも一番のポイントとなると、やはり作品全体をとりまく雰囲気ですね。


――『サクラダリセット』にある雰囲気とは、具体的にどのようなものでしょうか。

川面
主役の3人、ケイと美空、菫が持っている空気感は、ほかのキャラクターとは違うんですよね。見ているところが遠いというか、高校生とは思えないくらい達観していて、遠くの場所を目指して一歩一歩進んでいっているんです。目の前にある出来事を解決している最中でもなにか別のところを見ている。各々のキャラクターが持つ視線の先の違いが、作品の雰囲気を形成していると思います。

――ケイや美空は特殊能力の持ち主でもあります。こういった境遇の違いも影響しているのでしょうか。

川面
いえ、どちらかというと自分たちの生き方とか、高校生らしく模索しているからだと思います。実際の高校生も実際にさまざまなことを考える時期です。彼らは確かに特殊な境遇ではありますけど、テストのこととか、将来のこととか、常になにか悩みがつきまとっている、思春期らしさも持ち合わせているんです。

――特殊能力に目がいきがちですが、人物の繊細な部分を意識していると。

川面
そうですね。人物の性格や個性を反映しつつ、物語上で起こる事件も見せていく。特に前半はこの2つを軸に、バランス良く見せていきます。逆に後半はキャラクターの心理的な描写も細かく見せていきたいですね。

――なるほど。とはいえ本作ではキャラクターが持つ能力も重要なポイントとなりますよね。

川面
本作における能力は、どれもそのキャラクターが望んでいたものなんですよね。この設定からしても、高校生の生き方がカギを握っているのだと感じました。だから事件は原作の通り描くものの、演出という意味では極力抑え目にしています。

――能力を全面に押し出すのではなく、あくまでも事件を中心に描いているんですね。

川面
作品の中で起こるひとつひとつの事件がミステリーの要素を持っていて、それをテンポよく見せていこうと考えています。


――シリーズ構成の高山カツヒコさんとも、その辺りは念入りに話し合ったのでしょうか。

川面
それはもちろんですが、なんとか原作の良さを2クールの中に収めようという話のほうがメインでした。高山さんも「原作通りにいきたい」という考えは同じで、尺に合わせて作り変えることはしたくありませんでした。原作が完成して、全体像が見えている以上はやれることをきっちりやろうとの意見で一致しました。

(次ページ:キャラクターの心情に寄り添った映像に)

■キャラクターの心情に寄り添った映像に

――原作の河野裕さんとはなにかお話はなさったのでしょうか?

川面
アニメの制作が始まる前からお話をしまして、咲良田の街で、作品に登場するキーワードについて聞かせていただきました。シナリオも毎回チェックしていただいています。

――原作では場面をセリフで説明するのではなく、行間を大切にしている印象がありました。それゆえこれをアニメで表現する難しさもあるではないかと感じました。

川面
本作は前半で起こっていた事件が、後半になると目指していた場所に結びつくための蓄積であるという大きな展開を持っている作品です。原作では行間が効果的に使われていますが、アニメで同じように間を取ると、視聴体験としてはむしろ冗長に感じてしまう。もちろん場面によっては間が大切になることもありますが、基本的にはテンポ重視で2クールを駆け抜けたいですね。

――2クールの長丁場となると、小気味よく見せることは重要ですね。

川面
現在はアニメファンの方々の視聴スタイルも変わってきて、2クールに渡って見ていくのが難しくなっていると思うんです。本作は後半へ進むに従って、徐々に物語の全貌が分かっていく作品です。2クール目に入って初めて分かる事実もたくさんあります。そうなると、序盤で飽きさせないことは特に意識しています。

――では、ミステリーの語り口を映像化する際の工夫はなにかありますか?

川面
尖った映像表現は使わず、できるだけキャラクターの心情に寄り添いたいと考えています。また音楽も効果的に使いながら、集中しやすい映像に仕上げるつもりです。

――原作はライトノベルですが、文字の情報からどのようにイメージを膨らませたのでしょう。

川面
僕の場合は音楽からですね。「こんな音楽が流れている世界だな」と考えるところから始まって、キャラクターデザインや声優さんが決まっていくに連れてイメージも大きなものになっていきます。

――デザイン面ではいかがでしたか。

川面
キャラクターデザインに関しては下谷智之さんというベテランで、しっかりした考えを持っている方が担当してくださったので、信頼してお任せしました。実際に出来上がったデザインも隙がなく、きっちりとしたデザインになっていると思います。


――そのデザインを実際に動かすアニメーターさんへは、何かオーダーなどありましたか?

川面
注意深くお願いしたのは、キャラクターの表情をつけすぎないことです。特にケイたち主人公は感情の動きがささやかなので、あくまでも自然な表情を見せてほしいのです。しかし喋っているときに、表情をつけたくなるスタッフの気持ちもとても分かります。そこをがんばって抑えてくれと、毎日言っています。

――やはりアニメーターの皆さんは、表情豊かなほうが描きやすいのでしょうか。

川面
そうだと思います。それと「こんなに無表情でいいのか」と、不安な気持ちもあるのかもしれません。しかしこれを崩すとキャラクターの性格もズレてしまうので、難しいところですね。

――無表情すぎてもいけませんからね。

川面
そうなんです。感情の起伏が少ないだけで、決して人形ではありません。そこは声優さんの声も含めて、あらゆる方法で感情を表現していこうという考えです。声を聞けばスタッフもイメージしやすくなって、2話以降が楽になった印象がありました。

――キャストについてはどのように決めていったのですか?

川面
決め打ちではなくオーディションで、実際のセリフを話してもらい決めていきました。ただ、どの声優さんも悩んだことはなく、スムーズに決まっていった印象でしたね。ケイ役の石川界人さん、春埼の花澤香菜さんは感情を抑えての演技がとてもうまく、作品とも非常に合っていると感じています。わざとらしくなく、自然と感情を殺せるのは重視していました。悠木(碧さんが演じる菫に関しても、全部分かっているのに知らない風に喋るという裏芝居が多いキャラクターで、悠木さんの含みを込めた芝居は誰でもできることではないと思います。

――アフレコ時のディレクションなどはいかがでしょう。

川面
原作をしっかりと読み込んでいて、こちらからお願いすることもほとんどないくらいです。ケイ、美空、菫の3人の会話シーンは、本当に聞いているだけで収録が終わります。

――キャラクターの感情を表現するという意味で、そのほかにこだわった個所はありますか?

川面
色使いと言いますか、シリアスなシーンや目的地が分かりにくい会話の場面では細かく天気を変えています。天気の違いで色味も変わって、それは本当に気づくか気づかないかレベルの些細な違いですが、手数を増やして感情を表現するように心がけています。人物の表情や声だけでは見せきれない心情を、色から伝わる細かい情報の蓄積で表現していきたいです。

――本作では咲良田という架空の街が舞台になっていますが、こちらも作品を作る上で大切な要素だと思います。

川面
地に足の着いた舞台が良いと思うので、地方都市らしくかつ古いものと新しいものが混ざっている街を作り上げていきました。能力が生まれた街でありながら、あくまでも現実と寄り添った、どこかにありそうな都市に仕上がっています。ロケハンもしましたが、そのまま再現というわけではなく、あくまでもイメージを膨らませるためです。

■極端な話、アニメを見ながら寝たくなってもいい

――川面さんはこれまでにもさまざまな作品を手がけてきましたが、以前の作品と『サクラダリセット』で作り方に違いはありますか?

川面
僕の中ではあまりなくて、演出上の作り方も共通しています。ただ作品をとりまく雰囲気が独特なので、楽しみながら作れています。

――川面監督というと『のんのんびより』や『田中君はいつもけだるげ』など、ゆったりとした空気感を持った作品が多いですよね。

川面
自然とそうなっているだけなんですけどね(笑)。僕の考えとしては、アニメは音と色の波であり、視聴体験によって波を感じて気持ちよくなってほしいのです。気持ちよくなるといってもさまざまな形があると思います。極端な話、アニメを見ながら寝たくなってもいい。ヒーリングというか、それもまたアニメによって気持ちがよくなった証明でもありますから。

――その考えは『サクラダリセット』にも反映されているのでしょうか。

川面
キャラクターの言動から自分の思春期を思い出したり、そういう意味では僕の過去の作品とベクトルは違いますが、根付いていると思います。メインキャラクターの3人は各々が悩みを抱えていますが、その悩み方がとても真摯で、ピュアすぎるくらいにピュアなんです。そういう人たちを見て勇気付けられてもいいし、もちろん全体に流れる空気感に身を委ねてもいいし、人それぞれの体験があっていいと思います。


――作品の雰囲気を作り上げるためには主題歌も欠かせないと思います。

川面
牧野由依さんのオープニングテーマはタイトルからして「Reset」で、作品に寄り添った内容で嬉しかったですね。僕自身は原作に合わせてほしいという、大まかな要望しか出していなかったのですが、とても良い楽曲になっていると思います。THE ORAL CIGARETTESのエンディングテーマは春埼の目線で描かれた歌詞が特徴で、作品の物語を理解していくにつれて、楽曲の意味も深まってくると思います。

――分かりました。では最後に、あらためてファンの方にはどんなところに注目してほしいか教えてください。

川面
声優さんはもちろんスタッフにも信頼のできる人が集まったので、まずは第1話を楽しみにしてほしいです。とにかく見やすく、原作を知らない人でもすぐに入れるように序盤を作っていますので、初見でも楽しめるはずです。そしてなんといっても、物語が大きく動く2クール目に期待してもらえると嬉しいです。いろいろな伏線が散りばめられて、それが最終話に向かって収束していきます。さらにアニメを見た後には原作を読むと、さらに10倍の伏線が隠されています。アニメだけで終わらず、原作も合わせて楽しんでもらえると新たな発見もあると思います。

――ありがとうございました。