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キングコングの“全力大暴れ”が気持ち良い! ダースレイダーの『キングコング:髑髏島の巨神』評

2017年04月05日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

『キングコング:髑髏島の巨神』

 とにかく思いっきりが良い作品です。うじうじした気持ち、もったいぶった気取り、思わせぶりな仕草などは、初っ端から全部吹き飛ばします。もうスコーンと気持ちよいくらいに吹っ飛ばしてくれます。悩みは無用! くよくよするなよ! キングコングが大暴れしてくれるぜ! 爽快な気分を体験しに行くなら、本作を劇場の大画面で、爆音で味わうに限ります。


 原題の“SKULL ISLAND=髑髏島”は、ジョーダン・ボート=ロバーツ監督が手掛けた本作の決意表明です。キングコング作品は、1933年の1作目『キング・コング』から2005年のピーター・ジャクソン監督によるリメイク『キング・コング』まで、基本のストーリーは髑髏島でのキングコング捕獲を巡る活劇と、キングコングが大都会・ニューヨークに連れて行かれて大暴れの2段階構成です。前段でコングの怖さ、強さをアピールして、後段ではその悲劇ーー文明社会への批判だったり、自然と人間の関係性の悲哀が描かれていきます。


 ところが本作では、思い切ってこの前段だけで1本の作品にしています。後段はたしかに話を展開させる要素は多くあるのですが、冒険活劇としての面白さは圧倒的に前段に詰め込まれています。なので、後段でどうしてもトーンダウンしてしまう。というか、キングコングの物語自体が「知られている」話であるため、予定調和に感じられる可能性もあったと思います。もちろん、「そこをどう語るのかが腕の見せどころ!」という考え方もあるのですが、これに関してはピーター・ジャクソン監督がすでに3時間の長尺作品にしています。同作では、前段の冒険活劇も余すところなく描いた上で(あの谷底の虫たちのおぞましさ!)、後段のドラマもたっぷり丁寧に語り尽しています。実際、この作品があるにも関わらず、もう1回やる意味があるのか?と予告を観た時は素直に感じたものです。もうキングコングは当分お腹いっぱい、のはずでした。


 そんな満腹のお腹に、もう一発コングをぶち込む秘策こそが、ロバーツ監督の“思いっきりの良さ”でした。本作は始まるとすぐにコングがその雄姿を現します。調査隊が髑髏島に上陸するやいなや、コングとの激闘が火花を散らします。どれくらい火花を散らすかと言えば、もういきなり『地獄の黙示録』が始まるわけです。本作の時代設定はベトナム戦争終結直後。冒頭から70年代のご機嫌なサイケロックが爆音で鳴り響き、気持ちを煽りに煽り、調査隊を護衛する米軍のヘリが次々とコングに挑みます。31.6メートルの巨大なコングと対峙する米軍ヘリ部隊。キングコングの全力大暴れが画面から突き出る勢いで炸裂し、出し惜しみは一切ありません。


 このシーンが頭にある事で、この作品は強烈なジェットコースター・エンターテイメントだとわかります。そして、この後もほぼ途切れることなくアクションがこれでもか!とつるべ打ちになります。サミュエル・L・ジャクソンが十八番の狂気を存分に滲ませた軍人役、トム・ヒドルストンがクールなサバイバルの達人、ブリー・ラーソンが血気盛んな戦場カメラマンとして登場しますが、湿っぽい人間ドラマは極力排除されています。


 もちろん、髑髏島という巨大生物がひしめく環境下での人間の弱さ、あるいは途中で明かになっていくある人物のストーリーなどで垣間見せてくれる情感はありますが、映画自体はキングコングの剛腕と共に推進していきます。剛腕一発勝負の思いっきり。対決する巨大な生物たちも実に思いっきりの良いビジュアルをしています。スカルクローラーのビジュアルは『千と千尋の神隠し』の「カオナシ」だったり『エヴァンゲリオン』の「使徒サキエル」がモデルだと監督が公言しているように、わかりやすく「グロ」いです。(参考:『キングコング』監督が語る、日本のポップカルチャーとコングの関係性)


 邦題もまた決意表明に一役買っています。髑髏島の“巨神”。本作におけるキングコングは怪物=モンスターではなく、巨大な神的存在として描かれています。これはゴジラなどの怪獣と共通する描き方ですが、それもそのはず。本作はレジェンダリー社制作の映画の共通世界である「モンスターバース」の一角を占めるのです。「モンスターバース」の住人には、ギャレス・エドワーズ監督版の『GODZILLA ゴジラ』もいます。本作の調査隊はモナークという機関なのですが、『GODZILLA ゴジラ』で渡辺謙演じる芹沢猪四郎博士もモナーク所属の生物科学者でした。


 そして、すでに本作に続く「ゴジラVSキングコング」企画が進行中だと発表されています。マーベル映画に続く、オールスター興行が待っているわけです。なので、マーベル映画同様に「絶対に」エンド・ロールが始まった瞬間に帰らないようにしてください。というか、この作品に限らずエンド・ロールはそこで流れる曲も含めて作品の一部なので、映画の最後の余韻まで含めて、是非楽しんで欲しいものです。(DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup)


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