ハイテックから参戦する牧野任祐 F1への登竜門として注目されるFIAヨーロピアンF3選手権(ユーロF3)に2017年シーズン、牧野任祐と佐藤万璃音、ふたりの日本人ドライバーが参戦する。両名も参加した開幕前のオフィシャルテストを取材した。
近年のモータースポーツはカテゴリー、チャンピオンシップを問わず、費用抑制を目的にテスト機会が規制・減少される方向にある。
今回採り上げるヨーロピアンF3選手権も同様で、プライベートテストやオフィシャルテストは、『FIAフォーミュラ3 ヨーロピアン・チャンピオンシップ・スポーティングレギュレーション』の第22条によって実施の時期と日数などが細かく定められている。
以前は“F3モドキ”のマシンを使用することで、競技規則の抜け穴を突くプライベート・テストも横行していた。しかし、現在はFIA国際自動車連盟がこうした規制逃れを厳しく取り締まり、当該シーズンの技術規則に準拠した車両でのテストしか認めていない。
このようにテストを制限するのは、潤沢な資金の下で費用を際限なく投下できるドライバーやチームと、費用を抑制したいと考えるチームの公平性を保つためだ。
ユーロF3の直近のプライベートテストは、2016年シーズン終了後から16年12月半ばまでの間と、17年シーズンの1月半ばから3月半ばまでの間に実施された。サーキットはヨーロッパ域内で天候が安定し、比較的温暖で翌シーズンのレース開催が予定されていない、スペインやポルトガルが選ばれる傾向にある。
スペインならバルセロナ(カタロニア・サーキット)は定番で、ほかにヘレスやバレンシア。ポルトガルならエストリルといった具合だ。
17年シーズンに向けたオフィシャルテストは開幕を控えた3月下旬、ハンガリー・ハンガロリンクとオーストリア・レッドブルリンクで各2日間にわたって実施された。
ちなみにシーズン中は、イタリア・モンツァの第2大会直前とベルギー・スパフランコルシャンの第6大会直前に、それぞれ1日間のオフィシャルテストが設けられている。
プライベートテストに関しては、単独もしくは複数のチームが特定のサーキットの走行枠を買い取り、自由に所属ドライバーを走らせる。前述のとおり、当該シーズンの技術規則に準拠していれば、テストメニューやタイムテーブルは制限されない。
一方、オフィシャルテストに関しては、来たるシーズンに参戦する全チームが当該サーキットへ集い、テストメニューやタイムテーブルはFIAの管理下に置かれる。
モトパークのピットガレージ内パーテーション・ボードに貼られたタイムテーブルには、『TEST SESSION WITH TEST TIRES』、『TEST SESSON WITH OFFICIAL TIRES』、『LUNCH』、『Marshalling System Test(use of test tires)』、『TEST SESSION』、『Practice Start(use of test tire/tires)』という文字が見て取れる。
各テストメニューを説明しよう。まず、『TEST SESSION WITH TEST TIRES』はプライベートテストの一環で、ドライバーとチームは新品タイヤを制限なく履いて走行することができる。
こうしたセッションを設ければ、路面ができあがるまでコースインを控えるドライバーは少なくなり、次に控えたオフィシャルテストの『TEST SESSION WITH OFFICIAL TIRES/TEST SESSION』で思いきり走れる路面が整うというわけだ。
その『TEST SESSION WITH OFFICIAL TIRES/TEST SESSION』で1日間で使えるタイヤはドライ2セット、ウェット1セットに制限される。ただし、未使用のタイヤは次のオフィシャルテストへの持ち越しが可能。
『LUNCH』は文字どおり昼食。ヨーロッパのモータースポーツ環境では、レースだけでなくテストでもきちんと昼食の時間がタイムテーブルに明記される。日本でタイムテーブルに昼食が表記される例は稀で、このあたりにヨーロッパと日本の“文化”の違いが感じられる。
『Marshalling System Test(use of test tires)』は、F1世界選手権でも導入されている競技進行を円滑・公平化するデバイスのテスト。
システムはF1とほぼ同じソフトウェア、ハードウェアを導入し、アクシデントなどでフルコース・イエロー(FCY)となった際に使用される旨が、ユーロF3スポーティング・レギュレーションの第40条で定められている。
当該デバイスについて、ユーロF3では17年シーズンからの導入が予定されているものの、ハンガロリンクでのオフィシャルテストで、某チームのエンジニアは「機能しないのではないか?」との懸念を示した。実際にドライバーも「85km/hのリミッター解除に手間取った」と証言するなど、F1で導入された当初と同じトラブルが発生しているようだ。
最後の『Practice Start(use of test tire/tires)』は、シグナルを使用したスタート練習で、20分間にわたって実施される。
スタンディングスタートはクラッチを傷めるため、セッションは各日ともテストの最後に設けられており、ドライバーによっては4、5回練習に臨んでいた。
こうしたシステマチックなオフィシャルテストのやり方は、日本でも積極的に検討したり採用したりする必要があるかもしれない。