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顔面に無数の洗濯バサミも! 松井玲奈が『笑う招き猫』で見せた熱すぎる女優魂

2017年04月04日 16:03  リアルサウンド

リアルサウンド

『笑う招き猫』(c)山本幸久/集英社・「笑う招き猫」製作委員会

 主演の清水富美加の一連の騒動で、一時期は放送も危ぶまれたドラマ『笑う招き猫』(TBS系)が予定通りに放送開始された。世間が注目した本作で、予想外の活躍をしているのが主人公の相方役の松井玲奈。女優に転向して久しい松井だが、まさに体を張った体当たり芸を見せている。


『笑う招き猫』予告編


 4月29日に同名映画が公開される本作は、小説すばる新人賞を受賞した山本幸久による人気同名小説(集英社文庫刊)を、『荒川アンダーザブリッジ』や『ランドリー茅ヶ崎』の飯塚健監督が手がけた、女漫才師を描く青春物語。ドラマでは、映画版と同じく清水富美加と松井玲奈を主演に迎え、独自の解釈で全4話が制作された。出会って7年、コンビを組んで5年の若手漫才コンビ「アカコとヒトミ」。ツッコミ担当のヒトミ(清水富美加)とボケ担当のカナコ(松井玲奈)はともに27歳。彼女たちが、お笑いの世界で奮闘し、挫折しながらも固く結ばれた女の友情のもとに夢を追いかける。最近では『ディアスポリス』や『お前はまだグンマを知らない』など、劇場版への助走と宣伝を兼ねて、登場人物のバックボーンをあらかじめ紹介するドラマが作られることが少なくない。今回も映画の前日譚となるふたりの青春劇や漫才が見られるかと思いきや、ドラマ『笑う招き猫』は予想を裏切る異質なドラマ作りとなっている。


 アカコとヒトミの日課は、売れる足がかりを掴むために、所属事務所のネットチャンネルに動画を投稿すること。ふたりに加え、幼なじみの蔵前真吾(落合モトキ)と大島洋次(荒井敦史)が協力し、伸び悩んでいる動画チャンネルの再生回数を増やすために、お笑い動画を制作する、というのが現段階でのドラマの内容。つまり、ふたりが出会ったいきさつや芸能界での苦悩など、ドラマらしいストーリーは描かれず、ひたすらユーチューバーのごとくおもしろ動画を制作する過程が見られる。爆破ドッキリや、おでこでボウリングの玉を止めるなど、体を張った芸の動画をアップ。結局再生数は伸びず「こんなことしてるんだったら漫才の練習した方が良くない?」と言って、ふたりが漫才の練習をしているシーンで終わるというのが毎回のパターンだ。


 正直このドラマは、以前よくあったウェブ限定のドラマのスピンオフや、DVD特典映像のような特別編的なノリが感じられる。見る側も、感情移入するのではなく、ノリで何となく楽しむドラマなのだろう。同時に、本ドラマの間に流れる映画版『笑う招き猫』の告知の中に登場するアカコとヒトミの熱さに、期待を膨らませつつ、普段着の彼女たちを楽しんでいる状況だ。


 しかし何と言っても、掴みである第1話で、あの松井玲奈がここまでやるか! と見る者を唖然とさせた女優魂がすごい。まずは寝起きドッキリなのだが、寝ているアカコを拉致し、布団に入ったまま起こさないように空き地へ連れて行く。そして、伝説のお笑いウルトラクイズや『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の早朝西部劇を彷彿とさせるようなネタ、爆破で目覚めさせるのだ。バラエティのドッキリ番組などでよく見る、地面に置いた固定カメラの下からのアングルで、アカコ越しの大爆破の映像はかなり迫力があり面白いことになっている。リアルかCGなのかは置いといて、想像以上の大爆破で、顔を墨で汚し泣き崩れる松井の姿は、まさに満点のリアクションだった。


 そして衝撃だったのが、顔に無数の洗濯バサミを付け、紐で繋がったペットボトルロケットを飛ばし、勢い良く顔面の洗濯バサミが取れるというもの。その瞬間をいろんな角度から松井の顔面が撮らえていたので、数テイク行われたのだろうか? アップなので肌がしっかり引っ張られる様子も見られ、演技という次元ではないリアクション芸は、良い意味で松井はやりすぎだろうと感心させられてしまう。もちろん痛さを表現するだけではなく、引っ張られた時に大絶叫しながら苦悶の表情を浮かべる顔をどアップで見せるという女優魂。


 松井はAKBグループ卒業後に、数々のドラマや舞台で役者としてのキャリアを積んでいる。また、ドラマ『ニーチェ先生』(日本テレビ系)や、飯塚監督の『ランドリー茅ヶ崎』など、ギャグ系の作品にも挑戦しており、コメディエンヌとしても違和感のない女優に成長しているのは感じていた。しかし、まさかリアクション芸人顔負けのことまでやってしまうとは、正直驚きである。眉毛まで抜けてしまうその姿はもうSKE時代の面影を感じさせないほどだ。松井の新たな一面ではなく、松井が女優として限界突破した作品だと言えよう。


 同時にこの作品を見て、改めて清水は自然な演技やリアクションがうまい女優だと感じる。何でもない会話や、仲間内で悪のりしている時の自然にかけ声を口ずさむような仕草などは、よくいる若者そのものだ。ちなみに2話では清水のターン。転がって来るボウリングを頭で受け止めたり、自分の自転車を駅前に放置し、誰かが持ち去るのを遠くからモニタリングしたりしていた。焦りやドキドキ感を表情のみで表現し、セリフ重視のリアクション芸を見せ、演技の中でも大げさでない本気を表現。女優として、かなり難しい演技が求められる回であったが、清水は見事にこなしていた。


 そんな自然なリアクション演技を見せる清水と、女優魂を見せつけている松井という、魅力的なコンビが演じる本気の漫才がいかなるものか、映画が俄然楽しみである。見た目が対照的なコンビは、今後女優としても良いライバル関係にもなりそうだったので、やはり色々ともったいない。


 今回の松井の演技はどうかと言えば、ドラマ版では一番重要な漫才は見れないし(練習風景はある)、ドラマ『火花』や映画『二人が喋ってる』のような漫才師としての葛藤を排除したライトな内容なので、正直未知数である。しかし、松井と相性の良い飯塚監督がハプニング的な映像を仕掛けることによって、彼女のアドリブを活かした演技を巧みに引き出している。髪を金髪に染めた若干ヤンキー風の出で立ちで、仲間たちと楽しそうに様々な動画を作り上げていく姿は、とても輝いており、映画版とはまた違ったひとつの青春劇だ。今後どんな過激な企画で笑わせてくれるのか、またふたりの漫才シーンはドラマでも見られるのか、映画に繋がるこれからの展開に注目したい。(文=本 手)