WEC世界耐久選手権は4月2日、イタリアのモンツァ・サーキットで開幕前テスト“プロローグ”の走行2日目を迎えた。
昨夜からの雨が残り、走行直前まで小雨模様だったモンツァ。セッション前にはホームストレート上を、ジェットドライヤー付きの車両で乾かす様子も見られた。開始直前には、雨は完全に上がっている。
ウエットトラックが宣言されるなか、気温12度、路面温度13度で午前9時のセッション開始を迎えた。LMP1-Hでは、ポルシェ1号車がニール・ジャニ、2号車がアール・バンバー、トヨタ7号車が国本雄資、8号車が中嶋一貴で走行をスタート。各車1分43~45秒ほどのペースでラップを重ねていく。トヨタ勢のタイヤはウエットだ。ダンロップを履くLMP2勢はカットスリックでコースに出ていった。
路面は徐々に乾いていっているようで、開始15分すぎには一貴がインターミディエイト(IM/溝なしのハイブリッドタイヤ)へと交換、続いて国本もピットに入ってIMへとタイヤチェンジ。一貴は39秒台までタイムを上げていったところでピットに入り、アンソニー・デイビッドソンへと交代した。なお、国本は午前、午後のセッションともに30周以上のロングランを行う予定。
路面コンディションが改善すると、各車はスリックへと交換していく。
開始1時間を過ぎた時点でのトップタイムはポルシェ2号車の1分33秒8。昨日のベストタイムから約2.5秒落ちというところまで路面状況は回復してきている。
ただし、このコンディションを嫌ってか、LMP1-H以外の多くのマシンはガレージにとどまっている。午前10時時点で計測を行なっているのは、13台のみだ。
10時18分、サーキットに薄陽が射してきたタイミングで、7号車国本がピットイン。朝からの45周に及んだ走行を終えて、小林可夢偉へとバトンタッチした。8号車も同じタイミングでふたたび一貴にドライバーチェンジを行なう。
トップタイムはポルシェ1号車の32秒0。10時40分に2号車はバンバーからブレンドン・ハートレーへとドライバー交代。バンバーはひとりで60周を走り込んだ。
その直後、ポルシェ1号車がコース上でスロー走行となり、こちらもセッション開始からドライブを続けていたジャニがゆっくりとピットへ帰ってくる。しかし大きなトラブルではなかったようで、アンドレ・ロッテラーへと交代するとすぐにコースへ戻っていった。
路面が乾ききったことで、徐々に計測を行なうマシンも増え、コース上は昨日午後のセッション以来の賑わいを取り戻した。ただし、太陽はふたたび雲の中に隠れてしまっている。
■WEC初フル参戦の澤圭太も「90~95点の仕上がり」と手応え
そんななか、GTEアマクラスの61号車クリアウォーター・レーシングでは澤圭太もステアリングを握り、自己ベストタイムを塗り替えていく。
澤はセッション終了直後、「正直、まだ100(点)のうちの90(点)とか95(点)くらいの仕上がりだと思うんですが、エースのマット(グリフィン)さんがクルマをよく知っているし、AFコルセの他のチームとデータも共有できている。僕もクルマや新しいコースに慣れるのに時間がかからない方なので、問題なく進めることができています」と、初のWECフル参戦に向けた状況を語った。
12時にセッション終了。積極的かつノートラブルの走り込みで、ポルシェ2台はそれぞれ100周以上をこのセッションでこなした。一方トヨタの2台も約コンマ5秒以内で続いており、相変わらず僅差の戦いとなっている。
LMP2では28号車TDSレーシングがトップタイム。GTEプロクラスはポルシェワークスの2台が1000分の8秒差でワン・ツー。GTEアマでは54号車フェラーリがクラストップに立っている。
インターバルの間に行なわれたピットウォーク時には太陽が降り注いでいたものの、14時の最終セッション開始時には薄い雲がサーキット上空にかかる状態に。気温18度、路面温度26度というコンディションで最後の走行がスタートした。
ポルシェ1号車はニック・タンディ、2号車はベルンハルト、トヨタ7号車はマイク・コンウェイ、8号車はラピエールで走り始める。ここでニュータイヤ&軽タンでの予選シミュレーションを行なったラピエールが、1分30秒547という他を圧倒するタイムでトップに立つ。
その後は太陽も顔を出し、気温が上昇するなか各チーム順調に周回を重ねていった。トヨタ7号車はコンウェイのあと、国本、可夢偉の順でドライブしたが、開始2時間を過ぎたところで可夢偉が7号車のベストタイムをマークしている。
■国本雄資も「収穫のあるテスト」と好感触
16時15分頃から、トラックには雨粒が落ち始める。空は明るく、完全に路面を濡らすまでには至らなかったが、ターン6出口でLMP2クラスの4番手につけるアルピーヌ36号車がコースアウトし、バリアにクラッシュ。マシン回収とバリア修復のため、セッションは赤旗中断となった。
16時35分にグリーンフラッグが振られたものの、小雨降るコンディションのためか各車は待機の状態となるが、やがてトヨタ7号車の可夢偉、8号車の一貴が相次いでコースイン。トヨタの2台のみがチェッカーに向けて『占有走行』する形となった。
17時にセッション終了。結局、このセッション序盤の8号車ラピエールのタイムが、2日間の全体ベストとなった。
このセッション、LMP2ではジャッキー・チェンDCレーシングの38号車が、GTEプロでは67号車フォードGTが、GTEアマでは澤の駆る61号車フェラーリが、それぞれクラスベストをマークしている。
走行を終えたトヨタ8号車の中嶋一貴は、前回のアラゴン(プライベートテスト)、そして今回のモンツァと走らせたローダウンフォース(ロードラッグ)仕様の仕上がりについて、「悪くないと思います。シャシー、パワートレイン含めて、基本的に順調にいっていると思います。仕上がりは80~90%くらいでは」と評価。
「(昨年まで開幕前テストが行なわれていた)ポールリカールに比べるとモンツァの方が(ロードラッグ仕様に)合っているというのもありますが……プロローグで『いい感じ』で走れるのは初めてですからね(笑)」
「昨年まではスパやル・マンに行かないと分からなかった部分が、ちゃんといい位置で戦えそうだな、というのは確認できました」と明るい表情でテストを終えた。
注目のルーキー国本は2日目の走行を「ウエットからダンプ、ドライと変わるなかでマージンを持って走っていたんですが、徐々に攻めていきました。タイヤの切り替わりのタイミングやトラフィック(の処理)も含めて、本当にいろいろと勉強できて、とても収穫のあるテストになりました」と振り返った。
レースデビューとなる第2戦スパではトヨタ勢のなかで唯一ロードラッグ仕様のマシンで臨むことになりそうだが、「いままでは耐久テスト中心でしたけど、今回はクルマを速くするという作業も加わってきて、チームメイトからいろいろと聞きながらそれができた。少しずつ慣れてきたし、ここからうまく自分の中で整理して、スパに臨みたいと思います」と、前を見据えている。
WECは2週間後、イギリス・シルバーストンで開幕戦を迎える。パドックの関係者は、「See you in Silverstone!」とお互いに挨拶し、つかの間、それぞれの場所へと戻っていった。
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auto sport 4月14日発売号では、注目のトヨタ日本人ドライバーを中心とした戦力分析やポルシェとトヨタの新LMP1マシンの詳細、トヨタ7号車クルーの座談会企画など、WEC開幕直前プレビュー特集を掲載予定です。