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SHANKが今、求められている理由 地元・長崎を拠点とする自然体スタンスを考察

2017年04月01日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

SHANK

 SHANKの勢いが止まらない。もう10年以上の活動歴を誇る彼らだが、(いい意味で)落ち着くことなく、ますますキッズを惹き付けている。1月18日には、4thフルアルバム『Honesty』をリリースし、現在は全国津々浦々を6月まで廻り続けるツアーの真っ最中。さらに、『PUNKSPRING 2017』や『YON FES 2017』といった、この春に注目すべきフェスへも出演……という現状からは、彼らが“今、求められているバンド”であることがわかる。とは言え彼らは、気張ることなく、自然体のスタンスを貫いている。どんなステージに立っても、『Honesty』というアルバムタイトルさながら正直さでパフォーマンスする彼らからは、揺らぐことのない強固な土台が見える。その土台とは……彼らが生まれ育ち、今も生活する地元・長崎にあった。


 彼らが結成されたのは2004年のこと。メロディックパンクの御大であるHi-STANDARDは活動休止しており、ライブハウスでは、青春パンクやエモ、スカパンク、ギターロックなど、様々なジャンルがもみ合っていた。そんな中で彼らは、スカやレゲエの要素を取り入れたメロディックパンクバンドとして生まれた。現在の編成は庵原将平(Vo/Ba)、 松崎兵太(Gt/Cho)、 池本雄季(Dr/Cho) の3ピース。シンプルなメロディックパンクの黄金のトライアングルを想像させられる編成・パートだが、元々メロディックパンク以外の要素も柔軟に取り入れていたバンドだったのだ。そうなった理由にも、長崎という土地柄が関わっていると思う。地方のライブハウスは、東京のようにジャンルによってライブハウスが分かれていることは、それほどない。観聴きしていたあらゆる音楽を、自分たちのバンドに吸収してきた結果、この柔軟性が生まれたのではないだろうか。


 だが、メロディックパンクが沈静化している時期だったが故に、彼らに対して、メロディックパンクのニューヒーローになってくれるかもしれない! という期待を抱かずにはいられなかった。それに応えるように、若き彼らは、長崎に留まらず、全国各地のライブハウスでキッズを踊らせていくこととなる。しかし、その後も彼らは、拠点そのものは長崎から東京など大都市に移すことはなかった。


 上京せずに活躍しているバンドは、今や珍しくはない。2000年前後にMONGOL800が沖縄在住のままでメガヒットを記録した時には、世の中に衝撃が走ったが、それによって様々な活動のスタイルが認知されるようになったことや、インターネットが普及したこともあり、それぞれの地元など各地で活躍するバンドが増えた。最近では、新潟県上越市在住のMy Hair is Badや、大分県大分市在住のSIX LOUNGEといった若き才能が、地元から全国へ、その名と音を轟かせている。しかし、時代が進んでも、東京や大都市の方がバンドはやりやすいところはあると思う。ライブハウスが多いこと、メディアの中心地であることなどが、大きな理由として挙げられる。また、あらゆる意味で安心できる地元を出て自分たちにハッパを掛けたいという理由で、上京するバンドもいるだろう。


 しかし、以前に庵原にインタビューした時に、彼は、上京しても元気がなくなって帰ってくる奴がいっぱいいた、という話をしてくれた。そして、遊び心がないとバンドは続けられない、とも。もちろんバンドによって合う環境は様々だと思うが、バンドで売れたければ、バンドを続けたければ上京するべき、という方程式は、全てのバンドに当て嵌まるわけではない、と言える。それは、SHANKをはじめとした、今の時代において活躍するバンドが証明している。


 自然体な彼らの“隣の兄ちゃん”的な雰囲気は、彼らが長崎で『BLAZE UP NAGASAKI』というイベントを開催していることも、大きく関わっていると思う。“パンクな町興し”と言いたくなるような、ローカルな風景の中で開催される熱いイベントからは、“どんな場所でも楽しく活動していくには自分たち次第だ”というメッセージが聞こえてくるようだ。


 そして、楽曲においても自然体であることが、『Honesty』には表れている。The Beatlesのカバー「Don’t let me down」も、スカもレゲエもメロディックパンクもグランジも、あらゆるジャンルを昇華して、軽やかに3ピースで鳴らし切っているのだから。そして、歌詞にも〈壁を壊せ〉〈今 焚きつけろ〉〈結果を出せなかったら 俺たちは死ぬだけだ〉〈俺達は腐った情報に惑わされ〉〈お前を殴りに行く〉(全て和訳)などといった鋭利なフレーズがちりばめられ、何にも規制されずに伸び伸びと思いの丈を吐き出していることが伝わってくる。そして、オープニングを飾る「Surface」には、〈鍵は開けておくよ〉という一節も。いつでも飛び込んでこい、俺たちはライブハウスにいるーーそんな彼らのオープンマインドが見えるようだ。


 現在、彼らはツアー中。ぜひ、足を運んで自然体の彼らと、それによって解き放たれる自分自身を感じてほしい。(高橋美穂)