2017年04月01日 08:13 弁護士ドットコム
店の外観が似ていて、客に誤解を与えかねないため、不正競争防止法に違反するとして、すし居酒屋「や台ずし」を展開する「ヨシックス」(名古屋市)が3月中旬、すし居酒屋「磯丸すし」を運営する飲食チェーン「SFPダイニング」(東京都)に対して、損害賠償約470万円を求めて名古屋地裁に提訴した。
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磯丸水産を展開しているSFPダイニングは、2016年11月、横浜市で「磯丸すし」を開店した。ヨシックスによると、「磯丸すし」の看板の位置や字体、ガラスの引き戸などが「や台ずし」の店舗に似ているという。ヨシックスは「外観を模倣したものと考えられる」と主張している。
なお、弁護士ドットコムニュースが3月30日、「磯丸すし」(横浜西口南幸店)の店舗前の状況を確認したところ、現在の看板の位置や字体など、店の外観が大きく変更されていることがわかった。
今回の提訴のポイントはどこにあるのだろうか。井奈波朋子弁護士に聞いた。
「今回の提訴のポイントは、『や台ずし』の店舗外観が、消費者や業者などに広く認識されている『営業表示』に該当するかどうかです」
井奈波弁護士はこのように切り出した。どういうことだろうか。
「不正競争防止法は、周知性のある他人の『商品表示』や『営業表示』と、同一または類似の『商品表示』や『営業表示』を使用するなどして、他人の商品や営業と混同を生じさせる行為を禁止しています(同法2条1項1号)。
同号には、『商品表示』や『営業表示』として、氏名、商号、商標、標章、商品の容器や包装があげられています。店舗の外観も、これらに例示されているような『営業表示』とあつかうことができるのかが問題となります」
店舗の外観が「営業表示」に該当するか争われたケースはあるのだろうか。
「めしや食堂事件(大阪地裁平成19年7月3日判決、大阪高裁平成19年12月4日判決)があります。また、最近では、コメダ珈琲店事件(東京地裁平成28年12月19日決定)があります。
めしや食堂事件(大阪地裁判決)は、問題となった店舗の外観について、営業表示該当性を否定しましたが、一般論として、次のように判断し、店舗外観が営業表示になりうることを認めています。
『店舗外観は、それ自体は営業主体を識別させるために選択されるものではないが、特徴的な店舗外観の長年にわたる使用等により、第二次的に店舗外観全体も特定の営業主体を識別する営業表示性を取得する場合もあり得ないではない』
コメダ珈琲店事件は、仮処分決定ではありますが、同様の前提で、コメダ珈琲店の郊外型店舗の外観における特徴をとらえて、営業表示性を肯定した画期的な事件です」
こうした裁判例から考えると、今回のケースはどう考えられるのか。
「めしや食堂事件の地裁判決で言及されているとおり、店舗外観自体は、営業主体を識別させるものではありません。たしかに、チェーン展開している店舗では、店舗の外観に統一感を持たせているものが多く存在します。
しかし、このような店舗外観であっても、ただちに『営業表示』として認められるかというと、そうではありません。店舗の外観はある程度似たものになりがちです。ある店舗の外観を『営業表示』であるとすると、他店の店舗の出店を阻害することにもなりかねません。
そうすると、店舗の外観に関するアイデアを一営業主体に独占させることになってしまい、公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的を達成するどころか、むしろ公正な競争を阻害する弊害が生じてしまいます。
『や台ずし』についても、その店舗外観が、営業主体を識別するといえるほどの特徴があるのかが問題になります」
一般的な感覚からすると、「や台ずし」と「磯丸ずし」の店舗の外観は、たしかに雰囲気が似ているといえる。
「ただ、雰囲気が似ているからといって、ただちに、不正競争防止法2条1項1号にいう類似の『営業表示』を使用して混同を生じさせる行為にあたるとはかぎりません。
『や台ずし』は、看板の位置や字体、ガラスの引き戸が似ていることを問題としているようですが、看板を置く位置はどうしても限られてきますし、看板の字体が似てしまうこともありえます。また、ガラスの引き戸も、店舗に用いることは普通にありえます。
何か特徴的なものが似ているのであれば混同のおそれがあるということもできますが、そうでないものが似ていたとしても、混同を生じさせる可能性は低いと考えられます。
店舗の外観が『営業表示』に該当する可能性がありうるとしても、特定の店舗の外観が周知の『営業表示』に該当するとして、類似の外観を用いることを不正競争防止法違反によって禁止することは、実際にはハードルが高いといえます」
磯丸すしは、店舗の外観を変えているようだが・・・。
「裁判では、このまま争いを長引かせることが経済的に得策かどうかといったビジネス判断も働きます。そこで、法律的に主張が成り立つかどうかは別として、当事者が早期に和解で解決したり、被告が自主的に問題の部分を修正するということもありえます」
井奈波弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
著作権・商標権をはじめとする知的財産権、労働問題等の企業法務、家事事件を主に扱い、これらの分野でフランス語と英語に対応しています。ご相談者のご事情とご希望を丁寧にお伺いし、問題の解決に向けたベストな提案ができるよう心がけております。
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