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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ムーンライト』

2017年03月31日 22:03  リアルサウンド

リアルサウンド

『ムーンライト』(c)2016 A24 Distribution, LLC

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ3人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


参考:椎名林檎、河瀬直美、水道橋博士ら各界著名人が絶賛! 『ムーンライト』コメント公開


■『ムーンライト』


 リアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメする作品は、第89回アカデミー賞で作品賞に輝いた『ムーンライト』。


 学生時代にウォン・カーウァイの『天使の涙』を初めて観たときの衝撃が未だに忘れられない。日本公開時9歳だったので、リアルタイムで劇場で観れたわけではないが、再生できなくなるほど何十回もDVDの再生ボタンを押し、2本目のDVDを買い直した記憶がある。そこからどっぷりと彼の生み出す作品に惚れ込んでいき、自分にとってウォン・カーウァイは今でも大好きな映画監督のひとりだ。


 第89回アカデミー賞で『ラ・ラ・ランド』を押しのけて見事作品賞に輝いた『ムーンライト』を試写で観たとき、当時の感覚に限りなく近いものを感じた。主人公の背中を追っていくようなカメラワークをはじめ、タバコや電話、電車などのアイテム、美しいイメージをさらに際立たせる音楽など、ウォン・カーウァイの作品と共通するものが『ムーンライト』には多く含まれている。メガホンを取ったバリー・ジェンキンス監督自身もウォン・カーウァイからの影響を公言しており、ネット上では、『欲望の翼』『ブエノスアイレス』『花様年華』などのウォン・カーウァイ作品と、本作との類似シーンの比較動画も出回っているほど。


 もちろんその様な過去作品へのオマージュは含まれているのものの、これほどまでに映画の中に没入してしまう映画体験はそうそうない。自分は黒人でもセクシャルマイノリティでもないが、居場所を求め彷徨い続ける主人公の姿から、「これは自分の映画だ」と思ってしまった。そして本作が多くの人の心を捉える理由は、おそらくその普遍的なテーマにあるのだろう。


 本作の日本公開においては、当初4月28日公開予定だったものが、アカデミー賞作品賞受賞を受けて、急遽約1ヶ月前倒しになり、上映劇場も拡大しての公開になった経緯がある。映画ファンとしては、アカデミー賞で話題になった作品をいち早く観たいと思うのは当然だし(ノミネート作品の大多数が授賞式の時点で公開されていないのも大問題だと思うが)、様々な条件をクリアして公開を早めてくれた配給会社にも感謝したい。


 映画が1,100円で観れるファーストデイの明日の都内上映劇場の予約状況を見てみると、満席の回も多々確認できる。この様な作品がヒットすることは、今後の日本の映画界にとっても重要なことだと思うので、是非劇場に足を運んでいただきたい。


■『暗黒女子』


 高校生の頃、女子校に通っていましたが、“秘密の花園”とはかけ離れた生活感溢れる場所でした。そんなリアルサウンド映画部のゆとり女子・戸塚がオススメする作品は、『暗黒女子』。


 本作は、秋吉理香子の同名小説を、岡田麿里脚本で耶雲哉治監督が実写化したミステリー映画。ミッション系お嬢様学校である聖母マリア女子高等学院の理事長の娘で、全校生徒の憧れの的である“白石いつみ”(飯豊まりえ)が謎の死を遂げる。彼女が会長を務めていた文学サークルのメンバーに疑いの目が向けられる中、会長の座を引き継いだ親友の澄川小百合(清水富美加)は、メンバーたちに「いつみの死」についての小説を書かせ、闇鍋をしながら朗読会を開くのだった。


 「美しい花には棘がある」。なんと美しい映画なのだろうか。これが率直な感想です。もちろん、ゾクッとする恐ろしさや、思春期ゆえの傲慢さと自意識の強さ、女子の黒い部分など、“汚れ”た黒い塊で溢れかえった内容です。こんなにも、おぞましい作品なのに、どこか見惚れてしまう。同時に、その“美”が残酷さを増長させ、体温を奪っていきます。


 美しい女性キャストたちに加えて、この独特の世界観を醸し出しているのが、家具などの美術品と常にどことなく暗い照明。純粋無垢な女子高生を象徴するかのような、白とえんじ色の制服がとてもよく映えていました。また、主題歌含む音楽も素敵かつ最高です。そういった目と耳で楽しめる要素が強いのも、この作品の魅力のひとつ。真っ白だと思っていたものが、ジワジワと黒い染みに侵されていく。ここまで“暗黒”だと、もはや清々しい。ラスト24分は恐怖で鳥肌が止まりませんでした。が、やはりどこまでも美しい。


■『ハードコア』


 正直に言うと自分はFPSゲームが大の苦手です。子供の頃に友人宅でNINTENDO64の『ゴールデンアイ007』をプレイした際、寄ってたかってフルボッコにされてしまってから、FPSゲームには苦手意識というか、いじめ的なトラウマが芽生えてしまいました。さらに、3D酔いもしてしまうので相性最悪です。『007』をやっていた頃は、全体的にポリゴンのような画質で、正直臨場感もクソもあったものではないものでしたが、最近の『コール オブ デューティ』などのFPSゲームは大変リアルな映像になっているようで、実際のプレイ画面をYouTubeで見て、本当にゲームの中に入り込んでサバイバルに参戦しているようだなぁ、と思っていました。


 そんなFPSの世界観をそのまま映画に取り込んだのが、ドイツの監督・イリヤ・ナイシュラーが手掛けた『ハードコア』。交通事故で体の所々を失った主人公・ヘンリーが、妻と名乗る怪しい女性に損なった体のパーツをサイボーグ化する施術を受けるところから物語は始まります。体のパーツがすべて整って、これから声帯の手術をしようとしたところに、謎の武装集団が襲来、妻を奪い去っていきます。命からがら脱出したヘンリーが、サイボーグ化によって手に入れた超人並みの身体能力を駆使して、ド派手なアクション劇を繰り広げながら、妻を助けるために奮闘する様子が描かれていきます。


 サイボーグ化されたヘンリーは、とにかくすごい身体能力を備えており、それが一人称視点のカメラによってヘンリーの視点で物語は進行していきます。コンピューターで作られたキャラではなく、肉体を持った人間が演じているのでヘンリーが走るシーンや、ぶっ飛ばされるシーンなどは、カメラがグワングワンと揺れて、なにをやっているのかギリギリ理解できるくらいの映像がどんどん展開されていくのですが、それがまた、いままでにはない感覚で臨場感と高揚感を与えてくれるのです。


 映画ファンは、これまでに味わったことのない映画体験が経験できると思いますし、監督曰く、FPSゲーム好きが嬉しい要素もたくさん散りばめているようなので、ぜひゲーム好きの方にも観ていただきたい作品です。


(リアルサウンド編集部)