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WANIMAがさいたまスーパーアリーナで鳴らした“始まり”ーー石井恵梨子が成長の跡を辿る

2017年03月30日 17:33  リアルサウンド

リアルサウンド

WANIMA(写真=瀧本 JON... 行秀)

 遂に来た。2017年3月19日。WANIMAの全国ツアー『JUICE UP!! TOUR』ファイナル、さいたまスーパーアリーナ公演。


(参考:WANIMAのさいたまスーパーアリーナ公演のライブ写真はこちら


 発表があった半年前はもちろん興奮したし、我が事のように胸を張りたい気分だった。満員御礼が決まった時も当然ガッツポーズが出たが、しかし……。当日が近付いてくるにつれ私の中で現実感はなくなっていくのだった。


 これが幕張メッセならわかりやすかったと思う。いくら巨大とはいえ、あそこはガランと広いだけのフラットなハコだ。台場Zeppや豊洲PITなど、大型ライブハウスの延長としてスタンディングのフロアがあって、皆が同じ地平からステージを見上げれば良いのだ。だがスーパーアリーナはスタジアム規模の、椅子席が取り囲む巨大なホール。着席してWANIMA? 二階席から見下ろすWANIMA? 上手くイメージできないのは、これまでのWANIMAをずっとライブハウスで見てきたから。多くのキッズが同じ感覚だと思う。では彼らはなぜ、「ライブハウスの延長」と呼ぶには立派すぎるさいたまスーパーアリーナをファイナルの会場に選んだのだろうか。


 会場に入って、いきなりその答えがあった。大手メディアからずらりと届いた祝い花の群れ。テレ朝『ミュージックステーション』を筆頭に、これまで彼らが出演してきた数々の音楽番組、CS、BS、地上波を問わずに並んだテレビ局やラジオ局の名前は、控え目に言ってもこの国の中枢に位置するものばかりである。なるほど。現実的に考えれば、今のWANIMAはこういう大手メディアと絡みながら活躍しているバンドなのだ。


 バンドの人気と大手メディアの宣伝力。利用しているのはお互い様だし、もちろん綺麗事だけではないだろう。ただ、お互いに手を組み、凄まじい数のスタッフが水面下で動き、次々とWANIMAの新しさや魅力が提示されてきたのは事実。新年に話題をさらったCMなどはその最たる例だ。そう、WANIMAは決して「ライブハウスの流儀ひとつ」でこの日を迎えたわけではなく、関わるスタッフ全員にとって大事なのは「ライブハウスの延長で数万人が集うこと」ではないのだろう。日本が誇る一級のスタジアムで、満員の観客を前に、しっかりエンターテインメントできるのかどうか。この日のWANIMAに課せられていたのは、きっと、そういう命題だ。
 
 果たして、いつも通りライブハウスにいるような笑顔のまま、しかるべきところは堂々アリーナ対応になっていたのがこの日の彼らだった。SE「JUICE UP!!のテーマ」が鳴り響き、満面の笑顔で登場するKENTA、KO-SHIN、FUJIの3人。はち切れんばかりに元気な様子は変わらないが、ステージは勢い任せにあらず。いきなり炸裂する銀テープにもまったく動じないまま演奏が進んでいく。ブレることのない3人のコーラスワーク。「初めての人にも自己紹介します……谷間です」というKENTAの一言にFUJIが「見たーーーーーーい!」と被せていくMCのテンポの良さ、それをしっかり追っているカメラワークにも、プロ意識、のようなものが確かに感じられる。もはや3人だけで、偶然ここに立っているわけじゃないのだ。


 一曲ごとに変化するスクリーンや照明、レーザー光線の演出も見事だったが、笑ったのは突然「ビデオレターのコーナーです」と始まった元大関・把瑠都の映像である。「え……会ったことないすよね?」と戸惑う(フリの)メンバーをよそに、把瑠都はどこまでも真顔で「KO-SHINくん、また今度おっバブ行こうね」「焼きそば!(=KENTA)頑張れよ!」などと意味不明な檄を飛ばしながら「じゃあ次の曲、『昨日の歌』!」と曲紹介までやってしまう。まるでバラエティ番組のようだが、なるほど、思いつきのMCを垂れ流すより面白いかもしれない。二万人が集まるアリーナでは、ひいてはその向こうにあるお茶の間では、こちらのほうが「よりウケるエンタメ」になるのだから。


 これまでもWANIMAのライブレポートを書いてきたが、そこでは、観客の泣き笑いの表情がどれほど胸に迫り、また、ひとりの少女がこぼした涙がどれほど大きく感じられたか、そういうひとりひとりの表情に着目することが多かった。日々、耐えて耐えてギリギリで踏みとどまっている同士たちに向けて、毎日おつかれさん、絶対諦めないで、死ぬ気で応援してるからと寄り添うように歌を届けてきたのがKENTAのやり方だ。狭小のライブハウスで、それは確かな魂の交流になるだろう。具体的な握手が救いになり、ともにかいた汗が明日の糧になる。だが、ここはさいたまスーパーアリーナ。全員の顔を確認することもままならない会場で、ライブハウスの流儀に固執する意味はあるのか。もっと大胆に、堂々と、自分たちWANIMAをマス仕様にできないものか。スタッフを含めたメンバーのジャッジは、想像よりも遥かに潔かった。おそらくは、自分たちの歌の本質は変わらない、という自信があるから。そして、どうせやるならもっと広い景色を見たいじゃないか、という野心があるからだ。


 ステージからアリーナ中央の小ステージに架けられた大きな花道を、FUJIが長渕剛になりきって練り歩いた中盤の物真似タイム。今度はKENTAとKO-SHINが手を繋ぎながら花道を歩き、小ステージでアコースティック・セットの3曲が披露される。そのあとはファンに見送られながら楽屋まで駆け抜けていく様子をカメラが追い、そこからは突然「訓練だ!」と軍人風の男に拉致られ、なぜかバンジージャンプを体験しに山の中へと連れられていく映像に切り替わっていく(BMGは「いつもの流れ」……どんな流れだよ!)。これはアイドルのコンサートなどでお色直しの時間を稼ぐために使われる演出だが、WANIMAが同じことをやっても違和感のないこと、いや、FUJIやKO-SHINのキャラを巧みに活かしながら結果的に爆笑映像になっているのが実に痛快だった。ライブハウスでは必要のないことが、この会場では効果的なエンターテインメントになる。その可能性があるなら照れずに逃げずに全力でトライする。何事に対しても閉じないフットワークの軽さが吉と出たのだろう。結果、無事にお色直しと仕切り直しを終えて始まった後半は、「ともに」「リベンジ」という2大アンセムで再スタート。火柱が炸裂するなか、前半よりもさらに大きな一体感が会場には生まれていたのだった。


 アリーナ後方に巨大なサークルモッシュが出現した「THANX」。〈信じて届くまで〉という歌詞がラストには〈信じて良かった〉という一言に変わっていた「For You」。本編が無事終了したのち、アンコールで発表されたのは、5月の3rdシングルがワーナーミュージック・ジャパンの〈unBORDE〉からリリースされるというニュースだった。メジャーとタッグを組むというのは驚きの、そしてこの時期に相応しい英断だと思う。インディーズだからできたことは多々あるが、できないことも同じくらいあったはず。まだまだ、安定期に入るタマじゃない。今彼らの掌にあるのは、新しい旅立ちを歌う新曲「CHARM」と、やったことないこと、面白そうなこと、楽しいことを全力で追いかける「やってみよう」なのだから。


 しかし、それにしても、と思う。初のアルバム『Are You Caming?』が出た時に、WANIMAはポップミュージックの地図さえ塗り替えていくだろう、と書いたのだが、当時このアリーナの光景を思い描くことは正直できなかった。そして一年半程度で現実になったこの景色すら、まだ「始まり」のひとつでしかないという現実は何なのだろう。最後の最後に〈はじまる ここから 旅立ちにいらない不安なら〉と歌い上げたKENTA。「ここから」は、今後も、何度でも、WANIMAの現在地を切り開くテーマソングになっていくのだろう。


(石井恵梨子)