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アジカントリビュート、清木場俊介、amazarashiなどにみる言葉と音楽の奥深い関係

2017年03月28日 13:03  リアルサウンド

リアルサウンド

V.A.『AKG TRIBUTE』

 あまりにも当たり前のことで恐縮だが、歌のある楽曲を聴く場合、多くの人はまず歌詞に意識を傾ける。さらに言えば歌詞の印象が楽曲の評価に直結してしまうし、質の高い歌を書き続けられるかどうかでアーティストのキャリアの行方が決まると言ってもいいだろう。そこで今回は言葉の表現に優れたアーティストの新作を紹介。言葉と音楽の奥深い関係をじっくりと味わってほしい。


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 2000年代前半から活動をスタートさせ、ACIDMAN、ストレイテナーなどと並び、現在の日本のバンドシーンの基礎を作り上げたASIAN KUNG-FU GENERATION。本作『AKG TRIBUTE』はKANA-BOON、04 Limited Sazabys、yonigeなどによる個性あふれるカバーを収録したトリビュート盤だ。それぞれにアプローチは違うが、すべてのバンドに一貫しているのは、歌を中心に据えていること。複雑な価値観が絡み合い、刻一刻と様相を変えていく社会を映し出すと同時に、まるで架空の世界に足を踏み入れたような感覚が味わえる後藤の歌詞は、現在の20代のバンドにもきわめて大きな影響を与えている。そのことを改めて実感できる作品だと思う。


 『REBORN』というタイトル通り、“なぜ歌っているか、何を歌うべきか”を見つめ直した原点回帰的な清木場俊介のニューアルバム。その出発点となったのは、EXILE ATSUSHIとの友情をテーマにした先行シングル曲「友へ」だった。2006年3月にEXILEを脱退した清木場は、ファンに何も言わずにグループを去ってしまったことがずっと心に残っていたという。しかし、昨年8月に行われたATSUSHIの東京ドーム公演で約10年ぶりの共演が実現したことで、そのわだかまりはようやく解消された。深いところでつながり合うATSUSHIとの友情を歌として表現したいーーその真っ直ぐな思いはそのまま「友へ」の背骨になっているし、アルバム『REBORN』を貫くテーマにも直結している。自らの生々しい言葉をまったく飾ることなく歌い切る、その迷いのなさこそが清木場俊介の強味だろう。


 インディーズ時代に発表された「光、再考」、メジャーデビュー盤『爆弾の作り方』に収録された「夏を待っていました」、中島美嘉に提供された「僕が死のうと思ったのは」、最新シングル「命にふさわしい」など、これまでのキャリアを網羅したamazarashiのベスト盤『メッセージボトル』。その中心にあるのは言うまでもなく、秋田ひろむの言葉だ。自らの経験、そこで生まれた切実な感情を反映させながら、どこが寓話的な雰囲気を持つ彼の歌は(まるで宮沢賢治の童話のように)聴く者の心に切実なリアリティとファンタジックな世界観を刻み込んでいく。単に自分の思いの丈を叫ぶだけではなく、自らの言葉を精査する冷徹な視点、そして、リスナーに届いたときの強度を計る知性こそが、彼の音楽の核だと思う。


 ドラマ出演をきっかけにした様々な出会い、そして、そこで感じたかけがえのないつながり。藤原さくらの2017年最初のシングル『Someday / 春の歌』に収録された「Someday」には、彼女自身の体験がリアルに反映されている。<ふたりが会うのは必然/ハッピーエンドじゃないと!>という愛らしいフレーズを持つ春らしいポップナンバーなのだが、その背景には“運命の出会いによって、自分は存在できている”という切実な思い。気軽に楽しめるポップチューンに普遍的なテーマを含ませたこの曲は、シンガーソングライターとしての彼女のセンスを強く証明していると言っていい。スピッツの名曲をカバーした「春の歌」は、映画『3月のライオン』の主題歌。一つひとつの言葉を丁寧に手渡すようなボーカルが心に残る。


 真舘晴子(Gt/Vo)、和久利泉(Ba)、渡辺朱音(Dr)による3ピースバンドThe Wisely Brothers。80年代のネオアコ系ギターポップ、90年代のオルタナティブロック、00年代以降のインディーロックのテイストをきわめて自然に反映させたバンドサウンドも魅力的だが、このバンドの親しみやすさを担保しているのは、彼女たちが紡ぎ出す歌詞の世界だろう。それを端的に示しているのが1st EP『HEMMING EP』のリードトラックの「サウザンド・ビネガー」。好きな男の子との接し方に悩み、<私センスなし子ですか>と呟く歌詞は、思春期の少女のキュートな心情を見事に言い表している。日常を気持ちよく彩ってくれる彼女たちの歌はこれから、さらに幅広いリスナーに浸透していくだろう。(森朋之)