映画『いぬむこいり』が5月13日から東京・新宿K's cinemaで公開される。
姫と軍功を上げた番犬が結婚する伝承民話『犬婿入り』をモチーフにした同作。イモレ島に行けば望んでいる「宝物」が見つかるという神のお告げを受けた冴えない教師の梓が、島でペテン師や革命家、元ギタリスト、犬に変身する王子といった人々と出会い、様々な欲望や争いに巻き込まれていく、というあらすじだ。上映時間は4時間を超える。
島で「犬男」と恋に落ちる梓役には有森也実がキャスティング。共演者にはペテン師役の武藤昭平(勝手にしやがれ)をはじめ、悪徳市長役のベンガル、革命家役の石橋蓮司、引きこもりの元ギタリスト役の柄本明らが名を連ねている。武藤が本格的な演技に挑戦するのは同作が初となる。
監督を務めたのは、鈴木清順監督の『ピストルオペラ』『オペレッタ狸御殿』などをプロデュースしたほか、『アジアの純真』などの監督作を発表している片嶋一貴。撮影は、青山真治監督の『EUREKA』や、河瀬直美監督の『萌の朱雀』を手掛けたたむらまさき、脚本は片嶋と中野太が担当した。主題歌は勝手にしやがれの“カオス”となる。
■片嶋一貴監督のコメント
人は物語や伝説が必要な生き物だ。政治も宗教も芸術も、みんな物語を欲している。勝手に物語をでっち上げ、信じ込んで利用し、そして無惨にも裏切られる。現実はままならない。そう簡単にお望みの物語や伝説のようにはいかないのだ。それでも、人が物語を追い求めるのはなぜか?それは、人はどこかでユートピアを信じ、新しい再生の夜明けを切望しているからだ。異種(犬人間)と出会い、異種を引き受け、異種を愛する。そこに、解放や喜びがある。常識をくつがえすことからしか、新しいものは生まれえない。ただ、社会は黙ってはいない。常識は、異種や多様性に嫉妬する。不条理な思想や感情、それを許さない不条理な社会。つまりはきっと、そんなカオスを受け入れて行きて行くことが、ボクらの人生に違いないのだろう。不条理を乗り越えて、新たな再生の道をさぐる。世界中に広がる犬婿伝説のテーマもそこにある。何を受け入れ、何を克服して行くかは、それぞれであって、その中にしか回答はない。昨今、きな臭く息苦しい日本社会にあって、再生に向けての生きる希望や勇気を、映画とともに考えて行きたいと思う。4時間にも及ぶ映画の時間は、ボクにとって必要最小限の尺だった。