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丸本莉子が再確認した、“等身大の思い”を歌い続ける理由「日常で感じ取ったことを歌にしたい」

2017年03月24日 15:03  リアルサウンド

リアルサウンド

丸本莉子(写真=池田真理)

 丸本莉子の1stアルバム『ココロノコエ』が完成した。メジャーデビュー曲であり、6年前に広島から上京してきた時に夢を掴むきっかけとなった1stシングル「ココロ予報」をはじめ、言葉にできない真っ直ぐな感情を歌い上げた6thシングル「誰にもわからない」まで全シングル曲を収録した現時点でのベスト盤的な作品となっている。新たに収められた新曲5曲を含め、アルバム全体から見えてくるのはリスナーの日常に寄り添う彼女の等身大の思いだ。


 今回のインタビューでは、アルバムタイトルのきっかけでもあり、リード曲としての位置にもある「ココロ予報」の制作エピソードからそれぞれの新曲について、アルバム制作を終えた今の丸本のモードを語ってもらった。「今は曲をたくさん作れそうなイメージがある」と話す彼女の次の作品が楽しみになった。(渡辺彰浩)


・「『ココロ予報』はスタート地点」


ーーまずは、『ココロノコエ』というアルバムタイトルについて聞かせてください。


丸本莉子(以下、丸本):私の曲には“ココロ”を表した歌詞が多くあって、普段面と向かっては言えないことも歌だったら素直に声にして言える。それが歌にする意味なのかなと思い、今回『ココロノコエ』というタイトルにしました。デビューシングルが『ココロ予報』ということもあります。


ーー「ココロ予報」はデビュー曲であり、アルバムのリード曲のような位置付けにもあります。改めてこの曲の出来た背景を教えてもらえますか?


丸本:広島から上京してすぐの頃に、広島ホームテレビのドキュメンタリー番組『雨のち晴れ』の主題歌を作ってみないかというチャンスをもらったんです。だいたい1カ月に1曲のペースで作っていたところに、「3日で3曲作ってきて」と言われた上に、初めてテーマをもらって期限がある中で作曲するということにすごく苦労して。でも「雨のち晴れ」という楽曲のテーマが、その時の私の状況と重なったんです。東京に来たら夢が叶うと思っていたけどここには何もない、広島に帰りたいと思っていた時に、これを乗り越えたら私にとっての晴れがあるんだと思えたんです。


ーーそうして作った3曲をテレビ局の方に披露したと。


丸本:2曲は出来ていたんですけど、もう1曲のサビが当日まで浮かばなくて……。そこで即興で歌ったんですよ。そうしたら「いいね、このメロディーでいこう」と言ってもらえて。それが今の「ココロ予報」なんです。ピンチの時に生まれたメロディーです。


ーーサビの歌詞も即興で歌ったんですか?


丸本:歌詞は一応ありました。でも<にじんだ星>のような格好つけた歌詞を書いていたんですよ。歌い終わった後に「それでは響かない、伝わりにくい。格好つけずに今のありのままの自分を書きなさい」とアドバイスをいただいて、それで何回も考えて出た言葉が今のシンプルな歌詞だったんです。その時言われたことは今も一番大切にしていることで、「ココロ予報」はスタート地点ですね。それまではみんなを元気に、笑顔にしたいという思いで曲を作っていたことが多かったんですけど、「ココロ予報」は自分自身の今の状況をそのまま書いた曲なんです。苦しい思いをしている人から「『ココロ予報』を聴いて頑張ろうと思えた」というメッセージをもらえたりして、自分の気持ちを格好つけずに伝えた結果、同じ境遇の人たちにも響いたり、共感してもらえたのかなと思います。


ーー「ココロ予報」での制作の経験が今の丸本さんの原点でもあるんですね。即興というところで、昨年末に開催した『丸本ん家(ち)へようこそ~ぷれぜんとふぉーゆー2016~in 東京』でもバンドの楽器トラブルが起こった際に、丸本さんが即興で作った楽曲を披露する場面がありました。


丸本:ありましたね。あの時はギターも歌詞もアドリブで、それにバンドメンバーもセッションしてきてくれて、内心ビクビクでした。確かにピンチには強いかもしれないですね。いつも歌詞とか曲は期限ギリギリまで悩むんです。でもたくさん悩むことで最後にはいいアイデアがでてくるんです。


ーーライブではカバー曲を披露することも多いですが、先日の『満月の夜の丸本さん家Vol.1』で披露していた小田和正さんの「言葉にできない」がアルバムには収録されています。


丸本:「言葉にできない」はあのイベントで演奏したのが初めてで、それをディレクターさんが聴いた上で収録が決まりました。これまでは荒井由実さんや中島みゆきさん、イルカさんといった女性の曲をカバーしていましたが、男性の方の曲を私の声で歌ってみたいなという思いがあって新しく挑戦してみました。レコーディングではアコースティックギターとスチールギター、マンドリンを鳴らしていたり、小田さんの歌い方はリバーブが深めなんですけど、私の場合はリバーブをあえて切ることで、小田さんの曲の雰囲気とはまた違った世界観を目標にレコーディングしました。


ーー丸本さんの世界観が出た「言葉にできない」に仕上がっていますね。4月には『満月の夜の丸本さん家Vol.2』の開催も決定していて、fumika、リリィ、さよなら。の2人がお客様として出演します。


丸本:FM FUJIで同じレギュラー番組『Music Spice!』のパーソナリティーを務める2人です。fumikaさんは一度ラジオにもお邪魔したことがあって、私よりお姉さんでよくしてくださって「飲みに行こうよ」とも話しています。リリィ、さよなら。さんはラジオの収録が前後でご挨拶したことがあるんですけど、すごくいい声なので当日セッションするのが楽しみです。前回同様に私の家に来たかのようなアットホームなイベントにしたいです。


・「見て感じたものをどんどん歌にしていきたい」


ーー楽しみにしています。今回のアルバムには5曲の新曲が収録されていますが、「あたし」は等身大のリアリティーある歌詞ですね。


丸本:女性目線で、仕事や恋が上手くいかなかった時のリアルな思いを歌にしたいなと思って書いた曲です。私はお風呂に入った時が一番ムシャクシャした気持ちが流されてスッキリするんです。お風呂の鏡に映った自分が自分じゃないみたいだなと思ったことを<鏡に映った顔を失くしたピエロのように>という歌詞で表現しました。


ーー<それでも理由探しながら 「幸せ」と掲げるの 何のために?>という歌詞もドキッとしました。


丸本:私もSNSをやっていますけど「今日最悪なことがあった」とか、もし思っていても投稿できないじゃないですか。例えば、結婚した友達が今日は家族でどこどこに行ってきたとか載せていて、あとになって「この間、楽しそうだったね」と聞いたら、本当は家族で喧嘩して最悪だったと言っていて。楽しい風景のその裏の心境を描きたいなと思って書きました。みんないろいろなことを抱えながらも、内心は見せないんですよね。


ーー確かにそうですね。直接的な表現に思えますが、歌詞の書き方について意識した点はありましたか?


丸本:シングルだとよりたくさんの人に共感してもらえるように言葉も選ぶんですけど、アルバム曲ということで、今回は女性に共感してもらえるようにこだわりました。アルバムの最後に入っている「この風に乗せて」が男性をイメージしていて、「あたし」は女性をイメージして書いたんですね。先に「この風に乗せて」がアルバムに入ることが決まって、反対に女性らしい雰囲気がある曲もいいなということで作った曲です。


ーー対になっている2曲なんですね。「この風に乗せて」はどのように作っていったのでしょうか。


丸本:私は上京して6年が経つのですが、上京したばかりの頃の気持ちを歌いたいなと思って書いた曲です。この曲は実は先に映像のイメージがあって、そこから内容を膨らませて作詞していきました。あるサラリーマンの話なんですけど、彼は高校生の頃に陸上部の監督からサビの歌詞にある<「あなたはほら 越えて行けると あの空よりもこの風に乗せて 涙の跡は消えないように あの時よりも高く飛べるから」>という言葉をいつも言われていたんです。その後、大人になってサラリーマンとして働く中で、社会に埋もれて頑張れなくなっている自分がいて、でも人混みに揉まれながらも新人の子がしゃんと胸を張って立っているのを見て、あの時監督が言っていた言葉を思い出す、というのを想像しながら書いた曲です。


ーー具体的にイメージがあった上で歌詞が乗っていったと。それに比べて「今だけの永遠」と「愛は」の2曲は広く、普遍的なテーマを描いています。


丸本:「今だけの永遠」は元々は私が高校生の時に作った曲がベースになっているんですけど、当時の純粋さも残しつつ、歌詞を半分くらい広いテーマに書き換えながら、26歳の今の私が歌っています。以前は「あなただけ」というタイトルで、いつかリリースしたいなと思っていた曲なんです。曲も、元々はバラードで作っていたんですけど、ガラッと変わってアルバムの中ではまた雰囲気の違った1曲になりました。


ーー「愛は」は、アコースティックギターの音色から始まる温かなサウンドの楽曲です。


丸本:「愛は」も当初はバラードで作っていたんですけど、私がカントリー調の楽曲をやりたくてアレンジも変わっていきました。冒頭の<愛は>という響きを歌いたくて、そこから歌詞を広げていった結婚ソングです。「愛しています」のようなストレートに愛を伝える曲ではなく、ラストに<綺麗なものだけじゃなく 全て受け止めたい>という歌詞があるのですが、その歌詞を入り口にまた別の結婚ソングに繋げていければと考えています。


ーー「夜を泳ぐ」は力強いサウンドと<愛情の本性はEGOで いつだって背中合わせ>という歌詞も印象的でした。


丸本:この曲はメロディが訴えかけるような強いものだし、テーマもテーマだから直接的な歌詞にしようということで、作詞家の藤林聖子さんと一緒に作詞していきました。幸せになれないと分かっていても、求めてしまう。幸せになれないから捨て去るということが誰もにあると思うんですよ。そのもやもやした感情を吐き出した曲で、テーマは違うけれど「つなぐもの」とタイプは似てるのかなと思っています。


ーー「夜を泳ぐ」は弾き語りで演奏すると雰囲気が変わりそうですね。


丸本:今回のアルバムで楽曲の幅が広がった気がします。「夜を泳ぐ」は弾き語りが難しくて練習中なんですけど、早く聴いてもらいたいですね。『満月の夜の丸本さん家Vol.2』で初披露できると思います。


ーー『ココロノコエ』は1stアルバムであり、これまでの全シングル曲を収録したベスト盤的1枚になっていますが、改めて今回のアルバム制作を振り返ってみてどうですか?


丸本:私は日常で感じ取ったことを歌にしたいんだな、ということを改めて自覚できた1枚になりました。今回の新曲は今まで自分の中になかった世界観のものなので、これからももっといろんな曲に挑戦していきたいなと思いました。「夜を泳ぐ」や「あたし」だったり、楽曲を作る作業は苦労するんですけど、アルバムができた瞬間は気持ちいいんですよね。形のないものをみんなで作り上げていく段階が楽しいのかな。「ココロ予報」の時ぐらい苦しい思いをして作りたいというのもありますし、苦しんだからいい曲ができるわけじゃないというのも分かっていて。今は曲をたくさん作れそうなイメージがあって、メロディもすごく浮かぶんですよ。


ーーまた新たな雰囲気の曲が生まれそうですね。


丸本:答えがなくても感情を素直に吐き出すことによってスッキリすることもあるし、曲の世界に起承転結がないからこそより伝わることもあるというのを「誰にもわからない」を作ったことによって分かったんです。こうじゃないといけないという概念はその時になくなったので、これからはいろんなことに対して見て感じたものをどんどん歌にしていきたいなと思いますね。まだまだあるんですよ。挑戦ですかね。


(取材・文=渡辺彰浩)