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三浦大知の実力を誰も無視できないーー最新作『HIT』の音楽的充実とポテンシャル

2017年03月22日 19:03  リアルサウンド

リアルサウンド

三浦大知

「三浦大知“黄金時代”到来!」


 2017年1月23日のスポーツニッポンに、こんな見出しのついた記事がアップされた。この記事は1月22日に行われた国立代々木競技場第一体育館でのライブのソールドアウトと『EXCITE』のヒットを受けてのものだが、件のライブはまさにそんな見出しを思わずつけたくなってしまうのも無理はない素晴らしいライブだった。KREVAや仮面ライダーエグゼイド(「EXCITE」は同名のテレビシリーズの主題歌になっている)も登場したステージは徹頭徹尾エンターテインメント精神に貫かれていただけでなく、ダンスのみで魅せるパートからじっくり聴かせるバラードまで彼のパフォーマーとしての実力が遺憾なく発揮されたものになっていた。


(参考:三浦大知の真髄はダンスにあり! 「(RE)PLAY」MVから中毒性あるパフォーマンスを検証


 この日の本編ラストに繰り出されたのはバックトラックなしのアカペラ歌唱とダンスで始まる「Cry & Fight」。歌と踊り、それぞれにおいて高水準のスキルを持つ彼でなくてはできない芸当である。2時間以上全力で歌い踊った後にあの曲を持ってくるというセットリストからは「ハードなパフォーマンスでもやり切ってみせる」という覚悟が感じられるとともに、ステージに立つ人間として三浦大知の目指すレベルが非常に高いということがよく伝わってきた。


 「Cry & Fight」のアカペラパフォーマンスは今では彼の代名詞の一つになっている感があるが、そのきっかけとなったのが同曲を披露した2016年5月6日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)である。番組内のトークパートでは、「あんなに動いてよくちゃんと歌えるよね!?」というタモリの投げかけに対して「ホント、それしかしてこなかったので。それしかできないんですけど」と三浦が応じる場面があった。彼のデビューは1997年のFolderでの活動にまで遡るが、今に至るまで一貫して「歌って踊る」というスタイルに取り組んできたわけで、「それしかしてこなかった」というのは決して大げさな表現ではない(幼少の頃から歌と踊りに囲まれていたことを示すエピソードが3月17日に放送された『A-Studio』(TBS系)で多数紹介されていたが、そういう意味ではデビュー云々関係なく生まれたときから「歌って踊る」に取り組んできたと言ってもいいのかもしれない)。これまで音楽以外の側面でメディアからの後押しを受けたようなこともほぼないし、2005年のソロデビュー以降は女性グループアイドルブームやフェスとロックバンドの結びつき、LDH系の男性パフォーマンスアクトの盛り上がりなど、彼のスタイルにとっては向かい風となるようなムーブメントが起こることも何度もあった。そんな中でもただただぶれずにスキルを磨き続けてきて迎えた2017年、「誰もが三浦大知の実力を無視できない」というような状況がいよいよ整いつつある。


 そんな中で満を持してリリースされる、1年6カ月ぶりのニューアルバム『HIT』。様々なタイプのハイクオリティな楽曲が並ぶ、三浦大知の今の勢いが存分に詰まった作品である。


 『D.M.』(3rdアルバム/2011年リリース)の「Black Hole」におけるダブステップの導入などこれまでも海外のシーンとのリンクを大事にしてきた三浦だが、そんな彼の資質がよく表れているのがリードトラックにもなっている「Darkest Before Dawn」。アコギ主体で始まるトラックがコーラスパートを経てアッパーに展開するこの楽曲は、EDM的な高揚感にアコースティックな音を組み合わせるという海の向こうのポップフィールドで支持されている手法を三浦大知流に解釈したものと言える。フェスのメインステージやスタジアムといった大会場でのプレイが想起される、スケールの大きな一曲である。ここ数年のトレンドでもあるビートの揺れに正面からトライした「Darkroom」も日本のメインストリームのポップスでは意外と見られないものであり、彼のアンテナがいち早く時代の流れをキャッチしていることを立証している。


 『HIT』では三浦自身も作詞作曲に関わる一方で多くのコンポーザーが起用されているが、国内のクリエイターとのコラボレーションも充実している。既発曲でもSeihoやCarpainterといったかなり尖った面々を積極的に起用していたが、今作ではSOIL&"PIMP"SESSIONSとの共作が実現。 彼らのアバンギャルドなスタンスの裏側にある洗練性が存分に発揮されたラテンテイストのサウンドが楽しめる「Rise Up feat. SOIL&”PIMP”SESSIONS」は、三浦大知というアーティストの新しい一面を引き出す楽曲になっている。


 そして本作のハイライトはアルバムの終盤に鳴らされる「誰もがダンサー」。爽快さとメランコリックな雰囲気を併せ持つダンストラックに乗せて歌われる歌詞は彼自身によるもので、紆余曲折あったここまでの足跡とこれから未来へ進んでいくという決意が込められたメッセージソングになっている。作品のクライマックスを彩るとともに、この先のさらなる活躍を予感させるとても瑞々しい一曲である。


 海外のポップミュージックのあり方と共振しながらミュージシャンとしてのオリジナリティや志がしっかりと感じられる『HIT』は、ライブパフォーマンスの評判とともに三浦大知という存在の価値をさらにもう一段押し上げるものになっている。3月19日に放送された『古舘伊知郎ショー ~THE・マッチメイカー~』(テレビ朝日系)(小池百合子東京都知事と市川海老蔵の前で「Cry & Fight」を披露)では古館伊知郎が小池氏に「東京オリンピックのオープニング関連で三浦さん起用なんて……」とプッシュする一幕もあったが、パフォーマーとしてのスキルセット、楽曲を生み出すにあたっての日本と海外双方を見渡す広い視野など、彼が「世界に出しても恥ずかしくない存在」になりつつあるのは紛れもない事実である。『HIT』が文字通りヒットして、とかく海外のシーンとの断絶が指摘されがちな日本のメインストリームの音楽が誰にとっても胸を張って誇れるものになり、そしてその中心に三浦大知がいる。そんな未来が来ることを期待したいと思う。(文=レジー)