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『大怪獣モノ』は『シン・ゴジラ』ブームにどう“便乗”した? 河崎実監督が語る、特撮の面白さ

2017年03月22日 18:42  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2016『大怪獣モノ』製作委員会

 奇才・河崎実監督がプロレスラー・飯伏幸太とタッグを組んだ映画『大怪獣モノ』が、3月22日にBlu-ray&DVDで発売された。東京に襲来した大怪獣“モノ”と、万能細胞“セタップX”を投与されて巨大化した身長40メートルの超人の戦いを描く。本多猪四郎監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(65)にオマージュを捧げた、古き良き特撮映画らしい魅力が詰まった一作となっている。リアルサウンド映画部では、河崎実監督にインタビュー。“便乗商法”と語る自身の作風から、特撮への思いまで、たっぷりと語ってもらった。


■映画はタイトルを見たときに内容が分からないとダメ


――『シン・ゴジラ』(16)が公開されると聞いて、本作の企画を立ち上げたそうですね。


河崎実(以下、河崎):『日本以外全部沈没』(06)のときもそうですが、基本的に便乗商法ですから(笑)。


――河崎監督作品はタイトルがいつもユニークですが、今作のタイトルはどういった経緯で?


河崎:ゴジラに便乗する怪獣映画をつくるとしたら、当然ゴジラがやらないことをやりたかった。樋口(真嗣)、庵野(秀明)は、初代ゴジラをモチーフにして政治や思想なども持ち込んだハードな題材でやるだろうから、こっちはバカやるしかないだろうと。実は、最初のタイトルは『コチラ』でした。『ゴジラ』には、「世界情勢が反映されている! 政治的な意味がある!」などと声高な意見も出たりしますが、ジャンルとしては結局“大怪獣もの”じゃないですか。それならいっそのこと、こっちは『大怪獣モノ』をタイトルにしてまえと。


――タイトルだけで内容が伺い知れますね。


河崎:映画はタイトルを見たときに内容が分からないとダメだと思ってます。過去作、『いかレスラー』(04)、『ヅラ刑事』(05)、『日本以外全部沈没』、『かにゴールキーパー』(06)、『猫ラーメン大将』(08)も、タイトルだけ見れば分かるでしょう(笑)。


――本作は、怪獣と巨大化した“人間”が戦う、ありそうでなかった設定が面白いです。


河崎:ウルトラマンなどの変身した姿ではなく、あくまで人間。プロレスラーと怪獣をガチで戦わせたかった。過去の映画を振り返れば、『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(65)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(66)の円谷監督の傑作があります。実は人間型の巨人が戦う特撮映画はこの2本しかない。その後に生まれた『ウルトラマン』などは、あくまでスーツを着ている。もし、ウルトラマンにならずに生身の身体で戦ったら……という発想のもとに生まれたのが本作でした。


--人間が巨大化する設定の映画としてはバート・I・ゴードン監督『巨人獣』(58)などがありました。


河崎 そうそう。そこで思い出したのが、人間が巨大化するとき、上半身は裸になるのに、何故かパンツは破れないで一緒に巨大化しているだという矛盾(笑)。漫画や戦隊ヒーローものでもそうだったから、自分で作るときはそこにしっかりと理屈をつけて作りたかった。


--特殊繊維でできた伸縮自在のパンツを履く設定なので、こちらも納得して見られました(笑)。そして、パンツ一丁で様になる肉体の持ち主でなければ巨人は務まりません。プロレスラー・飯伏幸太をキャスティングした意図は?


河崎:プロレス団体DDTに、プロレスラーとして出場するダッチワイフがいました。名前はヨシヒコといって、人形であることに対しては言及しないのが暗黙の了解となっている存在で(笑)。そのヨシヒコと戦っていたのが飯伏でした。彼が戦っている姿を見ると、まるで人形が生きているように見えるんです。これはものすごい表現力の持ち主だなと。演技経験は一切なかったのですが、彼なら絶対に問題ないと確信しました。


--飯伏さんのハマり具合も見事ですが、特撮ファン、プロレスファンにとって、たまらない面々が名を連ねています。


河崎:『ウルトラマン』の古谷敏さん、『帰ってきたウルトラマン』のきくち英一さん、『ウルトラマンレオ』の真夏竜さん、『アイアンキング』の堀田眞三さん、『ウルトラマン』アラシ隊員の毒蝮三太夫さん、ウルトラ隊員を卒業した方々が、こんな風になっているぞというイメージで出演してもらいました。プロレスラー、赤井沙希、鈴木みのるのふたりの演技も、改めて特撮とプロレスの親和性の高さを教えてくれました。


――先日、スペインのサンセバスチャン映画祭では『シン・ゴジラ』と『大怪獣モノ』が同じスクリーンで上映されたそうで。


河崎 『シン・ゴジラ』はオープニング上映だったこともあり、大盛り上がりしていました。ただ会議の時間が長すぎるので、お客さんが「早く会議やめろよ!」ってスクリーンに叫んでいたりして。逆に『大怪獣モノ』は最初からウケっぱなしですよ。映画祭のようなお祭りの場所でこそ映える映画ですから。樋口監督も苦笑していました(笑)。


――『大怪獣モノ』には『シン・ゴジラ』になかった、古き良き着ぐるみ怪獣・特撮の良さもあります。


河崎:樋口、庵野のふたりの天才だからあのゴジラを作ることができたわけで、それはそれでいいと思う。でも、着ぐるみの面白さはやっぱりある。昔の『ウルトラマン』などの特撮モノを観ていない若い方は白けてしまいそうだけど。今時、ジャイアントスイングを着ぐるみ相手に本気でやっているのも、中々ないですよね(笑)。ありものミニュチュアセットを組み合わせながら、予算の問題もあるので二日間で撮りきりましたが、これができるのも俺だからですね。『シン・ゴジラ』の製作費と比べれば数パーセントかもしませんが、それでも何千万かかかっています。下手したらCGの方が安上がりの可能性もありますね。


■面白いものを撮り続けてきただけ


――それでも河崎監督が特撮にこだわる理由は?


河崎:やはり、今の特撮や映画に物足りなさを感じてしまうからです。製作委員会方式になって、損をしない映画作りが可能になったかもしれないけど、その分、映画だからこそできる“無茶”ができなくなってしまった。CGで本物と見紛う世界を映し出すのもいいですが、ミニュチュア撮影でしか作れない質感、作り物の面白さを大事にしたいとは思っています。テレビでは表現できないことを映画がやる、そして他の監督が作らないものを作る、それをポリシーにしていたら監督デビューから30年の時が経っていました。


――30年前に今のご自分を想像できましたか。 


河崎:『地球防衛少女イコちゃん』(87)を撮っている頃に、今の俺がタイムスリップして出てきて、「おまえは30年後に『地球防衛未亡人』(14)を撮るだろう」って、言ってきたら、「何言ってんだ、このオヤジは」って、思うだろうね(笑)。今は少女を撮っているのに、何で次が未亡人なんだと。好きなもの、面白いものを撮り続けてきただけだから、根本的な部分は変わっていないんですけど。先日、町山智浩が、「『ウルトラマン』から50年、『ロッキー』から40年、『地球防衛少女イコちゃん』から30年、『大日本人』から10年……。過ぎ去る時を嘆くな! 河崎実は、今もぼくらの河崎実だ」とツイートしていました。つまり、時代は変化してもずっと馬鹿やってるということですよね(笑)。変わるつもりもありませんでしたけど、こうやって変わらないものを求めてくれるのは本当にありがたいこと。真面目な映画を作って、映画賞を貰いたくないと言ったら嘘になるんだけど(笑)。


――今回のソフト化で映画館とはまた違う楽しみ方ができそうです。


河崎:巨大化する薬が“セタップ細胞”というネタにはじまり、いろんなパロディネタを散りばめているので、それを探す楽しさも含めて、この作品はDVD、Blu-ray向けの作品だと思います。お酒を飲みながらワーワー言い合ってほしいですね。ソフト発売日も『シン・ゴジラ』と同じ日で、間違えて買ってほしい(笑)。3月24日に『キングコング:髑髏島の髑髏島の巨神』が公開されて、更に、ゴジラVSコングもあるらしいので、『大怪獣モノ』の続編として、どんな作品をぶつけようか今から考えているんです。今度はハリウッドに便乗していきますよ!


(取材・磯田勉、構成・石井達也)