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MotoGPマシンにダウンフォースって必要?(後編)/ノブ青木の知って得するMotoGP

2017年03月22日 17:41  AUTOSPORT web

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スズキ・GSX-RRの新型カウル
スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第1回は、最近話題のMotoGPマシンとダウンフォースの関係について語る。

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<<前編はコチラ>>
■ウイングレットに変わる新たな空力パーツの登場
 前編で話したウイングレットは、昨年をもって禁止されてしまった。理由はズバリ、やりすぎた(笑)。新しモノ好きのドゥカティを筆頭に、ウイングレットはどんどん大型化し、「接近戦でライダーに接触したら危ない」、「新たな開発コスト増大を招く」などと、ストップがかかったのだ(裏では「カッコ悪い」という意見が大きかった、というウワサもあるが……)。

 ああまたしても「見た目は市販車と大差ない」MotoGPマシンになってしまうのか。目で見て分かりやすい技術革新はもう望めないのか。

 いやいやどっこい、メーカーはエアロパーツによる“わずかな、けれど確実な効果”を捨てられなかった。今季のオフシーズンテストで、各メーカーが『見た目はそんなにハデじゃないエアロパーツ』を導入したのだ。

 ヤマハやスズキは、もともとのフロントカウルの内側にウイング形状を持たせた、実に控えめなインナーカウル式ウイングをテストした。そして、ドゥカティがまたやってくれた!

 開幕前最後のカタール公式テストで、ドギモを抜く新型カウルを走らせたのだ!

 まるでシュモクザメのアタマのように左右に張り出しがあり、そこが導風口となって、ダウンフォースを生んでいるのだろう。

 いや~、やってくれました! 見た目からして明らかに市販車とは違うプロトタイプマシン。格好の良し悪しはこの際抜きにして、最高峰クラスたるもの、こうでなくてはいけない。

 昨年までのウイングレットに比べて、インナーカウルウイングもドゥカティのシュモクザメ式新型カウルも、ダウンフォース効果は減少しているだろう。テスト後のライダーのコメントも「いいとも悪いとも言えない」といった煮え切らないものが多い。

 特にバイクの場合はダウンフォースがあればいいってものではなく、過度なダウンフォースは高速のS字コーナーなどでは切り返しの重さを招く。微妙なバランスの上に成り立っている分、車体まわりの新規パーツ導入には難しさがある。

 それでも、カタール公式テストではドゥカティに加えてホンダも新型カウルをテストしており、メーカーとしては、どうにか、わずかでもいいから、ダウンフォースを得ようと必死なことが伺える。それほど今のMotoGPは超シビアな戦いが繰り広げられているのだ。

 昨年のようにシーズン中の『空力開発競争』が加熱しないよう、今季は新たに『エアロボディホモロゲーション』が策定された。開幕戦でライダー毎に最大2種類のカウルを登録し、シーズン中はそのどちらかしか使えないことになったのだ(新規参戦のKTMは除外)。

 言い方を変えれば、2種類のカウルをライダーごとに登録し、選択の自由が与えられているということ。これはつまり、ライダーやコースによって、合う・合わないがあるということ。ここからもまた、MotoGPの超シビアさが見て取れて面白い。

 3月24~26日、カタールでいよいよ開幕を迎える2017のMotoGP。どのライダーがどんな新型カウルを登録し、どのコースでどれを使うのか。超シビアなMotoGPの戦いを象徴する新型カウルの動向に、ぜひ注目してほしい!

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■青木宣篤
1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。