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『カルテット』最終回に松本まりかが登場! 『退屈な日々にさようならを』『愚行録』で注目

2017年03月21日 17:23  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)TBS

 SNSを中心に話題が話題を呼び、本サイトの関連記事のページビューもうなぎのぼり、先週放送された第9話では遂に視聴率も初の二桁にのり、いよいよ最終回の放送が迫った『カルテット』。


参考:『カルテット』別府司(松田龍平)はなぜパーティーを組んだ? ドラクエ風演出の謎を読む


 同作では、主要なキャラクターはもちろんのこと、各回に登場したゲストの名演もこれまで話題を集めてきた。第1話で哀愁漂う詐欺師ピアニストを演じたイッセー尾形、第3話冒頭ですずめ(満島ひかり)の父として登場して視聴者を驚かせた高橋源一郎、第4話の家森(高橋一生)の元妻役で強烈な存在感を放った高橋メアリージュン、第6話で巻幹夫(宮藤官九郎)の元カノ役を当て書きされたとしか思えないハマりっぷりで演じていた大森靖子、第8話ですずめのバイト先の不動産屋の社長を演じて、名シーンだらけの本作においても屈指の感動シーンを彩ったミッキー・カーチスなどなど。挙げていけばきりがないが、どんなに小さな役にもその役の人生を感じさせる深みがあり、それを演じる役者も視聴者の心に深い爪痕を残さずにはいられないのが、坂元裕二脚本のすごさの一つである。


 まるで最終回のようなエモーショナルな展開が続いた前回の第9話、その終わりに放送された次回予告でも明らかにされているように、最終回の第10話は「1年後の物語」となる。そこでは、きっと真紀/あきこ(松たか子)、すずめ、別府(松田龍平)、家森のカルテットドーナツホールはバラバラに生活を送っているのだろう。そんな最終回のゲストとして名前が発表されたのが松本まりか。先日、松本まりか本人もバイオリンの画像とともに「最終話に私は少しだけ。優しくて温かくて皆笑ってて。ラストに向かう切なさも入り交じった空気の中、少しだけどあの中でカルテット出来た事、やり取りの瞬間瞬間がたのしくて夢みたいに幸せだった」とツイートで告知をしていた。


 『カルテット』にゲストとして松本まりかが出る。その事実には、単純に好きなドラマに好きな女優が出るという喜び以上の驚きがあった。というのも、自分はちょうどその数週間前に、『カルテット』を見ていて、松本まりかが主要キャラクターの一人を演じている今泉力哉監督のインディーズ作品『退屈な日々よさようならを』(現在、新宿K’s cinemaにて公開中)のことを思い出したという趣旨のツイートをしたばかりだったからだ。もしかしたら、坂元裕二は『退屈な日々よさようならを』を観て彼女のキャスティングしたのかも? それは、邦画/洋画、インディーズ/大作問わず同時代の膨大な映画をインプットしていて、演劇や音楽にも感度の高いアンテナをはっている坂元裕二だったら、十分にあり得ることだ。


『カルテット』と、昨年から一部の映画ファンの間で話題となっている『退屈な日々にさようならを』は、ある一人の男の失踪が物語の発端となっているというだけでなく、男と女の絶望的な気持ちのすれ違いを描いていることや、食事の描写が演出上の重要な鍵となっていることなど、いくつか共通点がある(もちろん、全然違うところも多いが)。ただ、そうした目に見える共通点を超えて、真紀と幹夫の過去の馴れ初めと現在の逃避行を描いた第7話を見た後、同じ時代に同じ国で作られた物語としての共時性のようなものを自分は強く感じた。


 そんな『退屈な日々にさようならを』のかなりトリッキーな構成と展開を持つ物語に、地に足のついたリアルな感触を与えていたのが松本まりかの存在だった。そのちょっと前に観ていた石川慶監督『愚行録』(全国ロードショー公開中)でも、小出恵介演じるゲスの極みな会社員にコロッと騙される普通のOLを、これまた妙にリアルに演じていたのが強く印象に残っていたこともあって、自分にとってすっかり「気になる女優ナンバーワン」となっていた。


 松本まりかは現在32歳。これまで、特にテレビドラマでは数え切れないほどの有名作品に脇役やゲストとして出演してきているので、きっとその顔を見たら「あぁ! あのきれいな子か!」と顔と名前が一致する人も多いはず。中でも、恩田陸原作の学園ドラマ『六番目の小夜子』(NHK教育、2000年)はカルト的な人気を集めた作品で、そこでお互いデビュー直後に共演していた松本まりかと山田孝之は現在も交流があるという。その当時から印象的だったのはちょっと舌足らずな甘く可愛らしい声で、これは不勉強ながら今回初めて詳しく知ったのだが、数々の有名アニメ作品や有名ゲーム作品でも活躍していて、人気声優としてのキャリアも積んでいる。いや実際、あの声は反則ですよ。


 そんな、ちょっとつかみどころのないところも魅力の松本まりかさん(いきなり敬称をつけますが)、女優として一体どういう方なのか気になったので、(ほとんど個人的な関心から)急遽思い立って『退屈な日々にさようならを』の今泉監督にリサーチをしてみることしました。以下、今泉監督からいただいたメールを引用させていただきます。まずは、キャスティングをした理由からーー。


「2015年の年末、舞台『水仙の花』を見に行き、あらためて声やその風貌に惹かれていた松本さんにだめもとでオファーしました。吹越満さんと松本さんがキスをたくさんする舞台だったのですが、見ていてキスしたくなる舞台でした」


 「見ていてキスしたくなる舞台」……。見逃したことを後悔しつつ、作品を一緒にやってみての感想も訊いてみたーー。


「松本さんはすごくまじめでまっすぐで、どちらかと言えば、『役をきちんと理解したい』役者さんなんだと思います。監督ともたくさん話したい人なんだと思います。あと、本当に芝居が好きな人ですね。ただ、あまり細かいことやバックボーン(履歴書的なこと)など決めずに、撮影時のテイクもそんなに繰り返さずに撮る方法の私と、丁寧にしっかり理解したい(理解したいというのもちょっとちがうのですが)まりかさんは、正直、相性は良くないと思いました。その話を東京国際映画祭でして、松本さんに泣かれたりもしたのですが……」


「決して器用ではなく、とても実直な役者さんだと思います。実際に『退屈な日々にさようならを』の役では、『わからないままで、理解しないで演じてほしい』という、こちらからの要望も受け入れてくれました。きっと、これからまた、今まで以上にばんばん活躍されていくんだろうなと思います。そして、また一緒にできたらなと思っています。でも、また一緒にできたらな、って言うと、『ほんとに思ってますか? めんどくさいんでしょ? 相性よくないんでしょ?』って言われるので、怖いです。でも、いつかまたやりたいです」


 とのことです(今泉監督、ありがとうございました。『退屈な日々にさようならを』、一度観たら絶対に忘れられない作品なので是非皆さんも観てください)。さて、そんな松本まりかさんは『カルテット』で一体どんな役を演じるのか? この3ヶ月間すっかり心を奪われてきたドラマが遂に最終回を迎えることへのドキドキとともに、「気になる女優ナンバーワン」登場のドキドキも加わって、放送が始まる前からもう大変なことになってます!(宇野維正)