「こんな状態になるんだったら、去年のエンジンのままでよかったよ」
第2回バルセロナF1合同テスト最終日、ステアリングを握っていたフェルナンド・アロンソは、長谷川祐介ホンダF1総責任者にそう語ったという。なぜ、アロンソはそんな言葉を口にしたのか。それは、ホンダのパワーユニットにトラブルが相次いだだけでなく、パワーを感じられなかったからだ。
打倒メルセデスを2017年の旗印に掲げたホンダは、今年これまでのコンセプトを一新したパワーユニットを開発した。ホンダは具体的な技術を公表していないが、長谷川総責任者の「今シーズンに向けて、かなり攻めた開発をした」というコメントから、F1界でライバル勢がすでに実勢投入しているタービュラントジェットイグニション(TJI)を採用したと考えられる。
だが、これは市販車にも応用されていない技術。長谷川総責任者も「このエンジンの開発は昨年始めたばかりで、まだ燃焼形態に関してわかっていないところがある」というように、完璧に機能させるのは簡単ではない。1回目のテスト2日目のトラブルも燃焼室が何らかの原因で壊れた可能性が考えられる。
問題はトラブルだけではない。冒頭のアロンソのコメントのように、TJIによって得られるはずのパワーが感じられないのである。長谷川総責任者は「昨年のエンジンよりもパワーは出ています」と語っているが、1回目のテストでの最高速は10チーム中、最下位の時速314.8kmだった。
昨年のスペインGP予選時のアロンソの最高速が時速327.7kmなので、今年は時速13km遅くなったことになる。ただし、これは今年のマシンが昨年よりも空気抵抗が増えたためであり、ホンダだけが遅くなったわけではない。
例えば、ハースは時速1km、ルノーは時速3km、フェラーリは時速5km、メルセデスAMGは時速7km、ウイリアムズは時速10km、トロロッソは時速11km、フォース・インディアは時速15kmほど遅くなっている。
ではラップタイムはどうか? 昨年のスペインGPでポールポジションを獲得したルイス・ハミルトンのタイムは1分22秒000。バルセロナテストでのハミルトンの自己ベストは1分19秒352だから、2.7秒速くなっている。
これに対してアロンソの昨年のスペインGP予選のタイムは1分23秒981で、テストでの自己ベストは1分21秒389と2.6秒ゲインしている。つまり、ホンダはライバル勢より速くはなっていないが、アロンソが「去年のままでよかった」と絶望するほど遅くもなっていない。
しかも、このエンジンはまだ開発途中で、可能性が大きく残されている。だから、長谷川総責任者はアロンソのコメントにも動じない。
「もっと良いPUを準備できなかったことに対しては、後悔はあります。もっと時間があれば、もっといい準備ができていたと。でも、この技術を選択したことに対して、後悔は1ミリもない。やろうと思っている技術はすべて入っています。よく入ったなと思うし、よくスタートラインに立つことができたなと思います。さくらのメンバーがよく頑張ってくれました」
その決断をしたホンダを信頼するのかしないのか。パートナーのマクラーレンの動向に注目が集まっている。