技術ウォッチャーの世良耕太氏が、2017年のF1新車、フェラーリSF70Hの気になるポイントを解説。様々な空力デバイスが装着されたフェラーリのニューマシンは一見煩雑な印象を受けるが……。
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1枚の写真にフェラーリSF70Hの見どころが凝縮されている。世界を代表するスーパーカーブランドらしくない煩雑な印象を受けるが、「格好なんてどうだっていい。速ければいいんだ」というスタンスなのだろう。シンプルなレッドブルと対極にある。
モノコックの脇に3対のフィンが生えている(写真1)。フロントサスペンションのアーム類と同じで、フロントウイングで発生したアップウォッシュ(上向きの流れ)をダウンウォッシュ(下向きの流れ)に切り換える役割を担う。
フロントウイングで空気を跳ね上げたままではリヤで空力的に使える空気の量が減ってしまうので、車両ミッドエリアの空力デバイスで方向転換を行うのだ。局所的にはここでリフト(クルマを持ち上げる方向の力)が発生してしまうが、車両トータルのダウンフォースが増えるので、積極的に制御するわけだ。
リヤビューミラーのステー(写真2)も空力的な役割を持っていることは間違いなく、その後方にある垂直のフィンも同様の役割を担っているのだろう。このエリアで制御した渦は、直進時にはリヤウイングにあたって邪魔をする。
邪魔するとダウンフォースも減るがドラッグも減って最高速が伸びる。一方、コーナリング時はきれいな空気がリヤウイングに当たるよう制御しているはずだ。
SF70Hは極端に偏平な開口部がサイドポンツーンの前端上部にあるが、これは大胆なアンダーカット(写真3)と明確に役割をわけた結果だろう。アンダーカット部分には、いかにも大量の空気が流れそう。
サイドポンツーン前端まわりの空力デバイスは、サイドポンツーン側面に沿って流れる空気と、フロントタイヤが発生させる乱れた空気を仕切る役目も担っているのだろう。
手元の写真でははっきりしないが、サイドポンツーン前端まわりは、メインの構造物の前にポッドウイングの支持を兼ねた大型のダクトを取り付けた構造のようだ(写真4)。上面の開口部(写真5)は、前端にあるメインの開口部とは別の熱交換器につながっているのだろうか。
何とも煩雑に並んだポッドウイングに関しては、内側にあるステーの形状も確認したいところだ。大型のパネル(写真6)はそれ自体でダウンフォースを発生する役割も担っているのだろうか。
ここ数年のフェラーリはずっとそうだが、ディフューザー両サイドコーナー部の処理が凝りに凝っている(写真7)。リヤのアップライト内側に積層したフィンと合わせ、このエリアでダウンフォースを発生させつつ、リヤタイヤが巻き起こす乱流がディフューザーの流れに影響を与えないよう制御しているのだろう。
SF70Hはリヤウイングのステーを2本にした唯一の17年型マシンだ(写真8)。1本にして小さな空力的ゲインを得るよりも、大きな荷重を受けたときや振動によるぶれを防いだ方が、結果的には空力的なメリットは大きい。そう判断した結果だろうか。