2017年03月21日 11:14 弁護士ドットコム
大混雑で十分な対応ができなくなったレストランでは、ミスがしばしば発生します。都内のレストランでバイトをするKさんは、悲惨な光景に遭遇したことが忘れられません。
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ある日、店側のミスで料理の提供が遅くなってしまった際に、客が「もういい。悪い評判を流してやる!」と捨て台詞を残し、代金を払って帰ってしまったそうです。
Kさんは、「確かに店側のミスが原因ですが、これは脅迫行為ではないのでしょうか?」と納得がいかないようです。このような行為は犯罪ではないのでしょうか、北島健太郎弁護士に聞きました。
「まず、脅迫罪とは、生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知して(=害悪の告知)、人を脅すことです(刑法222条第1項)」
客の「悪い評判を流してやる!」という発言は、脅迫に当たるのでしょうか。
「『悪い評判を流してやる』というのは、確かに名誉または財産に対する害悪の告知と考えられますが、他人を畏怖させるに足るほどと言えるかが問題です。この程度の内容では、通常は他人を畏怖させることまではできず、脅迫罪は成立しないと思われます。
ただし、害悪の告知の程度を考える上では、告知した内容だけではなく、日時、場所、方法、相手の年齢や職業、告知者と相手との関係性やその場の状況、告知に至った経緯など具体的事情を総合的に考えなければなりません。時と場合によっては脅迫罪が成立する可能性もあり、注意が必要です」
仮に、客が「悪い評判を流されたくないなら、代金をタダにしろ」と要求した場合、どのような問題に発展しうるのでしょうか。
「その場合、恐喝罪(刑法249条2項)が成立するかどうかが問題です。恐喝罪とは暴行を加えたり、脅したりすることで相手を怖がらせ、財産や財産上の利益を得ることです。恐喝罪が成立するためには、脅迫罪と同じく相手に対する害悪の告知が必要です。しかし、『代金をタダにしろ』という程度の内容では、他人を畏怖させるに足るほどの害悪の告知とは言いにくいと思います。
もっとも、こちらの場合も具体的事情を総合的に考えなければなりません。代金をタダにしてもらうために相手を脅すという目的の違法性も加味すると、恐喝罪の方が、脅迫罪よりも成立が認められやすくなると考えられますので、注意が必要です」
口コミサイトに「この店の対応は最悪だ」といった悪評を流した場合、どのような問題があるのでしょうか。
「実際に口コミサイトに悪評を流した場合、名誉棄損罪(刑法230条1項)の成立が問題となります。
名誉毀損罪は、『公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者』には、『その事実の有無にかかわらず』成立する犯罪です。ここでいう『事実』の内容は、人の社会的評価を害するに足りるほどでなければなりません。また、単なる価値判断や評価は含まれません。
『この店の対応は最悪だ』というコメントが単なる価値判断や評価と言い切れなかったとしても、口コミサイトではそのような批評があってもおかしくないと、読む方もわかっているでしょう。人の社会的評価を害するに足りるほどの内容とは言い切れないと考えられ、名誉毀損罪は成立しないと思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
北島 健太郎(きたじま・けんたろう)弁護士
平成4年日本大学法学部法律学科卒業 平成14年度司法試験合格 平成16年弁護士登録
現在は兵庫県弁護士会所属 人権委員会、消費者保護委員会、民暴委員会、両性の平等委員会所属 執筆:旅行のトラブル相談Q&Aの一部
事務所名:北島健太郎法律事務所
事務所URL:http://kkitajima.com/