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the pillowsから始まり、Theピーズまで ベテランバンドが“バトン”を繋いで日本武道館に立つ意義

2017年03月20日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

日本武道館

 2017年3月1日、メジャーデビュー30周年にして初めて行ったTHE COLLECTORSの日本武道館ワンマン『THE COLLECTORS “MARCH OF THE MODS” 30th Anniversary』。平日開催であること、開催発表後にドラマーの阿部耕作が脱退したことなどで心配の声も多かったこの公演は、しかし、大成功に終わった。ソールドアウトには届かなかったが、アリーナと1Fスタンドと2Fスタンドをほぼ満員まで埋めた、全国から集まったファンの前で、THE COLLECTORSは堂々たるステージを見せた。


(関連記事:THE COLLECTORS、30年かけて辿り着いた晴れ舞台ーー武道館のステージで見せた“ブレなさ”


 オープニングなどでの若干の映像演出、ステージ後方にバンドロゴの電飾、後半の「青春ミラー(キミを想う長い午後)」でのレーザー光線(言うまでもなくThe Who「Won’t Get Fooled Again」へのオマージュ)、同じく後半の特効(テープ発射)、いつもと違う演出はその4つ程度。武道館だというのにステージ上のメンバーをビジョンに映すこともせず、いつもどおりのシンプルきわまりないライブを行うことで、そもそもバンドが持っているスケールが武道館というキャパシティにふさわしいことを立証した、そんなステージだった。


 さて。ここ数年続いてきた、結成20年以上・年齢40代以上のベテランバンドが、初めて日本武道館でワンマンを行うというトライアル、次は2017年6月9日のTheピーズが控えているが、それ以降は今のところ特に誰からも何も発表されていない。というタイミングなので、さかのぼって整理してみたい。


 the pillows、結成20年目のバンド結成日である2009年9月16日に開催。怒髪天、結成30周年で2014年1月12日に開催。フラワーカンパニーズ、結成26年デビュー20年で2015年12月19日に開催。THE COLLECTORS、バンド結成30年で2017年3月1日に開催。そしてTheピーズ、バンド結成日から30年後の2017年6月9日に開催。


 と、ここまで4本が行われてきて、これから1本が行われるわけだが、最初のthe pillowsは、2本目以降とはちょっと異なる。この武道館の2~3年前から人気も評価も高まりつつあるところに、曲が使われたアニメ『フリクリ』がアメリカで人気になったことからあちらでも名が知られた時だった。つまり、「このキャリアにして初めて」というドラマ性はあったが、「確かにやるなら今だな」「今なら売り切れるな」と、誰もが納得するタイミングだった。そしてその読み通り、大成功した。


 そして。2本目の怒髪天から、「無謀だけどやる」という、根本敬的に言うと「でも、やるんだよ!」なスピリットで挑む日本武道館、という側面が強まっていく。東京圏だけでなく、全国規模でファンもイベンター等の関係者も巻き込んで、みんながワッセワッセと応援を続ける中で機運が盛り上がっていき、当日は見事チケット完売で超満員、ステージの上も下も感極まりっぱなしでライブが進んでいく(特にボーカル増子直純)、という感動的なゴールを迎えた。


 ただし、その怒髪天も、無謀といえば無謀だが、武道館の直前の段階で日比谷野音やZepp Tokyoを売り切るようになるくらいの盛り上がりは見せていた。が、その次に控えていたのは、日比谷野音は何度もやっているが、90年代のメジャー所属期を含めて一度も売り切れたことなし、埋まるわけないのでZeppでワンマンを切ったこともなし、しかもこの時期べつに盛り下がっちゃいないが盛り上がっているわけでもなかったフラワーカンパニーズだった。


 ただ、ゴキブリのようにしつこく長年全国を回り続け、ライブハウス・シーンに生息し続けてきたバンドだけあって、仲間や先輩や後輩や関係者やファンなどからの応援態勢は、怒髪天の時に輪をかけて熱い展開を見せた。


 彼らに「フラカン武道館応援歌」を捧げた怒髪天は「武道館のバトン」も作って川崎と大阪で『武道館バトンわたし会』を行った。大阪では、FM802とイベンター清水音泉が大プロモーションを展開し、四星球などの後輩バンドたちも応援に回る。中国地方のイベンター夢番地は、夏フェス『WILD BUNCH FEST.』にフラカンを出演させる(フラカンの当地でのイベンターはキャンディープロモーションなので、このフェスに出られるのは例外的ケース)。たとえば90年代から(つまりフラカンがあんまり相手にされてなかった頃から)彼らを応援し続けてきた先輩=スピッツは、自身の恒例イベントにフラカンを出演させる。後輩サンボマスターは、全国ツアーの中でドラムの木内泰史がフラカンの「真冬の盆踊り」をネタにして歌い踊る謎の寸劇コーナーを設ける、などなど。


 その結果、9000人を集めてまさかのソールドアウト、大成功に終わった。アンコールのMCでベース&リーダーのグレートマエカワは、「次はがんばってる50代の先輩たちに武道館をやってほしいんだ」と、THE COLLECTORSやTheピーズやTOMOVSKYの名前を挙げた。


 そして2016年4月15日、日比谷野音のワンマンで、THE COLLECTORSが日本武道館に立つことがアナウンスされる。2016年9月3日、大阪の夏フェス『OTODAMA’16』のステージで、「武道館のバトン」をフラカンからコレクターズに渡す会が行われた。以降、フラカンの時と同じく各地・各世代・各業種からの熱いエールで、3・1日本武道館へのレールが敷かれていく。


 それらの中でも白眉だったのが、武道館の直前の2017年2月に、3週続けて渋谷CLUB QUATTROで行われた対バンライブ。2月5日はvs怒髪天、2月12日は vs the pillows、2月19日は vsフラワーカンパニーズーーつまり、先に武道館をやった後輩たち3組すべてと共演するという、このタイミングでこのバンドじゃないとできないスペシャル企画だった。当然3回ともソールドアウト、内容もすばらしいイベントになり、武道館への勢いをつけた。


 で、Theピーズの番になるわけだが。THE COLLECTORSまではまだわかるが、ピーズやるの!?と驚いた方は多かったのではないか。基本的にオールスタンディング志向で、イスありの会場では日比谷野音と中野サンプラザぐらい、ごく限られた回数しかやってこなかったバンドだし、メジャー・ブレイクとか大会場を目指すこととかに背を向けた活動をしてきた人たちだし、「武道館でワンマンをやった」という勲章などほしがりそうにないし。


 と、少なくとも僕は思っていたので、昨年12月、武道館ワンマンが発表になる直前に「武道館やるのでその特設サイトに推薦文みたいなのを書いてください」と、マネージャーから依頼があった時は、本当に驚いた。


 その後、マネージャーとはること大木温之に、どのように決まったのか話を訊いたところ、初めてTheピーズとして下北沢屋根裏でライブをやった日からぴったり30年後のこの日に、日本武道館をとれたことから始まったそうだ。


 そもそも日本武道館という会場は、多くの日が武道関係の催しで埋まっていたり(あたりまえだけど。武道館なんだから)、空いている日も抽選制だったりして、狙った日に武道館を押さえることは難しい。でもその日が抽選に出たので、エントリーしてみたら当選してしまったという。なお、マネージャーもライブ制作担当者も、その日じゃなければ武道館をやるつもりはなかったそうだ。


 で、6月9日が取れてしまったことを告げられたはるは、悩んだ末に「これはやった方がいいってことだろう」と腹をくくったという。先の4バンドと比べると発表から開催までの日が短いなどの不安要素はあるが、これもまた全国各地で応援態勢が取られながら、当日へ向かっている。4月30日の『ARABAKI ROCK FEST.17』では、「Theピーズ30周年スペシャル」が開催され、the pillowsや怒髪天やフラカンやTHE COLLECTORSのメンバー、奥田民生、The Birthdayのクハラカズユキ、トータス松本、TOMOVSKY、YO-KING、SHISHAMOの宮崎朝子がステージに上がる。


 というこの一連のベテランバンドたちによる日本武道館の流れ、その中にいる人たちは熱くなっているが、外から見ると「なんなのこれ?」というものだろうなあ、という自覚はある。なので、これがいったいなんなのか、最後に改めて考えてみる。


 まず、ビートルズ来日の昔から、日本武道館というのはロック・バンドにとって、「大きなハコ」というだけではない、特別な意味を持つ会場である。で、そんな日本ロックシーンにおける武道館は、デビューから5年以内くらいのバンドの目標としての、あるいはもっと大きくなっていく時の通過点として設定されるものであって、10年も20年もやっていてそこに立てないバンドは一生立てない場所だった。というか、そもそも武道館に立てないような規模のセールス・動員なのに、10年も20年もプロとして活動していくこと(つまりバンドで食っていくこと)自体が、20世紀まではほぼ不可能だった。


 が、バンドの活動の軸が音源制作からライブ活動に移って、年間100本レベルで全国のライブハウスを回りながらサバイブしていくバンドが増えていったり、ロックを聴く絶対数が増えてライブ人口が増加したり、お客の年齢層が広がって大人になってもライブに通うライフスタイルが浸透したりしたことによって、そのあたりが変わり始めた、というバックボーンが、まずある。


 そして、そもそもここを埋められるほどの動員力は持っていなくても、そして恒常的にここでワンマンを行うことは無理でも、長く活動してきた末の周年のお祭りとして、一回でいいから日本武道館ワンマンをやりたい、それならみんな来てくれるし、みんな応援してくれるーーというメモリアルな場所としての意味を、21世紀になって日本武道館が新たに持ち始めた、ということだ。


 それから。ここがかなり大きい気がするのだが、そのように、ブレイクせずとも長くしつこく根気よくやり続けているバンドが好きな人にとって……いや、ちょっと待て。違うぞ。ブレイクしなくても長くしつこくやり続けているから好きなわけじゃないぞ、俺は。好きになったバンドがたまたまそうだったんだ、俺が好きになるバンドはどれもそういう将来を辿りがちなんだ、なんでだろう……って、自問自答してもしょうがないが、とにかく、そういうバンドを好きで応援してきた人々にとっては、彼らが日の当たる大きな場所に立つ、というのは、本当にうれしいことなのだ、おそらく。だから応援したくなるのだ。


 これ、もちろんファンにとってもそうだけど、音楽業界やライブ業界の関係者に、特に多いという実感がある。つまり、そんなバンドを武道館に立たせる側の人たちに共通するメンタリティである、ということだ。「ことだ」って、力いっぱい自分もそうなわけだが。


 Theピーズのあとに誰が続くのかは、まだ発表になっていないし、知らない。知らないが、可能性があるとしたら、たとえばSA、もしくはSCOOBIE DOあたりではないかと、僕は予想している。


 ただ、SCOOBIE DOはまだ若いよな、もうちょっと歳とってからやった方がいいよな、と思っていたのですが、もう結成22年なんですね。the pillowsがやった時の、山中さわおの年齢を超えているんですね。そうか。(文=兵庫慎司)