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最終回直前!『カルテット』劇伴に込められた“仕掛け”を現役作曲家が紐解く

2017年03月20日 14:52  リアルサウンド

リアルサウンド

TBS系 火曜ドラマ「カルテット」オリジナル・サウンドトラック

 現在放送中で初回放送時から大きく話題になっていたTBS系火曜ドラマ『カルテット』が、次回3月21日の放送をもって遂に最終回を迎える。本作品の劇伴は、ピアノ、ベース、ドラムからなる3人組のインストゥルメンタルバンド・fox capture planが担当し、サントラ盤に加えて同バンド監修のピアノスコアが発売されるなど、音楽面でも話題になっている。本記事では、ストーリーで様々な役割を果たしているクラシック作品についても触れながら、同作の劇伴について幅広く考察していきたい。


・インストバンド・fox capture planが手がけた劇伴


 はじめに、fox capture planが手がけた劇伴を大きく区分しておこう。


1、ピアノ、ベース、ドラムが主体となったバンドの特徴が出ている劇伴
2、シンセサイザーを主体としたアンビエント風の劇伴
3、ピアノ曲や、そこに木管楽器などが加わったメロディックな心情系の劇伴


 fox capture planの楽器編成はピアノ、ベース、ドラムであるが、この3つ以外の「西洋音楽等で使用されてきた楽器」「電気楽器」「電子楽器」が使用されている劇伴も多くある点は注目すべきだ。


 上記の中でも特に「1」は、リズムを中心にリフなどから音楽素材を発展させていく劇伴が多く、こういった劇伴は近年の映像作品の中でも特に連続テレビドラマで多く聴かれるタイプの音楽となっている。


 フィルムスコア(映像が出来上がってからその映像の特定の部分に合わせてそれぞれの劇伴を書くといった収録方法)のように「作曲をする段階で映像の動きを考慮に入れる必要があったり、各楽曲の秒数が明確にフィックスされている場合」は、リズムが比較的はっきりしていない楽曲の方が、演奏の際のアゴーギクの付け方などによって映像に合わせた細かな変化を表現しやすいといった傾向がある。


 一方、溜め録り(完成映像を見る前に台本や打ち合わせ内容を素材として劇伴を書き、纏めて収録する方法)の場合はそういったことはそれ程考慮に入れずに作曲することになるので、この辺りの点が、溜め録りを主流とする連続テレビドラマに、リズム系の劇伴が多く聴かれるようになってきた理由の一つとして考えられる。


 インストバンドが劇伴を手がける例は近年多くみられ、その取り入れられ方も様々となっている。例えば、2000年代後半に放送された某連続ドラマでは、当時ライブ活動をしていたインストバンド・Rainbow SeptetのCDアルバムがそのまま劇伴として使用された結果、楽曲自体が大きく注目されたといったケースも確認された。


・「音楽」がテーマになっている作品だからこその「状況内音楽」


 本作のように「音楽」がテーマの一つとなっている映像作品の場合は「演奏シーン」があることも多いので、「状況内音楽」の登場も多くみられる。


 「状況内音楽」とはストーリーの中で実際に聴こえている音楽で、本作の場合は主人公たちが結成しているカルテット(カルテットドーナツホール)の演奏シーンと共に使用される音楽はもちろん、それ以外にも多数の「状況内音楽」が確認でき、そこが映像作品の注目すべき点ともなっている。


例えば、
・カラオケボックスでの歌唱及び、隣部屋の歌い声の音漏れ
・レストラン「ノクターン」でかかっている店内BGM
・世吹すずめ(満島ひかり)がバイト先で流したリスト作曲「コンソレーション」
・巻真紀(松たか子)がピアノで弾いたバッハ作曲「メヌエット」
・山本みずえ(坂本美雨)が歌った演歌楽曲


 対して「状況外音楽」とはストーリーの中で実際に聴こえていない音楽で、作曲家が映像作品のために書き下ろした外的に付加された劇伴のことを指す。


 状況内音楽と状況外音楽について、本作の音楽演出で筆者が注目した点を数点ご紹介する。


 まずは、劇伴として「状況外音楽」が流れているところに巻真紀(松たか子)が弾いているバイオリンの音(状況内音楽)を被せて両方を同時に使用しているシーンがあるところだ(第5話)。また、回想シーンで巻幹生(宮藤官九郎)と早乙女真紀(松たか子)のキスシーンがあり、部屋の音楽プレーヤーからマスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ 間奏曲」が流れているが、その後、屋外での別の回想シーンへと映像が移り変わる際にもマスカーニは流れ続け、状況内音楽を自然に状況外音楽へと変化させていることで、「時間経過の表現」と「気持ちの持続」の両面が見事に表現されている(第6話)。


 そして、第7話の終盤で早乙女真紀と世吹すずめ(満島ひかり)による二重奏のシーンがあるが、この「状況内音楽」が流れ続け「予告編音楽」としても成立させる、という部分も音楽演出として興味深かった。


 さらに、世吹すずめがバイト先でBGMとしてリスト作曲「コンソレーション」を流したシーンでは、初めは「状況内音楽」として始まった音楽が、別のシーンへと映像が移り変わったのをきっかけに「状況外音楽」へと変化したと思いきや、実はこのシーンはその場でうたた寝をしてしまった世吹すずめが見ていた「夢」だったので、一種の「状況内音楽」とも解釈できる、といった面白い演出も見られた。また、夢から覚めるのと同時にその音楽が「カット・アウト」された事で視覚的要素と聴覚的要素の両面で現実に戻す印象的なワンシーンとなった(第8話)。


・ストーリーを彩るクラシック作品


 音楽を担当したfox capture planは、ジャズのフィールドを中心に活動するアーティストということもあり、劇伴でもジャズのエッセンスが取り入れられた楽曲が見られたが、そういった中で数多く聴かれたクラシック作品との、ハイブリッドともいえるかのような音楽の使用も新鮮に聴こえた。そこで、前項に加え、本作で使用されたクラシック作品について少しだけ補足する。


【マスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ 間奏曲」】


 先述のキスシーンは、巻幹生と早乙女真紀が初めて結ばれたシーンであるが、この際に使用されていたマスカーニ作曲「カヴァレリア・ルスティカーナ 間奏曲」は、巻幹生が妻を背に失踪してしまうシーンや、二人が離婚を決め指輪を外すシーンでも使用されているのだ。この2人が関わる大切なシーンでは必ずと言っていいほど使用され、その曲調もあり特に別れるシーンでは映像と劇伴との間に多少の距離が生まれることで映像がかえって印象的に映るといった効果も感じられた。ちなみに、この楽曲が使用される歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」は「恋愛のもつれ」や「生活が苦しい人々」も描かれているため、2人のストーリー上の設定と共通している部分もあった(第6、7話)。


【サティ作曲「ジュ・トゥ・ヴ」(クラシック作品に分類していない資料もある)】


 世吹すずめが不動産屋でのアルバイトの面接で「大歓迎ですよ」と言われ採用が決まったシーンで、サティ作曲「ジュ・トゥ・ヴ」が劇伴として使用された。この楽曲は「あなたが欲しい」という日本語の副題も付いている本来はかなり強烈な歌詞の「恋の歌(シャンソン)」である。しかし、不動産屋の社長による「大歓迎ですよ」という言葉と「あなたが欲しい」をかけたようなコメディ要素を含んだドラマならではの音楽演出とも解釈できる(第8話)。


 第1話で使用された、カルテット演奏による状況内音楽であるドラゴンクエストの「序曲」が最終回の予告編で再び顔を見せた。音楽と同じように、本編でも第1話の内容が最終回の紐解きに関連しているのか……。様々な角度から注目される最終回となりそうだ。(タカノユウヤ)