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EXILE THE SECONDはブラックカルチャーをどうエンタメ化した? DJ YANATAKEのライブ評

2017年03月20日 11:33  リアルサウンド

リアルサウンド

EXILE THE SECOND『BORN TO BE WILD』

 EXILE THE SECONDが、全国アリーナツアー『EXILE THE SECOND LIVE TOUR 2016-2017 "WILD WILD WARRIORS”』を現在開催中である。セルフプロデュースにより、音楽性とパフォーマンスの両方でLDHの新局面を提示するエンタテインメントは、長くクラブシーンで活躍してきたDJの目にはどのように映るのか。レコードショップ「Cisco」のヒップホップ・チーフバイヤーとして宇田川町の一時代を築き、Def Jam Japanを立ち上げるなど、日本のヒップホップシーンの重要な場面に関わってきたDJ YANATAKE氏に、3月10日の神戸公演を観てもらい、その感想を語ってもらった。(編集部)


参考:EXILE THE SECONDが示すヒップホップへのアプローチ 矢野利裕『BORN TO BE WILD』評


■EXILE SHOKICHIとの出会い


 EXILE SHOKICHI君が昨年4月に1stソロアルバム『THE FUTURE』をリリースした際、僕はプロモーション用のDJ MIXの制作を担当させていただきました。SHOKICHI君の担当A&Rであるavexの櫻井克彦君は、昔から一緒にヒップホップシーンで活動してきた友達で、彼から依頼を受けたんです。『THE FUTURE』は、聴いてみたら思いのほかヒップホップ色が強くて、トレンドもしっかり押さえてある仕上がりだったので、DJプレイにも向いていました。その流れで、SHOKICHI君は僕がパーソナリティーを務めているラジオ番組『INSIDE OUT』(block.fm)に出演してくれて、どんな音楽に影響を受けてきたかを話してくれたのですが、ブラックミュージック全般、特にヒップホップにすごく詳しくて驚きました。僕のラジオはコアなヒップホップ番組なのですが、そのリスナーにも届くくらい深い話ができたのが印象深かったです。だから、SHOKICHI君がEXILE THE SECONDでどんなパフォーマンスをしているのかは、すごく気になっていました。


 今回、神戸で鑑賞させていただいたEXILE THE SECONDのライブ「WILD WILD WARRIORS」は、僕にとって初めてのLDH体験で、とても刺激的でした。まず大前提として、長らくロックやアイドルポップスが主流になっている日本の音楽シーンで、ブラックミュージックを志向するアーティスト集団が、これだけの規模で完成されたエンタテインメント・ショウを作り上げていることに驚きました。ダンスを軸としたブラックカルチャーを、Jポップのフィールドにどう落とし込み、いかに拡げていくのか。LDHならではの回答を観ることができたのは、僕にとっても収穫です。


■散りばめられたブラックミュージックのエッセンス


 たとえば、開演前のDJタイム。友人でもあるDJ SOULJAHが、ビギー(ノトーリアス・B.I.G.)の曲から回し始めて、ドクター・ドレーや50セントなど、90年代ヒップホップのクラシックを繋いでいき、最後の方ではビッグ・ショーンの新譜までかけていました。ライブ前日の3月9日はビギーの命日だったので、そういう選曲になったんでしょうね。余興として気が利いているし、普段はUSのヒップホップを聴かない人も、心地よく楽しめる演出だったと思います。


 ヒップホップに限らず、ブラックミュージックのエッセンスを感じさせる演出は随所に散りばめられていて、思わずニヤリとさせられるポイントも多かったです。特に印象的だったのは、SHOKICHI君がソロパートで明らかにマイケル・ジャクソンを意識したパフォーマンスを披露していたこと。衣装、ダンス、歌に至るまで、マイケルへのリスペクトが感じられて、さすがはSHOKICHI君だと感じました。それ以外にも、ジェームス・ブラウンの「Get Up (I feel Like Being A) Sex Machine」やカーティス・ブロウの「The Breaks」、アース・ウインド & ファイアー「September」まで、ソウル~ディスコ~オールドスクール・ヒップホップの代表曲とともにパフォーマンスするシーンもあって、まさに子どもから大人まで誰もが楽しめる、間口の広いエンタテインメント・ショウになっていました。日本のアーティストでは、久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」をカバーしていましたね。


 個人的にすごく気に入ったのは、クラシック中のクラシックである「Choo Choo TRAIN」のリミックス。曲の途中で、ジャズのエッセンスを取り入れたアレンジに変わるのですが、ゆったりとしたグルーヴのある歌い回しになっていて、すぐに音源が欲しいと思いました。僕のDJプレイでもかけたいくらい、洒落たリミックスでしたね。ああいう大人なアプローチができるのがEXILE THE SECONDの魅力だと思うので、バラードやダンスナンバーも良いのですが、ミドルテンポのグルーヴィーな楽曲はもっと増やしてほしいです。


■セクシーさを打ち出したパフォーマンスの魅力


 パフォーマンスの面でいうと、セクシーさを前面に打ち出しているのがとても良かったです。特に外国人女性ダンサーとの絡みは刺激的で、女性ファンたちがこれまで聞いたことがない種類の悲鳴をあげていたのが印象的でした(笑)。海外のR&Bは性愛をテーマにした楽曲も多く、お客さんをステージにあげて扇情的なパフォーマンスを披露したりすることも珍しくないですが、日本でああいったパフォーマンスを観ることができるのは貴重です。あえて外国人ダンサーを起用したことで、セクシーさとクールさの絶妙なバランスが保たれていたのも、良いアイデアですね。エロチックな香りを漂わせるのも、成熟した大人のエンタテインメントの醍醐味ですし、ファンの方々もきっと楽しんでいるはずなので、ああいうパフォーマンスにはどんどん挑戦してほしいです。ゆくゆくは、東京ドームクラスの広い会場で、彼らのセクシーなダンスを楽しみたいですね。


 ファンの方々をステージに上げるサービスも素敵でした。ライブを観に行くことは“体感”として素晴らしいけれど、ステージに上がるとなるとまた別の話で、きっと彼女らにとっては強烈な“体験”として忘れられない思い出になったと思います。どれだけ頑張っても、あの規模のステージに立つことができるアーティストはほんの一握りです。ステージからの光景を一瞬でも眺められたというだけでも、すごく貴重なこと。そのうえ、メンバー全員があれほど紳士的にエスコートしてくれて、ハイタッチまでするのだから、一生好きになっちゃいますよね(笑)。もし10代であの経験をしたら、人生が変わってしまうかもしれない。ステージに上がった子たちは、翌日は学校でヒーローでしょう。


 「I say yeah! You say hoo!」みたいなコール&レスポンスが、観客への説明なしでできているのも、とても新鮮に感じました。LDHらしく、ブラックミュージックやクラブカルチャーをファンたちに伝えてきた結果として、あの空間ができあがっているんだということを実感しましたね。


■究極の“足し算のエンタテインメント”


 ブラックミュージックを散りばめつつも、全体としてはアミューズメント・パークのような見どころ盛りだくさんのエンタテインメントとして、誰もが楽しめるライブだったと思います。ジェットコースター感もあれば、ミュージカル感もある。最初のMCで「最上級のエンタテインメント・ショウにようこそ!」と言っていましたが、看板に偽りなしという感じです。


 メンバーそれぞれが見せ場を持っていたのも、ライブに幅広さを生んでいました。SHOKICHI君はドラムを叩いたり、ピアノを弾いたりして、音楽に真摯に向き合っていることを感じさせてくれましたし、ネスミスさんのギター弾き語りも、ダンスナンバーが多い中でアクセントになっていました。本人たちのやりたいことが、ちゃんと表現されていたのは好印象です。EXILE THE SECONDとしてのカラーをはっきりと出しながら、個々のキャラクターも立っていて、全員にスポットが当たっています。


 THE RAMPAGEが出演していたのも、次の世代をフックアップしている感じで頼もしいポイントでした。THE RAMPAGEはよりラップに力を入れている感じなので、さらにヒップホップ寄りのパフォーマンスも期待できそうです。SHOKICHI君がソロでやっているような、さらにヒップホップ色の濃い楽曲が増えると、個人的には嬉しいですね。


 舞台装置も豪華で、LEDの使い方ひとつ取っても洗練されていました。回転式のステージや映像の演出など、何もかもが先鋭的です。あらゆる要素が詰め込まれているのは、ある意味では究極の“足し算のエンタテインメント”と言えるかもしれません。僕の世代から観ても、楽しめるポイントがたくさんありました。ディズニーランドのように、親子で行っても面白いと思うので、ぜひ一度、彼らのライブを体験してほしいですね。(リアルサウンド編集部)