2017年03月20日 10:23 弁護士ドットコム
ランチタイムで混雑する回転寿司屋で、食べ終わったのに楽しそうにおしゃべりする女子大生たちーー。その後姿を見つめながら、都内のIT企業で働くHさんは、席が空く順番の列にイライラしながら並んでいた。
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Hさんの食事が終わり、退店するころになっても、女子大生たちはおしゃべりを続けていた。Hさんは、牛丼屋や回転寿司などファストフード店では、食べ終わったら速やかに会計して退店するべきではないかと考えている。「特に混雑するお昼時で、並んで待つお客さんが大勢いるなら、なおさらではないでしょうか」と憤る。
Hさんの怒りは、女子大生たちだけに向いているわけではない。注意して退店させない店側の対応にも不満を持っている。食事が終わっていることが確認できたなら、店側が速やかに退店を求めるべきではないかと考えているのだ。
おしゃべりに興じる女子大生たちは、「自分たちも対価を払っている」「場所代も値段に含まれているはず」といった主張があるかもしれない。法的にみて、飲食が終わっている客に対して、店側は退店を求めることはできるのか。尾崎博彦弁護士に聞いた。
「そもそも、こういったことは本来マナーの範ちゅうで考えるべきことで、法律的に強制するのは最後の手段と理解しておいて下さい。
まず、居座り続ける客をどうするかは飲食店次第です。飲食店側は、その店舗の管理権を有しています。どのような客を受け入れ、退出させるかは、もっぱらその飲食店の方針で決められるわけです。
すなわち、飲食店は『その店内で食事などを提供するためのサービスを行う』わけですが、そのサービスを提供する必要のない人に対しては、退去を求めることも可能なのです。
店側としては正当な活動であり、法的に問題となるわけではありません。もちろん飲食店の業態にも様々なものがありますから、長居する客をどこまで容認するかは、もっぱらその店の業態や方針によって異なることになります」
尾崎弁護士はこのように指摘する。並んでいる他の客などが退店を求めることはできないのか。
「客を退店させるかどうかは、もっぱら当該場所を管理する『店側の権限』であって、義務ではありません。したがって、居座り続ける客を店側が容認している以上、他の客が(店に文句を言うことはともかく)その客を追い出す権限はありません」
では、店側が食べ終わっている客に対して退店を求めた場合、「場所代も値段に含まれているはずだから、いつまで居ようと私の自由のはずだ」と主張することはできるのか。
「そのような主張は正当ではありません。
前述のように、客がその場所を利用できるのは、当該サービスを受けるために必要だからであって、その限度でのいわば反射的な利益に過ぎないからです。
したがって『場所代が値段に含まれている』かどうかはともかく、『いつまでも店内に居続けられる自由』などありません。
それどころか、あくまでこのような主張に固執して、再三の退去要求に従わないで店に居座り続けると、不退去罪(刑法130条後段)に該当する可能性も出てきます。現実にも、注文の不手際に立腹して居座り続けたお客が逮捕された事例もあるようです。
結局、長居する客をどこまで容認するかは、店側が『経営的な判断』として行うべきことです。しかし、お客さんとしては、店から早々に追い出されたり、あるいは逆に長々と待たされたりして不快な思いをしたら、店の評判を落とすことになって商売にも差し支えます。
ですから、店側としても、食事が終わったお客さんを気分良く帰っていただくように工夫すると共に、お客さんにもマナーが求められることはいうまでもありません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
尾崎 博彦(おざき・ひろひこ)弁護士
大阪弁護士会消費者保護委員会 委員、同高齢者・障害者総合支援センター運営委員会 委員
事務所名:尾崎法律事務所
事務所URL:http://ozaki-lawoffice.jp/