スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。8日間のプレシーズンを終え、まもなく開催されるF1開幕戦オーストラリアGP。2014年から続いてきたメルセデス一強時代は終焉を迎えるのだろうか。
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快晴のバルセロナ、カタロニア・サーキットで8日間に渡って行われた2017年のプレシーズンテストが幕を下ろした。毎年のように、テストの様子は我々に多くのことを考えさせてくれるが、このプレシーズンテストの走りだけでは、開幕戦オーストラリアGPで何が起こるか、予想するのは難しい。だが、もう間もなく新しいルールとなったF1が何をもたらすか、そして2017年開幕戦の地アルバート・パークで誰が一番速いのかがわかるだろう。
今回のテストで明らかになったもっとも重要なことは、2014年から続いてきたメルセデスの一強時代が終わりを迎えるだろうということだ。そうは言ってもメルセデスW08は素晴らしいマシンであり、メルセデスをチャンピオン候補にしないというのはありえない選択肢だろう。
彼らは依然としてプレシーズンテストで2番目に優れたパフォーマンスを見せるだけの速さは持っている。だが、メルセデスが“単なる”2番手だという印象を感じたのは、フェラーリが凄まじい速さで見る者を圧倒したからだ。
ちょうど1年前、フェラーリは何かよいものを持っているような雰囲気を漂わせていたが、実際のレースではそれほどでもなかった。だが、今年は違う。本物の速さなのだ。今回のテストでは他の多くのチームをしのぐ周回数を走り、ウルトラソフト、スーパーソフト、そしてソフトタイヤで最も速かったのはフェラーリだった。実際に8日間の総合タイムで最速を記録したのはキミ・ライコネンで、2位よりも0.5秒近く速かったのだ。
フェラーリは一発の速さ、周回タイムのどちらもメルセデスを上回っているように見えるが、対抗するメルセデスは巧妙にポテンシャルを隠している可能性がある。
しかし、フェラーリのレースシミュレーションのペースはここ数年のチャンピオンチームと同等であり、これは情け容赦なくこのシリーズを支配してきたメルセデスに戦いを挑めるか否かを測るうえでは最も頼もしい証拠となるだろう。メルセデスの牙城を崩すことが現実のものとなるかどうかはまだわからないが、その兆候は確かにあるのだ。
そういう意味では、冬の間にレッドブルとルノーが成し遂げたことには少しがっかりした。レッドブルRB13がお披露目されたときには少しシンプルすぎるように感じたのだが、プレシーズンテストを通じてその外観に大きな変更が施されることはなかった。メルセデスやフェラーリの非常に複雑な空力パーツと比較すると、そこに関してはレッドブルが彼らと同じレベルにいるとは思えない。ルノー製パワーユニットも満足のいくパフォーマンスを発揮できておらず、信頼性に関する問題でチームを悩ませているようだ。
これらの事情により、レッドブルはフェラーリとメルセデスという二強からはかなり差をつけられているものの、3位を獲得するには十分な速さを備えていると推測している。だが、ウイリアムズも驚くべき競争力を発揮しているため、実際のところレッドブルのライバルはウイリアムズになるかもしれない。
18歳の新人ランス・ストロールがクラッシュによってたびたびマシンが走行不能となったウイリアムズだが、クラッシュによるトラブルのない日は彼らはいつもよいパフォーマンスを見せていた。2回目のテストの終わりにはマシンの速さに自信を持ったのか、チームはもっぱらレースシミュレーションに集中していた。
グリッドの中団はかなり興味深いことになるだろう。多くのチームがわずかな差のなかでひしめき合っているからだ。フォース・インディア、ハース、そしておそらくトロロッソがポイントを争うことになるだろう。
その一方で、ルノーは本来の速さが未だ謎のままであり、型落ちのパワーユニットを搭載しているザウバーは後方に沈み、シーズンが進むにつれて最新型のパワーユニットを搭載しているライバルたちとの差はますます広がっていくと考えられる。
多くのドライバーたちが予想しているように、より速くなったF1マシンと劣化が遅くなったピレリタイヤの影響で、オーバーテイクの回数は減少するだろう。ただ、少なくとも今年はすべてのチームのマシンが2016年の最速マシンより速いということははっきりしている。
現時点において、最も期待はずれだったのはマクラーレン・ホンダだ。2年に渡る困難な時を経て迎えた今シーズンだったが、大きな希望は悪夢へと変わった。歴史的なオレンジのカラーリング、チームの新たな方向性、そしてホンダによる新たなパワーユニットのコンセプトなどはどうでもよい。進歩というよりむしろ、マクラーレン・ホンダの復活初年度である2015年の、最も悪かった時期に逆戻りしたようだ。
パワーユニットに関するあらゆる種類のトラブルにより、8日間のテストにおけるマクラーレン・ホンダの走行時間は大きく制限されてしまった。油圧低下による問題から始まり、2回目のテストの最終日までチームはずっと電気系トラブルの解決方法を模索し、原因究明を行っていた。
これによってマクラーレン・ホンダは8日間のテストで最も少ない周回数しか走ることができなかったうえ、全チームの中で唯一レースシミュレーションを行うことができなかったのだ。
今回のテストを受けてひときわ失望しているのがフェルナンド・アロンソだろう。一連のトラブルの原因はホンダにあると考えている2度のF1チャンピオンは、彼らに対する忍耐の限界を超えているようだ。
取材陣からのインタビューに応じるアロンソは、ホンダが自分たちの役割を果たしさえすれば、マクラーレンには勝つ用意ができていると声を荒らげる。彼は平然とパワーユニットが勝てるレベルに達していないと主張したのだ。
望んでいる結果を手に入れるまではF1から引退しないとアロンソ自身は語っているが、いつかル・マンに参戦したいという考えをもっているため、2017年でF1から身を引く可能性すら考えられる。
ただ公平のために言うと、ホンダに対するアロンソの“口撃”は、マクラーレンとの合意のうえで行われている可能性が高い。チーム代表のエリック・ブーリエがホンダを批判し、チームとエンジンサプライヤーという関係に悪影響を与えるよりは、エースドライバーであるアロンソを記事の見出しに載せる必要があると感じたのかもしれない。
プレシーズンテストを終えて明らかになったことがあるとすれば、それは2017年もマクラーレン・ホンダが苦しむだろうということだ。もし状況が好転しなければ、関心の的となるのはレースの結果よりもむしろ2018年にホンダと決別するかどうかになるだろう。そして仮にホンダがマクラーレンとの関係を失ったとき、それでもなお彼らはF1に興味を持つだろうか。そうだと願おう……。