2017年03月19日 09:03 弁護士ドットコム
保育園に入園するための「保活」が年々、激化している。東京都心部で保活した女性(35)は2月、幸いにして4月から認可保育園への入園が決まったものの、保活でおさえた認可外保育園に支払った「入園予約金」5万円が戻ってこないことがわかり、落胆しているという。
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入園予約金とは何か。この女性によれば、昨年の秋頃に見学に行った認可外保育園で「今日、5万円の入園予約金を支払ってもらえれば、確実に入れますよ。入園する場合は、その5万円を『入会金』扱いにします」と、園長から説明を受けたのだという。その際、「入れなくても返金しません」と口頭で言われたものの、「入れるところが見つかった!」という喜びのあまり、支払ってしまった。
とはいえ、この認可外の保育園は、女性にとっては補欠の扱い。一番の目的は「本命の認可保育園に入るために、『無認可に入れる覚悟をしてまで復帰したいんです』とアピールするため」だった。
そして今年2月上旬、認可保育園に入れることがわかった後にすぐ、認可外保育園へ連絡。すると、「入園予約金は、入っても、入らなくても、返金しません」と言われたそうだ。この女性は「返金されないと説明は受けてはいましたが、この園の対応に、本当に問題はないのでしょうか」と話す。
入らないのにもかかわらず、返金しないことに法的はないのだろうか。もし返金を求める場合、どのような方法があるのだろうか。福村武雄弁護士に話を聞いた。
「結論から言えば、今回のケースでは返還について交渉する余地はありそうです」
福村弁護士はこのように指摘する。
「まず、入園予約金を返還しないという保育園の規定が『消費者契約法』により、無効となるかについて検討します。同法9条1項では、無効になる部分を次のように定めています。
『当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの、当該超える部分』
しかし、今回の事例でいえば、園長が口頭で言っているだけとのことです。そもそも入園予約金の不返還について当事者の合意が形成されたといえるのかは、疑問が残ります。
また、不返還の条項が存在するとして、返還しない入園予約金が何の対価なのかについて検討する必要があります。保育園によっては入園予約金を入学後の毎月の月謝に充当する所もあります。この場合は明らかに預かった予約金は『保育の対価の前払い』になり、実際に保育を受けていない状態で解約しても、保育園に損害は発生していないと考えられます」
今回のケースでいえば、どうだろうか。
「この園が、入園直前に入園希望した場合にも、予約金を徴収していたのかは不明ですが、直前の入園希望者からは予約金を徴収していなかった場合には、そもそも入園予約金は『入園資格を得る対価』ではないことになります。全額を返還しない規定は無効になる可能性が高いと思います。
全ての入園希望者から徴収していたとしても、正式な入園時に別途入園金を徴収している場合にはやはり、入園の対価には該当しません」
今回のケースでいえば、どうだろうか。
「この女性によれば、入園しないことを伝えたのは、2月上旬。入園まで約2か月間あり、その後、4月までに、認可・認証保育園に入れなかった人からの申し込みがあることも予想されます。女性が支払った5万円が『平均的損害』(消費者契約法9条1項)を超えていると判断されれば、その部分について無効となると思われます。
任意に返還をしない保育園に対して返金を求める方法としては、少額訴訟の提起、消費生活センターに相談することなどが考えられます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
福村 武雄(ふくむら・たけお)弁護士
平成13年(2001年)弁護士登録、あすか法律事務所所長
関東弁護士連合会・消費者問題対策委員会元副委員長、埼玉弁護士会消費者問題対策委員会元委員長、安愚楽牧場被害対策埼玉弁護団団長
事務所名:あすか法律事務所
事務所URL:http://www.asukalo.com