2017年03月19日 08:23 弁護士ドットコム
受話器を取り、店名を言い始めた途端、電話が切れてしまう。電話に出たユウタさん(大学生・20)は「また、あいつか」とため息をついた。ユウタさんが働くレンタルDVD店には深夜になると、時折「あいつ」からの電話がかかってくる。「あいつ」は、男性店員が対応すると即座に電話を切り、女性店員が対応するとアダルビデオの在庫検索をして欲しいと頼み出す。
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電話主の目的は判然としないし、男性店員が出るとすぐに通話が切られてしまうため、同一人物という証拠はない。しかし、同じことがあまりにも続くため、店員たちの間では「女性店員にアダルトビデオのタイトルを復唱させたり、タイトルを女性に対して言ったりすることで、性的に興奮している『あいつ』がやっているのではないか」と結論づけられるようになった。
接客業務もあるため、深夜の怪電話は店員にとって大迷惑だ。そこで、ユウタさんは「法的に何か問題はないんですか。女性店員はかなり嫌がっていて、セクハラではないかと思います」と話している。
同一の人物からこのような電話が繰り返された場合、何らかの犯罪にはあたらないのか。寺林智栄弁護士に聞いた。
「今回の件については、電話の頻度や、問い合わせするビデオの本数等によっては、ビデオ店に対する業務妨害罪に該当する可能性があると考えます」
どのくらいの頻度であれば、該当するのだろうか。
「数日や1日に1回程度、また、問い合わせするビデオの本数も数本程度であれば、通常の問い合わせの範囲内と言わざるを得ません。また、男性店員が電話に出た途端に切るという行為も、『電話番号を間違ったと思った』『より応対のいい店員に対応してもらいたいだけ』などと言い訳される可能性も高く、証拠を立証するのは大変そうです。
業務妨害罪に該当しうるのは、1日に数十本も電話がかかってきたり、一度に女性店員に問い合わせるアダルトビデオの本数が数十本にも上っていたりする場合に限られると考えられます」
別の罪に該当する可能性はないのか。
「度を越えた在庫確認電話により、女性店員が精神疾患に罹患する事態になってしまった場合には、『傷害罪』が適用される危険性もあります。傷害罪は身体的な傷害に限らず精神疾患に罹患した場合にも成立しうる罪名です」
なお、今回この体験談を寄せた男子大学生は、この件を「セクハラになるのではないか」と話していたが、寺林弁護士は「セクハラ」ではないと指摘する。
「よく誤解されていますが、法的には、性的な嫌がらせ全般が『セクシャルハラスメント』に該当するわけではありません。セクハラというのは、職場内で行われる性的な嫌がらせを指すものです。今回のケースのように、客と店員という関係性の中で起きた嫌がらせ行為が該当するものではありません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
寺林 智栄(てらばやし・ともえ)弁護士
2007年弁護士登録。東京弁護士会所属。法テラス愛知法律事務所、法テラス東京法律事務所、琥珀法律事務所(東京都渋谷区恵比寿)を経て、2014年10月開業。刑事事件、離婚事件、不当請求事件などを得意としています。
事務所名:ともえ法律事務所
事務所URL:http://www.tomoelaw323.com/