トップへ

2017年からスーツを着込み、NSXでサーキットへ。塚越広大の“新たなる思い”

2017年03月17日 19:31  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

2017年から塚越広大は、スーツを着込みサーキット入りしている。「コーディネートを考えるとハマりますね」と塚越。
スーパーGT、スーパーフォーミュラで活躍するレーシングドライバー、塚越広大。そのアグレッシブな走りに魅了されるファンは多いが、今年彼は、ある“決まりごと”を作った。30歳となった塚越が決めたのは『サーキットへの移動にスーツで来る』ということだ。

「今シーズン、スーツで移動します。気持ちを引き締めていきたいと思います」

 2月23日、塚越は自身のTwitterアカウント(@koudai1120)にこうツイートした。ほとんどのレーシングドライバーはふだん自宅からサーキットへの移動のときは私服がふつう。サーキットに到着してからはスポンサーロゴ等がついたチームウェアを着用し、いざレーシングカーに乗り込むときにレーシングスーツを着る。

 しかし、今シーズンから塚越は移動時にスーツを着用することにしたのだ。“スーツは男の仕事服”とは言うが、決して楽な服装ではない。いったいなぜ、わざわざ塚越はスーツを着用することにしたのか。スーパーGTの公式テストが開催される岡山国際サーキットに、ネイビーのスーツをビシっと着込み登場した本人に、直接聞いてみることにした。

■「もっとプロ意識をもっていこう」塚越の思い
「もともとREAL RACINGを応援してくださっている方が、ずっとそのことを言っていたんです。『スポーツ選手としてスーツで移動しないか』と。最初は正直、意図がそれほど分からなかったです。僕たちはスーツも着慣れていないですし、過ごしやすいものではないですから」と塚越は言う。

 プロ野球やサッカーでも、その他のスポーツでも、多くのプロのアスリートはスーツを着用して遠方の試合会場に移動することが多い。「応援してくださっている方」が言っていたのはそのことだが、最初は「意図が分からなかった」塚越のなかで、自らが考えていた思いが繋がっていった。

「自分も30歳になって若手でもないですし、ガムシャラにレースをやって結果を残すだけの選手から、自分がもっとプロとしてモータースポーツに対して、少しでも良くしていきたい、変えていくために何かしたいという立場になっている思いがありました」

「いまスーパーGTがすごく人気が出てきているなかで、自分自身がレーシングドライバーとして、もっとプロ意識をもっていこうと考えたんです。ドライバーとして結果を残すことは当たり前ですが、プロとして少しでも変えたいという思いがありました。そのひとつが、スーツでの移動です」

 塚越はネクタイを締め革靴を履き、2月のメーカーテストからスーツでの移動を開始した。当然、まわりのドライバーは今までどおり私服。「まわりはみんな『どうしたの?」って不思議がりましたね。正直、僕たちがスーツを着るとしたら発表会やパーティ、表彰式くらいですから。説明するのがめんどくさいくらいみんなに説明しました(笑)」と塚越は笑う。

「でも僕としては信念をもってやっていますし、これがチーム単位だったりメーカー単位だったりでスーツを着るようになれば、もっとカッコよくなると思うんです。もちろん、それぞれがもっているレーシングドライバー像というのがあるので、それぞれやっていけばいいと思います。僕はスーツを着ることで、メリハリをつけた姿をみせていければいいなと思っています」

■もっとカッコいいレーシングドライバーを目指したい
 こうしてスーツを着用しはじめた塚越だが、彼自身にもうひとつ大きな変化があった。それは、自費で発売されたばかりのホンダNSXの市販車を購入したのだ。スーパーGTではNSX-GTを、ふだんはNSXの市販車をドライブするというわけだ。これについても、なぜなのかを塚越に聞いた。

「NSXが発表された時点で自分は『買います!』と言っていたので、引くに引けないところもありました。予想よりも値段は高かったですが(苦笑)」と塚越。だが、彼にとってNSXを買うというのは、スーツを着ることと同じ思いがあるのだという。

「自分がスーパーGT、スーパーフォーミュラを戦いながら、NSXを買って乗ることができるということは、これからレーシングドライバーを目指す子どもたちにとってもすごく夢があると思うんです」

「僕は縁あって、埼玉県のフォーミュランド・ラー飯能というカートコースをやっていますが、そこでキッズスクールにやって来る子どもたちが『先生がGTでレースをやっていて、NSXで来る』となれば、カッコいいと感じてくれると思うんです。僕もそういう憧れがあってプロドライバーになりましたから」

「レーシングドライバーってすごいんだな、スポーツカーってカッコいいんだな、って感じてくれる人がひとりでも増えてくれればという思いがスーツであり、NSXでもあるんです」

 子どもの頃から憧れたレーシングドライバーになり、30歳になり結婚もしたいま、その夢を次の世代に与えたい。そして他のプロアスリートと同じくらい、レーシングドライバーの地位を高めたい。塚越の思いはそこにある。

「たとえNSXを買おうがスーツを着ようが、最終的にはやはりレースで結果を残さないとカッコ悪いですよね。ここまで自分を作ったならば、自分をムチ打って、それをバネにして結果を残していきたいと思います」と塚越の今シーズンに賭ける意気込みもまた、昨年までとは違っている。

「もっともっと、カッコいいレーシングドライバーを目指したいです」

 塚越は今後、鈴鹿や富士、もてぎ、SUGOといったコースには自らのNSXでサーキット入りしたいという。まずは3月25~26日のスーパーGT富士公式テストから、ビシッとスーツを着込み、赤いNSXから降り立つ塚越の姿が見られそうだ。オフでも、オンでも、塚越広大の2017年からは目が離せない。