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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『3月のライオン 前編』『おとなの事情』

2017年03月17日 18:53  リアルサウンド

リアルサウンド

『3月のライオン』(c)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


参考:http://realsound.jp/movie/2017/03/post-4264.html


■『3月のライオン 前編』
 神木隆之介くんとは同い年です。そんなリアルサウンド映画部のゆとり女子・戸塚がオススメする作品は、『3月のライオン 前編』。


 本作は、2007年より『ヤングアニマル』(白泉社)にて連載されている、羽海野チカによる同名人気コミックを実写化したヒューマンドラマ。家も家族も居場所もない、17歳のプロ棋士・桐山零と彼をめぐる人々が、愛を求めて迷い、ためらい、ひるみながらも、それぞれの闘いへと突き進む模様を描く。


 人それぞれ葛藤や悩みがあり、物事を主観だけで見てしまったら気づくことのできない“真実”がある。『3月のライオン』は心理描写が妙にリアルです。その人がなぜこういう言動をするのか、その背景がしっかりと描かれています。だから、物語の世界観に入り込み、一人ひとりに感情移入してしまう。主人公の零くんだけではなく、全てのキャラクターがしっかりと生きていて、とてつもなく愛おしい。同時に、心臓を掴まれるような苦しさが芽生えます。


 “将棋”というものを私はやったことがなくルールも知りません。それでも、この作品は充分楽しめます。わからないなりにも、将棋という競技の“熱”はヒシヒシと伝わってきました。とてつもない体力を消耗し、尋常じゃないほどの精神力が問われる。1試合1試合にかける想いの強さや、勝ちへの執着、そのために怠らない努力。その全てが泥臭いのに、とてつもなく繊細で崇高なものに見えました。1対1だからこその孤独や、自分自身との戦い、目の前の相手と向き合わなければならない過酷さ。静寂に包まれた中での将棋の駒を打つ音が何とも心地よくて、美しいとさえ感じました。


 そして何より、主演の神木さんをはじめキャストのみなさんが素晴らしい。各々がその役として『3月のライオン』という世界の中で生活しています。“必死に生きて”います。また、原作の世界観を壊さない素朴だけど麗しい映像も見どころのひとつ。「本当に六月町や三月町が東京にあるのでは」と錯覚してしまうほど原作の面影を感じました。


 人生は残酷であり、不平等である。零くんの生い立ちからして、不可抗力による悲劇といった部分が目立ちます。そのため、うら寂しい雰囲気が漂い、終始どこか暗く悲しい。しかし、その中にもしっかりと“救い”の部分があり、そっと優しく全身を包み込まれているような温かさがあります。目には見えないけれど確かに存在している様々な愛。そして、“笑い”の塩梅も絶妙です。


 映画『3月のライオン』は、原作ファンもそうでない方も楽しめる素敵な作品。老若男女、すべての方にオススメです!


■『おとなの事情』
 リアルサウンド映画部の二次元担当、炎の営業アニマルこと泉がおすすめするのはイタリア映画『おとなの事情』。


 現代の“パンドラの箱”と言っても過言ではないスマートフォン。もしも中身が全部流出してしまったら、当人の社会的地位が危ぶまれるどころか、最悪まわりにいる人々にも迷惑をかけてしまうと思います。「いやいや、それは大げさな」と思っている人も、誰にも知られたくない秘密のひとつやふたつ、スマホの中に隠し持っているのではないでしょうか? そんな個人情報と秘密だらけのスマホの中身を、もしも恋人や友人たちの目の前で包み隠さず公開したらどうなるのか……考えただけで寒気が走るそんなシチュエーションを、巧みなプロットと演出で映し出していくのが、イタリアが生んだシチュエーションコメディ『おとなの事情』。


 新婚ホヤホヤのカップル、周りが羨ましがるようなおしどり夫婦、新しい恋人ができた男など、お馴染みのメンバーを集めて行われたディナーパーティー。和やかなムードでたわいもない会話が続くなか、ひとりの女性メンバーが「“信頼度確認”ゲームをやろう」とみんなにスマートフォンの中身の公開を提案。全員のスマートフォンをテーブルの上に置き、メールが届いたら読み上げ、着信はスピーカーフォンに切り替えて通話するというゲームを開始することに。それぞれのスマホの中に隠されていた秘密が徐々にあかされていくと共に、いままで誰も知らなかった友人の嗜好やセクシャリティが露呈、さらには家族や友人同士の信頼関係を崩壊させる事柄もどんどんバレていき、全員が不幸に見舞われた最後になんとも言えないラストを迎えます。


 イタリアのダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞をはじめ、世界の映画祭で脚本賞に輝いている本作。監督のパオロ・ジェノヴェーゼが、3名の脚本家と共に練りあげたプロットは秀逸で、テンポ良く進む展開と、そこに散りばめられた伏線の回収が非常に上手です。絶対に知ったら傷つくとわかっているのに、どうして親しい人の秘密を知りたいと思ってしまうのか。スマホの公開を嫌がっている男性陣に対して、「もしかして秘密があるの?」と半ば脅迫気味に参加を進める女性陣。みんな愚かだなと感じながらも、劇中に登場する問題は多くの人と重なる部分があると思うので、共感しつつも恐怖を感じてしまう方もいるのではないでしょうか。


 本国では、本作を観て別れてしまったカップルもいるようなので、(オススメはしませんが)もしもカップルや夫婦で観に行く場合は、スマホの中身を初期化レベルでキレイにしてから足を運ぶと良いでしょう。


(リアルサウンド編集部)