近年、クリエイター、ことさらアニメ業界の激務薄給ぶりが度々問題視されている。そうした中、あるアニメーション監督が3月15日、「お金に対して強く主張して来た人とはなるべくもう仕事をしないように心がけている」というツイートをし、話題となった。
投稿者はアニメーション監督であり脚本家でもある石ダテコー太郎さん。「監督」として制作進行する上で、現状はスタッフたちに「満足な報酬」を支払えていないという。これ自体は「僕の不徳の致すところだ」としているが、その上で独自の仕事観を述べた。
「お金に対して強く主張して来た人とはなるべくもう仕事をしないように心がけている」
お金の要求は「自分はあまり腕の良いクリエイターじゃない」と言うに等しい?
そう考える理由の一つに「自身が対価を多く支払うことができないから」があるという。そのため強く賃金交渉をしてくるアニメーターと仕事をしても利害が合致せず「双方にとって不幸せ」と考えているようだ。また自身の仕事観について
「モノづくりをする人なら『やりたい仕事はノーギャラでもやりたいし、辛い仕事なら倍額以上請求する』っていう心情を僕も持っている」
と考えている。また腕のいいクリエイターは「その気にさえなれば食っていく分を稼ぐのは簡単なはずだ」と自説を展開。そのため、お金を要求するクリエイターは「これは本来ならやりたくない仕事です」または「自分はあまり腕の良いクリエイターじゃないです」と言っているに等しいことになるという。
ただ、唯一の例外はあるという。
「『とにかくめちゃくちゃ忙しい。でもなんとかこの仕事はやりたいので、無理やりでもリソースを割くためにその理由作りとして正規の金額を提示してもらえないか』って場合。それは双方にウィンウィンなので支払わざるを得ない」
「人を喜ばせるエンターテイメントの仕事は金銭が最優先の人は向いていない」
ツイッターでは「どこかで稼げるけど『自分は支払わない』と言うのはとても都合の良い論理」などと否定的な意見が多く寄せられ、トゥギャッターにもまとめられた。はてなブックマークでも批判的なコメントが多い。
「こんなのが大量にいるから日本のクリエイターは貧乏なんだよ。『スタッフたちに満足な報酬を払えるまでの環境を作れていな』ってならそれを是正すべきで、金の話しただけで仕事しないとか自分の責任放棄してるだろ」
「これを『やりがい搾取』と言わずして何と言おう。(中略)昔っから低賃金が話題になる業界だけど上に立っている人がこれでは…」
石ダテさんこうした批判に対し「『金払わないと人は動かな』っていうことが常識だという気持ちももちろん理解していますが、芸事はそうじゃないちょっと特殊な世界」と返答。芸事は一人前になるまでに時間もかかるし、激しい競争社会であると述べた上で、
「やった分だけ正当報酬をもらえる業界ではないので、それを『仕事じゃない』と感じるなら仕事じゃないかもしれませんね」
と答えた。また、金銭だけが労働の対価ではなく「やりがいに『価値』があるなら充分な対価です」とも語る。
石ダテさん自身、元々お笑い芸人だった。一握りの人しかお金持ちになれない業界に身を置いていたため、一般の雇用関係にあるサラリーマンとは考え方が違うという。
「『金銭のために労働をしている』って立場の方々とは仕事に対する価値観がまったく違うので、議論が不毛だなぁと感じています…(別にどっちが正しいって問題じゃない)」
その後も議論は平行線をたどり、石ダテさんは「少なくとも人を喜ばせるエンターテイメントの仕事は金銭が最優先の人は向いていないと思っています」などと何度も反論していた。
石ダテさんの一連のツイートを見ると、クリエイターは特に新人のうちはギャラ交渉するよりも、とにかく腕を磨いて自分の商品価値を高めた方がいい、ということを言いたかったのかもしれない。しかし、こうした考え方は仕事を引き受けるクリエイター一個人が勝手に思っているならまだしも、業界の比較的上流にいて仕事を発注する側がいうのは問題だろう。はてはブックマークでは、
「『安くても良いのでやらせて欲しい』とは俺も思うけど、それは発注側を信頼してるから。SNSなんかで信頼関係に無い不特定多数に対して言っちゃダメ」
というコメントも寄せられていた。