トップへ

“天真爛漫”な広瀬すず、“優等生”の中条あやみ 『チア☆ダン』は今しか作れない青春映画だ!

2017年03月17日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

『チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(c)2017 映画「チア☆ダン」製作委員会

 明るく、素直に、美しく! 若手女優の中で“今”を象徴する広瀬すずと、NTTドコモやハーゲンダッツなど有名企業CMに多数出演する中条あやみという、時代のアイコンとミューズが共演した話題の映画『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』。彼女らの爽やかな熱演が、青春映画の新たな1ページを刻む最高の輝きを見せている。


参考:広瀬すずの“負けん気”はスポ根もので輝く! 『チア☆ダン』が大人世代にも“効く”理由


 県立福井商業高校チアリーディングチーム“JETS”が、2009年3月に全米チアダンス選手権大会で優勝を成し遂げた奇跡の実話を映画化。今年の3月5日にはなんと5連覇達成という快挙を達成したばかりのベストなタイミングでの公開となった。物語は、県立福井中央高校に入学した友永ひかり(広瀬すず)が、サッカー部にいる中学時代から同級生の山下孝介(真剣佑)を応援したいという安易な気持ちからチアダンス部に入部したことから始まる。そこには顧問の鬼女教師・早乙女薫子(天海祐希)がおり、「目標は全米大会制覇! 前髪禁止! 恋愛禁止!」「破った者は地獄に堕ちろ」という厳しいスパルタ指導が待っていた。周りが早々に退部していく中、ダンス経験者で部長に指名された同級生の玉置彩乃(中条あやみ)の存在もあり、思春期の葛藤を乗り越え全米大会制覇という大きな目標に向かって成長していくひかり。そんな生徒たちと先生の3年間の軌跡を描いた青春ミラクルストーリーだ。


 ベースが実話でありタイトルからしてすでにゴールが見えているので、この映画で大事なのは、そこに行き着くまでの生徒たちと先生の感情の変化や争いがどう描かれているか。また、あらすじから感じられるように本作は、映画『スウィングガールズ』や『フラガール』のような、初心者たちが集まって最後は大舞台で成功させるといういわゆる“チーム成長もの”。よくあるジャンルなので、その見慣れたフォーマットの中で、いかに観客を納得させられるかが重要となってくる。


 まずは何と言っても主演・広瀬すずの輝き。ひかりは、ダンスは初心者で、「笑顔だけが素晴らしい」と言われるほど、とにかく明るくてめげない、自分の立ち位置よりもチームワークを考えるムードメーカーという役柄。その存在感は昨年の映画『ちはやふる』シリーズを彷彿させる。美少女だけど少年のように無邪気で嫌味のない可愛さという、演じようとしてもできるものではない天性のものを感じさせたのが記憶に新しい。今回もまた女子高生役であり、彼女の愛おしいほどの存在感に圧倒された。


 ひかりの家庭に部長の彩乃が相談しに行った際、仲の良いお父さん(木下隆行)が一生懸命唐揚げを作り父娘で他愛もない会話をしているのだが、その居間にはお母さんの遺影が飾ってある。劇中で特に説明はないが、今まで苦労してきた上で、この明るい笑顔があるのだなと観客は察するのだ。そういった背景が広瀬のキャラや笑顔と、とても相性が良い。


 また、レギュラー落ちした際に、選手たちを笑顔で送り出した後に見せる、悔しさで涙を流す姿など、笑顔の奥にある感情表現の秀逸さ。あまりにも良い人過ぎると普通の女優なら若干嫌味に見えてくるものだが、今回も『ちはやふる』同様、全くそれを感じさせない。白目までは行かないが変顔も健在だ。そして何より最後の笑顔が弾けるようなダンス。人を惹き付ける魅力はこの世代の女優の中ではずば抜けていて、かつての宮沢りえや広末涼子のようである。『ちはやふる』と『チア☆ダン』で、広瀬は今の時代を象徴する若手女優になったと言っても過言ではないほど、スクリーンの中の彼女は輝いていた。


 そしてひかりとは対照的な存在である、彩乃役の中条あやみもまた実に魅力的だ。才色兼備を兼ね備え、部長を任されるほど責任感も強い。とにかく欠点がない絵に描いたような優等生である。かつて出演したドラマ『She』(フジテレビ系)や映画『ライチ☆光クラブ』などでは、そのスタイルや容姿の良さから、孤高の存在として女神のように扱われる事が多かったが、今回はチアダンス経験者で部長という立場。いつものように特別な存在ではいられないため演技力も要求される。


 ひかりの説明不要の可愛らしさに対して、彩乃の凛とした美しさ。真面目すぎる彩乃に対して、柔和でサポートがうまいひかり。一見、彩乃の性格は堅苦しく思えるが、それは部長という立場だからこそ。あえてみんなの敵となっているのだ。対してひかりの立ち位置は無責任なポジションと言えなくもない。彩乃は、部長とムードメーカーの立ち位置の違いをキッチリと見せ、向上しなければいけない部の中で、足手まといとなっているひかりの弱点を浮き彫りにさせている。ただ、決してこのふたりは敵対しているわけではなく、欠点を補い合っている。まさにチームなのだ。


 チアダンスで今まで不動のセンターとして頑張ってきたのに、そのポジションを代えられた時の表情が、リアリティーに溢れていた。部長として勝つためには仕方ないと思いつつも、やはりエースとしてのプライドが抑えきれず、悔し涙が滲み出る。中条の心の葛藤の演技が実に良い。彼女がノートに記した「努力しても報われないことがある。しかし努力し続けるしかない。」が心に響く。広瀬との相乗効果も相まって、今までの作品ではあまり見られなかった中条の人間味溢れる演技が、名シーンを生み出している。


 また、鬼女教師・早乙女薫子役の天海祐希は、裏の主役といって言いほど“オイシイ”演技を見せる。後半からアメリカを本気で目指し始めた時にガラッと鬼コーチへと変化するのだが、具体的な指導が厳しいと言うより、ダメな者は切り捨てるという感情論を持たない冷たさ。しかし、先生の裏での涙ぐましい行動が後々判明するのだ。作品によってはそういった裏を見せるのは野暮だったりするが、この映画ではそれが見事にハマり、感動へと導く。


 ほかにもチームのメンバーのキャラが立っていて、それぞれ欠点を克服していき笑顔を見せていく姿も実に清々しい。初期の主流メンバーである高飛車なバレエキャラの村上麗華(柳ゆり菜)が、悪態をついて退部をし、後半メンバーに復帰する伏線だと見せかけて、結局最後まで戻らない。普通の青春映画では見られないドライさは賛否両論あるとは思うが、ちょっと面白い展開だ。


 この映画では、頂点を目指すために彩乃が自ら悪者になっている。だが、部活を良くしようとするからこその言動だとみんな分かっているところが、衝突し合うばかりの青春映画とはひと味違う。また、彩乃が落ち込んでダークサイドに行きかけた時には、ストーカー男子高校生(健太郎)が突如現れ心情を代弁するなど、たまに入るギャグ要素が特徴的だ。そう言ったウェットな方向へ持って行き過ぎないところが映画を見やすくしている。


 そして最後のダンスシーン。そこまでは大会でのダンスシーンをあまり見せず、クライマックスで一気に見せるからこその迫力。広瀬は映画『海街diary』で見せたサッカーの高速ドリブルや、『ちはやふる』で見せた競技かるたの所作の美しさなど、持ち前の運動神経の良さをこれまでも存分に発揮してきていた。そんな広瀬含め、出演者全員が、必死ながらも楽しそうに演じる姿は、とにかく素晴らしいの一言に尽きる。


 最近の邦画は前後篇の二部構成が多い中、121分という限られた時間の中で3年間を描くには詰め込み過ぎな部分も否めない。しかし、今の世代による今しか作れない青春映画であり、出演者たちの魅力を存分に楽しむ作品として、最高の輝きを見せているのは間違いない。


(文=本 手)