2017年03月16日 19:43 弁護士ドットコム
稲田朋美防衛相は3月14日、学校法人「森友学園」の代理人として裁判に出廷していたことを認め、出廷していないとの発言を訂正した。ただ、出廷していたことについては「記憶になかった」として、虚偽の説明ではなかったと釈明している。
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報道によると、森友学園の民事訴訟で、稲田氏の名前が、弁護士である夫と別の弁護士と連名で準備書面に記載されていた。2004年12月の第1回口頭弁論(大阪地裁)にも出廷していたという。
10年以上前のこととはいえ、民事裁判の代理人として出廷したことを忘れることはありうるのか。弁護士ドットコムに登録する弁護士たちに意見を聞いた。
以下の4つの選択肢から回答を求めたところ、32人の弁護士から回答が寄せられた。
1.ありうる → 20票
2.ありえない → 11票
3.どちらでもない → 5票
回答は、<ありうる>が20票で最も多かった。<ありえない>は11票、<どちらでもない>は5票だった。
他に主任の弁護士がいるような事件では、「よほど印象的なことがない限り、忘れることもある」など、事件への関与の程度によって、事件について忘れてしまうことがあると指摘する意見が目立った。
特に、第1回口頭弁論は、書面のやりとりなど形式的な手続きをすませてすぐに終わってしまうことがすくなくないため、記憶に残りづらく「覚えていなくてもやむを得ない」という意見もあった。
<ありえない>との回答では、仮に記憶がなかったとしても、記録を調べれば思い出すことは容易だと指摘する意見があった。「仮に記憶がなかったとしても,事務所のパソコンでも検索すればすぐに記憶が喚起できる」などのコメントがあった。裁判の期日に出席すれば「期日報告書などを作成し,依頼者に送付するのが通常」なので、記録が残されていることが普通なのだという。
今回の回答のうち、自由記述欄で意見を表明した弁護士28人のコメント(全文)を以下に紹介する(回答は<ありうる>→<ありえない>→<どちらでもない>の順)。
【上條 義昭弁護士】
当該弁護士が主任として時間を掛けて関与した事件でしたら、20年前の事件でも、忘れないと思います。依頼者の名前が浮かばなくても、時間を掛けて扱った事件の内容まで忘れることはなかなか無いでしょうから。しかし、代理人として名前を連ねているが名前を貸すだけで中身に関与していない事件あるいは簡単に終わるような事件の場合には、忘れていても自然だと思います。
【菅藤 浩三弁護士】
過去の累積取扱件数による。
たしかに自分が取り扱っていたことを裏付ける書類(出廷記録)を見せられて記憶喚起できることはあるが、記憶喚起の書類無しでソラだとその事件を取り扱ったことや依頼者であったことを忘れることもある。
名前だけ聞いても依頼者だったかどうか思い出せない現象もなくはない(別に惚けてるわけではないし、大臣を庇ってるつもりはない)
【林 朋寛弁護士】
一般論として、年数を経た受任事件や依頼者について忘れることはあり得ます。しかし、強烈な印象の依頼者や、自己の政治信条を応援してくれるような人等に関しては年数を経ても忘れることは難しいのでしょう。記憶が曖昧だったとしても、事件記録や手帳等を確認することで思い出すことは可能です。
稲田防衛相の件は、10年以上前のことなので嘘をついてもバレないと思って答弁したか、本当に忘れていたのかは分かりません。少なくとも記録を確認せず適当な答弁をしたという点で防衛大臣・国会議員として失格だと思います。
【坂野 真一弁護士】
同じ事務所の他の弁護士が主任で担当し、自らがほとんど関与していない事件は、よほど印象的なことがない限り、忘れることもあると思います。
自らほとんど関与することがないのに、法廷に出頭することがあるのか?と一般の方は疑問に思われるかもしれませんが、主張は基本的に準備書面で行うため、準備書面を他の弁護士が既に提出しており、今後の方針を確認し次回期日を決めるために出廷する場合もあります。
【鐘ケ江 啓司弁護士】
一般論として、忘れること自体はありえます。
ただ、大臣が本当に忘れていたのかは疑問です。
主任が急病なので出廷できないといった場合に、事情を知らない弁護士が代打で行くことはありますが、第一回期日に「2人以上」で行くというのは考えにくいです。出廷の事実だけが必要なら若手一人で良いからです。
また、事務所の記録を確認してチェックすれば分かることだと思います。記録の保管期限は過ぎているかもしれませんが、作成した準備書面のデータくらいは残っているでしょう。
【大賀 浩一弁護士】
よほど繁盛していて、毎日何度も法廷に足を運んでおられる方なら、もしかして10数年前に1度だけ出廷したという程度のことを忘れるのはあり得ることかも知れない、という意味において「ありえる」です。
が、自分自身に当てはめて考えれば、あり得べからざることだと思います。
というか、南スーダンへの自衛隊派遣問題にせよ、教育勅語に対する認識にせよ、あの方のご答弁は、大臣としての資質が問われると思います。
【徳田 剛之弁護士】
第1回口頭弁論期日は,多くの場合,訴状陳述・答弁書陳述擬制(被告欠席),次回期日を決めて終わりです。
なので,手が空いていたり,他の期日のついでだったりで,担当でない同じ事務所の弁護士が出廷することはあり得ます。
書面・委任状の連名も,同じ事務所内ではままあることです。
一定の局面の期日ならともかく,10年も前の何ということもない期日の出廷のことなど,覚えていなくてもやむを得ないと思います。
もっとも,調査や含みなしで回答した点は,大臣の答弁としていささか軽率であったと思います。
【多田 幸生弁護士】
10年以上前に一度だけ依頼を受けた方のことを全て覚えていることは無理だと思います。
ただし、依頼者情報は、個人情報保護や利益相反確認等のため、管理台帳などにより適切に管理するべきです。
もし、依頼者情報を適切に管理していれば、「覚えてはいないが、過去に依頼を受けたことがある」とわかったはずです。
稲田大臣はその意味で管理が杜撰だったということになると思います。
【大達 一賢弁護士】
多数の事件を受けている弁護士としては、出廷したか否かをその場で思い出せないことはないと思いますが、事務所の記録を確認すればすぐにわかることだとは思います。2人出廷していた場合にはともに出廷したもう一人の弁護士に確認をすればより明確になると思います。ただ少なくとも、もう一人が出廷しているということは「夫の代わり」ではなく、主体的に出廷していたのではないかと疑われますし、そもそも出廷する以上は自らが代理人として活動しているわけで、「夫の代わり」などという責任転嫁のような言い訳は許されないと思います。
【甲本 晃啓弁護士】
「出廷したことや、依頼人について忘れてしまうことはあるか」というご質問には、「忘れることも当然ありうる」と回答します。人間ですから、時間経過とともに記憶がなくなったり曖昧になったりするのは当然で、自然の摂理です。弁護士業務を離れて、10年もたてば尚更だと思います(擁護する訳ではないです)。
私なんかAmazonで予約注文したものすら忘れてしまいますから…
記憶がないことが問題ではなく、過去の依頼者を記録に残していなかったとか、記録があるのに調べずに回答したことが問題でしょう。
【髙橋 裕樹弁護士】
一つの事件の委任状に、複数の弁護士の名前を連記する場合、その全員が事件関係者と面談をし、また事件記録を読み込んでいることはむしろ稀であると思います。
民事の期日、特に第1回口頭弁論期日は、そもそも裁判所に行く必要のある期日なのかなと感じるほど形骸化しています。(次回期日を設定するだけのわずか1分程度の期日であることが多いです。)
その形骸化した期日に行ってもらうということはありうることで、覚えていなくてもおかしくないと思います。(当然、依頼者にはその旨の説明はします)
【山村 邦夫弁護士】
当該設問に対して、あり得るか、あり得ないかと問われれば、あり得るという回答にならざるを得ない。共同事務所であれば、自分が訴状作成に携わっておらず、かつ主任に代わって法廷に出頭することもあり、そうであれば記憶していない場合もあるだろう。
ただ、「失礼なことをされた」という記憶がある依頼者の訴訟案件について、裁判所に出頭したことを覚えていないことがあり得るかと問われれれば、それは「あり得ない」。失礼なことをされたことと一緒に、依頼を受けて裁判所に出頭したことも記憶されるものだからである。
【関 大河弁護士】
ありえます。
一人で事件を受けて、連絡を取っていたなら忘れることはありません。
これで忘れてる場合は、弁護士続けられません。
しかし、複数人で事件を分担している場合は、関わりが薄くて忘れることはあります。連絡を主に担当しておらず、専門家だから同席してくれと言われた場合など、印象が残りにくいでしょう。
【迫谷 聡太弁護士】
主担当でなく,連名で記載された弁護士の1人という立場であれば,仮に出廷していたとしても,記憶にないという事もあると思います。
起案を主にやっていたとか尋問を担当していれば,記憶に残るとは思いますが,10年以上という時間の経過,処理件数が膨大という事情があるのであれば記憶が薄れても仕方がないと言えなくもないでしょう。
【小川 育子弁護士】
形式上複数の弁護士で共同して受任しているが、実際の担当弁護士以外は事件の内容にほとんど関わらないということはよくあることなので、自分の名前が訴訟代理人として明記されていたとしても、事件や依頼者についての記憶はないということはありうると思う。裁判に出廷した記録があるとしても、実際上の担当弁護士以外が出廷する場合、出廷自体が形式的でほとんど何もしなくていい期日である場合も往々にしてあるので、何年もの時間の経過とともに記憶から消えるということはなんら不自然ではない。
【田靡 裕基弁護士】
第1回口頭弁論期日では、ほとんど関与していない事件でも顔見せ的な意味合いで、手の空いている弁護士全員が出廷することもありえると思います。また、急遽代打で出廷するなどの場合は、事務所やご自身の手帳などにも記録が残っていないこともありえます。裁判所の記録を確認すれば、バレる可能性もあることなので、大臣が敢えて虚偽答弁をされた可能性は低いでしょう。
国会の質問者側が、質問内容を事前通告しておくべきであったと思います。
【秋山 直人弁護士】
仮に記憶がなかったとしても,事務所のパソコンでも検索すればすぐに記憶が喚起できるのではないでしょうか。裁判期日に出席すれば,期日報告書などを作成し,依頼者に送付するのが通常と思われます。
夫の代わりに出席したのではないかと発言されていますが,第1回口頭弁論期日に2人の弁護士が出席する必要は必ずしも高くなく,他に経験3年目の弁護士も出席しているのに,夫の代わりというだけで出席したというのも考えにくいように思います。実質的に事件に関与していた可能性が高いのではないでしょうか。
【小池 拓也弁護士】
一般論としてはありうるでしょう。
しかし(1)普通の個人や企業ではない学園という特別な依頼者(2)新米とはいえない後輩と二人で出頭=常識的には稲田朋美氏が形の上だけの代理人ではないということからすれば、ありえないでしょう。
弁護士の仕事をする上で、ある人物がかつて依頼者だったかどうか思い出す又は確かめるのはとても大切なこと(さもないと元依頼者を敵方にしてしまうかもしれない)。受任していないとか裁判にも行っていないというのがウソでない=忘れた又は確認を怠ったというなら、弁護士として問題です。
【辻 健司朗弁護士】
単に事務所での事件として受任して書面の連名がなされているのみの場合,記憶にないということはあり得ますが,出廷までしているのであれば記録確認をし,事件の内容を一通り確認する必要がありますので、全く記憶にないとは言い切れないと思います。
少なくとも、追及があった際には、過去の記録確認、パソコンでの過去のデータの検索、共同受任されている夫(弁護士)への確認などすぐに分かるはずです。答弁の際に、「確認します」などと回答し、調べた上で再答弁すればよかったと思われます。
【居林 次雄弁護士】
政治的な問題のコメントは差支えるべきであろうが、弁護士として、法廷に立ったことを失念することは、あり得ない。 訴訟遂行上、どんなに些細なことでも、年月が経過していても、弁護士の業務を失念するということは、考えられない。政治的にまずい状態になるので、このような苦し紛れの答弁をしているとおもう。
もし本当に失念していたのであれば、弁護士として法廷に立つ資格がないことになろう。ましてや国務大臣として一国の防衛を預かる重要な立場には,立つことができないものであろうと思われる。
【稲毛 正弘弁護士】
一般論として、昔の事件や依頼者を忘れることは、あり得ます。人間だもの。
特に、自分の関与が薄かった事件であれば猶更です。また、自分の関与が薄くとも、準備書面に連名で名前を載せることはあり得るところです。
ただし、今回の件は、自分の関与が薄いのであれば、事務所の若手弁護士と一緒に出廷することは普通はしないでしょうし、個人でも一般企業でもありませんから、記憶に残りやすい依頼者だと思います。
このあたりから考えると、ちょっと今回の件を忘れることは想定し難いのではないでしょうか。
【八坂 玄功弁護士】
一般論としては忘れてしまうことはありえます。しかし、本件の事情(顧問料月額10万円の依頼者だった、勤務弁護士が出廷しているのにわざわざそれに加えて出廷、「大変失礼なことをされた」という事情等)の下では、覚えてないことはありえないでしょう。
稲田氏は古いことなので証拠も出ないだろうと考えて、あえて虚偽を述べた可能性が高いと思います。
【濵門 俊也弁護士】
一般論としては「ありえる」かもしれませんが、今回の件については「ありえない」と思います。当該大臣はどうして「記憶を喚起したいので、一度持ち帰ったうえで確認する」と答弁できなかったのか理解に苦しみます。
国会の答弁は安易に「撤回」できるところに疑問を感じているところです。ましてや、弁護士出身の国会議員には頑張っていただきたいところなので、迂闊な答弁は慎んでいただきたいと強く思います。
【中村 晃基弁護士】
本当に、夫の代わりに出頭したならば、忘れることもありえます。しかし、第1回口頭弁論期日で、他に経験3年目の弁護士も出席しているのに、夫の代わりに出席することはまずないでしょう。まして森友学園は原告側で、第1回期日は原告代理人と裁判所で調整して日程を決めますので、担当弁護士の都合がつかないこと自体ほとんどないですし。おそらくは、若手の弁護士と2人で担当していたか、夫も含めて3人で担当していたのでしょう。
【岡田 晃朝弁護士】
事件の内容や経緯次第でしょうね。
10年前で、1回だけで、特殊な点もなかった事案ですと、名前だけ聞いて、すぐには出てこないということはあり得るかとおもいます。
事案の概要やおおよその時期、裁判所の場所、一緒に対応した弁護士などの情報をえても、まったく思い出せないのは不自然かと思います。断言までできなくても、たぶん出廷した・・・くらいの記憶はあるかと。
【中尾田 隆弁護士】
きわめて一般論ですが、人の記憶は完全ではありません。弁護士も同じです。
事件は、抵当権抹消事件のようですが、事案によっては込み入った人間関係の主張をすることなく、単に借入金弁済の事実を領収書などで証明するだけで判決できる事件もあります。仮にこのような事件であれば、(1)主任の代わりに出廷し、(2)事件は終結済みであり、かつ(3)10年以上前である、などの事情がある場合に、「記憶にない」と発言することは責められません。
【坂下 裕一弁護士】
設問の趣旨が若干わかりにくいです。単に一般論として(期日出席&依頼者を)忘れることがあるかを聞いているのか、本件のように第1回弁論期日出廷の場合に限るのか、さらに稲田氏の森友との関係についての具体的な情報を前提として考えるべきなのか。「単に一般論として」なら、よしあしは別として、少なくとも出廷の事実は忘れることはありうると思いますが、前記した次第で、結論としては「どちらでもない」ということでしょうか。
【荒川 和美弁護士】
一般論としては、あり得るでしょう。
ただし、今回は、顧問契約があり、失礼な対応があって、関係を切っている。記憶に残るのが通常である相手と思われます。そうすると、答弁は、故意による虚偽答弁か、能力があまりに低いため、記憶していない、どちらかだと思います。そして、記憶していなくても、本来は、調査したうえで答弁すべきことです。いすれにしても、議員ないし大臣として、答弁は適切ではなく、かつ、資質、能力において、不適格とされる根拠にはなりえるでしょう。