技術ウォッチャーの世良耕太氏が、2017年のF1新車、フォース・インディアVJM10の気になるポイントを解説。大柄なインダクションポッドや、フロントウイング周りの空気の使い方が独特だ。
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動力源にエンジンだけを積んでいるなら、大物熱交換器はウォーターラジエターとエンジンオイルクーラー、それにギヤボックスオイルクーラーだけで済む。ところが14年以降のF1はエンジンの他にモーター/ジェネレーターを2基搭載し、バッテリーを積んで、インバーターを積む。パワーユニットを適正に運用するだけでも、7種類の熱交換器が必要だという。
熱交換器を小さくする努力は続けられているが、それなりの容積は必要だ。空力性能を考えればサイドポンツーンからリヤにかけて、とくに空気をスムーズに流したいフロアの近くはスリムにしたい。その場合、サイドポンツーンに詰め込む熱交換器は邪魔になるので、一部をエンジンの背後に置くことにする。そうすればサイドポンツーンはスリムになるし、前端の開口部は小さくできる。
その代わり重心は高くなってしまうし、ヘルメットの後方上部にあるインダクションポッドの開口部は大きくなってしまう。パフォーマンスを総合的に判断した結果、重心が高くなることやインダクションポッドが大きくなることよりも、サイドからリヤをスリムにした方がメリットはある。
フォース・インディアVJM10の大柄なインダクションポッド(写真:1)を見ると、彼らはそう判断したと想像したくなる。ただ、ボディはそこまでスリムには見えないのだが……。
もともと、そこにインダクションポッドがあることには変わりなく、リヤウイングに向かう空気の邪魔をしているのだから、開口部が大きくなったところで邪魔なことには変わりはないという発想だろうか。とはいえ、空気がスムーズに流れる努力はしており、インダクションポッドの下部(写真:2)とヘルメットの両脇を大きくえぐっている(写真:3)。
メルセデスとトロロッソは突起のないプレーンなノーズとし、ウイングを吊り下げるステーの外側にきれいな空気を流すコンセプト。フォース・インディアを除くそれ以外のチームは突起型のノーズを採用し、ウイングステーに挟まれた空間も、空気の通り道として重要視しているように見える。
相変わらず、フォース・インディアだけ独特だ。ウイングステーの間からも積極的に空気を取り込もうとしているようだが、ストレートに後方に抜くことはせず、パネルで仕切り、ノーズ下面に沿って排出する構造のようだ(写真:4)。空気の使い方が他のチームとは違う。
リヤに向かって流れる空気の邪魔をしないよう、ステアリングタイロッドは上下サスペンションアームのいずれかと抱き合わせにして配置するケースが多いが、フォース・インディアは相変わらず独立したレイアウト(写真:5)。ここは空力よりも機構設計を重視したということだろうか。サスペンション系コンポーネントを配置する都合か、フロントバルクヘッド上面がこぶのようにふくらんでいるのも気になる(写真:6)。