土日にクラスを分けてレースを開催するツインリンクもてぎでのスーパー耐久開幕戦 2017年シーズンも、スーパー耐久シリーズはツインリンクもてぎから幕を開ける。近年は参加型レースとしてエントラントから高く評価され、年間エントリーが60台を突破。パドックは大いに賑わいを見せるようになった。
その一方で、それだけ増えた台数をどうこなすかという、うれしい悲鳴的な問題も生じ、昨シーズンまでもてぎでのレースは5時間耐久を開催することでクリアしてきた。
今シーズンの開幕戦は、さらにエキサイティングなレースを開催すべく、200分耐久に凝縮し、クラスをふたつに分けた2レース制を採用する。2レース開催における最大のメリットは、トラフィックの緩和と速度差の抑制だ。いずれも安全性の向上を狙ったものだが、相乗効果としてバトルの激しさも増すこととなった。
さまざまなクラスの車両が一斉にレースをするのがスーパー耐久の魅力のひとつだが、ST-XクラスのFIA-GT3と、ST-5クラスのコンパクトカーとでは最高速で、ほぼ100km/hの差が生じている。
ドライバー間のマナー向上も近年は著しく、重大なアクシデントは発生していないとはいえ、2レース制にすることでリスクを抑えることになる。クラス数が減ることで、同じクラスのライバルとの対決に、より専念できるようになるメリットも生まれる。速い車両は絶えず抜き続ける、逆に遅い車両は絶えず抜かれ続けるリスクが一気に軽減したからだ。
加えてワンメイク供給されるヨコハマのレーシングタイヤは、当然イコールコンディションを保ち、なおかつロングライフが自慢だ。そのためタイヤマネージメントせず、最後までハイペースでの走行が可能となる。 開幕戦もてぎでも、クリーンかつハイレベルなバトルが土曜と日曜の両日に味わえるだろう。
土曜に行われるレース1は、ST-Z/ST-R/ST-1/ST-2/ST-5の5クラスによって競われる。
ST-ZクラスとST-Rクラスは今シーズンから新設されたクラスで、それぞれFIA-GT4とTCRによって争われる。FIA-GT3同様、自動車メーカーによって開発され、誰でも購入できるレーシングカーの名称で、FIA-GT4はよりライトチューニングのGTカーだ。開幕戦での参戦車両はないが、これからFIA-GT3同様に参加台数の増加が期待される。
TCRは世界ツーリングカー選手権(WTCC)を頂点とするツーリングカーとなる。開幕戦では、ST-Rクラスには2車種、4台がエントリーする。アウディRS3 LMSを走らせるのは、Audi Team Dream Driveと、これまでシリーズ常連チームとしてST-5クラスで戦っていたBRP/バースレーシングプロジェクトだ。
もう1車種は、WTCCにも参戦するホンダ・シビック・タイプR。DOME Racingがこの車両で参戦予定だ。WTCCのシビックも手がけるJ.A.Sモータースポーツ製作の車両となり、注目が集まっている。
それぞれの戦闘力は未知数。 2リッターのターボエンジンを積むため、混走するST-5クラスをはじめ、ほかのクラスの車両との戦闘力の差はどうなのか、そしてどんな走りを披露してくれるのか、開幕戦ならではの楽しみな一面だ。
レース1では、トップ争いが予想されるST-1クラス。今回はST-2クラスから移行のapr、そしてシリーズ常連であるBENDのBMW Z4Mクーペによる一騎打ちとなる。
aprが走らせるのが昨シーズンのクラスチャンピオン、D’station Racingから譲り受けたポルシェ911GT3 Cupだ。もとよりカップカーは信頼性に優れ、ドライバーフレンドリーであることで知られるが、実績ある車両となれば、よりそのあたりが強調される。長年のレーシングユースで鍛え上げられたZ4との対決は期待が膨らむ。
四輪駆動車によって争われるST-2クラス。最大の焦点は、昨年のランキングトップ3がいずれも不動の体制で挑んでいることだ。5連覇の期待がかかるTOWAINTEC RacingはスバルWRX STIを大澤学と後藤比東至のコンビ。王座奪還が悲願のRSオガワは、三菱・ランサーエボリューションXを下垣和也、松本武士、近藤説秀組で。そして昨シーズンは2勝を挙げ、今シーズンは悲願の初戴冠を狙うシンリョウレーシングもまた、ランサーエボXを冨桝朋広、菊地靖、大橋正澄組で挑むこととなった。
昨シーズンは、それぞれにアクシデントも多く、本領を発揮できたシーズンではなかった。古豪チームだけに、同じ轍は踏むまいだろう。よりレベルアップした戦いを、開幕戦で期待できそうだ。そして、四駆同士の戦いとあって、ウエットコンディションでは、他のクラスの車両を圧倒する走りをみせることも注目だろう。
ST-5クラスにおける最大の話題は、マツダ・ロードスターが昨シーズンの村上モータースの健闘により、4台に増加したことだろう。
このクラス初のFR車両は、何よりフットワークに優れ、特に高速コーナーでライバル車両を凌駕する。増えた1台のうち、LOVE DRIVE RACINGは女性ドライバー3人で挑むのも注目すべきポイント。井原慶子の指導の下、ロードスターパーティレースIIIで活躍していた岩岡万梨恵と北原絵奈美、小松寛子の3人がスーパー耐久でどんな活躍を見せるのだろうか。
新興勢力を迎え撃つのは、シリーズ3連覇中のJ’S RACING。梅本純一と大野尊久を軸に重ねて来た快進撃を止めるわけにはいかない。熟成の進んだホンダFIT3で、今シーズンを集大成の年とすべく、全力で構えるに違いない。
ST-5クラスは他にもマツダ・デミオ・ディーゼルターボ、マツダ・デミオMB、そしてトヨタ・ヴィッツと、車種のバラエティに富むようになってきた。コンディションやコースによって、どの車両が勝つか分からない。もてぎ戦でどの車両がマッチするのか、コンパクトカー対決にも注目だ。
日曜にはST-X/ST-3/ST-4クラスによって争われる、レース2が開催される。3クラスすべて激戦区として知られるだけに、いずれも熱い戦いが繰り広げられることだろう。
FIA-GT3によるST-Xクラスには、8台がエントリー。ニッサンGT-Rが3台、フェラーリ488 GT3が2台、新旧ポルシェ911GT3Rが1台ずつ、そしてメルセデスSLSが1台。Aドライバーをジェントルマンドライバーとして指名し、B/Cドライバーがサポートするというクラスだが、その大半がスーパーGTにも出場しているのが注目すべきポイント。そのラインアップを眺めるだけで、激しいバトルが繰り広げられようことが容易に想像できる。
2連覇を目論むKONDO RACINGはGT-Rで、内田雄大と藤井誠暢、そして平峰一貴という不動の体制で挑む。それが近藤真彦監督の「変える必要がない」という判断によるのは間違いない。
一方、同じGT-Rを走らせ、ランキング2位だったENDLESS SPORTSは体制に激変が。長年にわたりチームのエースを務めてきた峰尾恭輔が監督に就任。YUKE TANIGUCHIを山内英輝と元嶋佑弥、ふたりの若手でバックアップすることとなった。この変化が、どんな影響をもたらのだろうか。
3月に行われた公式テストをKONDO RACINGは欠場したが、ENDLESS SPORTSを終盤になって逆転し、トップタイムを記したのがARN RACINGだった。公式テストが実質のシェイクダウンだったにもかかわらず、ノートラブルで終日過ごした永井宏明と佐々木孝太のコンビ、そして488GT3のポテンシャルは高いだろう。
さらにST-1クラスからステップアップのD’station Racingは新型のポルシェ911GT3Rを導入。昨シーズンに引き続き、星野敏がAドライバーを務め、荒聖治と共に、ポルシェ・カレラカップ・ジャパン王者の近藤翼が加わりバックアップする。
この開幕戦で先制パンチを決められたチームが、よりシーズンを優位に進めていくのは間違いないだろう。
ST-3クラスにも、大物ドライバーが集結した。特に話題を一手に集めているのが、本山哲をオーナーとするTeam Motoyamaのフル参戦決定だ。もちろん、本山自身もステアリングを握り、安田裕信と昨シーズンの86/BRZレースクラブマンチャンピオン、松原怜史とともにTECHNO FIRSTメンテナンスのニッサン・フェアレディZを走らせる。
同じくZでは、OKABE JIDOSHA motorsportから田中哲也が参戦。スーパー耐久でははるかに先輩とあって、新参チームにたやすく前を走ることを許さないだろう。
一方、超強力ラインアップで挑むのは、もてぎ近隣にファクトリーを構える、地元チームでもあるLe Beausset Motorsportsだ。レクサスRC350を託したのは、嵯峨宏紀と中山雄一、そして山下健太。いずれもフォーミュラで鍛え上げられたドライバーだ。今回は山下が同日開催のスーパーフォーミュラの公式テストに出場するため、FIA-F4で育成中の平木湧也が代役を務めることになっている。
さらに、トヨタ・マークXを走らせる埼玉トヨペットGreenBraveからも、レジェンドの服部尚貴が参戦する。
しかし、強烈な相手たちの参戦にも、連覇を目論むTRACY SPORTSの堀田誠と阪口良平は、少しも動じる様子はなさそうだ。昨シーズン、快進撃を重ねたレクサスIS350にどれほど惚れ込んでいるかは、疲労の進んだシャシーを入れ替えて挑むというから、相当なレベルであるのが分かる。引き続きの大暴れすることは間違いない。
また、今シーズン希少なニューカマーは、マツダ・アクセラだ。TEAM NOPROが昨シーズン、ST-5クラスで優勝を飾ったデミオ同様、ディーゼル・ターボを搭載する。正直なところ、一発の速さではレシプロNAエンジンで大排気量のライバル車両にかなうべくはないだろうが、燃費に優れることと、より軽量であること、さらにFF車両であることを武器にして、一味違う戦いを披露してくれることを期待しよう。
最多勢力を誇るST-4クラスは、今やトヨタ86/スバルBRZ勢で大半が占められるようになった。昨シーズン、ほかの車両が優勝したのは第5戦岡山のTC CORSEのマツダ・ロードスターに一度のみ。
このクラスで、長らく天下を取ってきたホンダ車が一度も勝てない歴史的なシーズンにもなってしまった。もてぎ戦では、なんとか逆襲を遂げて欲しいところだ。その鍵を握る、ひとつのポイントは天候とも言えるだろう。特にシビック、インテグラを走らせるチームは、FF車両で雨も得意とする。どんな天候で争われるかが勝負の分かれ目にもなりそうだ。
昨シーズンのチャンピオンチームであるトヨタ86のENDLESS SPORTSは、小河諒がエースを務めることでは変わらぬものの、パートナーがF3で活躍した高橋翼に、そして86/BRZレースクラブマンでも活躍中の花里祐弥に改められた。新天地に挑む若手ふたりが、どれだけ成長を果たすか大いに注目だ。
対して新興勢力として、熱い視線が注がれているのが、トヨタ86のT‘S conceptで片岡龍也が監督として指揮を摂る。ドライバー目線での采配が、大いに見ものである。
スーパー耐久の観戦の楽しみは決勝だけではない。独自のシステムを採る予選にも注目して欲しい。複数のドライバーが組むレースであっても、通常はひとり速いドライバーがいればいいが、スーパー耐久ではAドライバーとBドライバーの合算タイムでグリッドが決定する。
したがって、ひとりタイムがずば抜けていても必ずしもポールポジションを獲得できるとは限らず、むしろともにトップでなくとも、揃って上位につけていれば獲得できることさえある。だから、セッションが終わった直後の緊張感は、他のレース以上。そんな状況を一緒に味わって欲しい。
そしてサポートレースとして行われるのは、86/BRZレース。今シーズンもプロフェッショナルシリーズにはトップドライバーが大集合。連覇を狙う佐々木雅弘、王座返り咲きを狙う谷口信輝を核として、激しい戦いが繰り広げられるのは、絶対に間違いのないところ。このふたりをも脅かす、新たな存在の登場にも期待したい。
レース以外にもイベントが充実だ。レースイベントではおなじみのピットウォークをはじめ、2レース制のためグリッドウォークも土日両日開催。セッション終了後には、コースウォークやパルクフェルメウォークでレース後のコースを身近に体感することも可能だ。
さらに、レースが開催されるレーシングコースを自身の車でパレード走行できる「みんなでスーパー耐久ファミリーパレード」も楽しみのひとつとなるだろう。150台限定でツインリンクもてぎの公式サイトより事前申し込みが必要なのでお忘れなく。
グランドスタンド裏のイベントエリアでは、レースクイーンたちが出演のキャンギャルステージはもちろん、スーパー耐久シリーズ・イメージガール「フレッシュエンジェルズ」の初ライブも行われる。また、ツインリンクもてぎ開業20周年を記念したお子様限定の大抽選会も開催されるなど、ファミリーで楽しめるイベントも盛りだくさんだ。
4月最初のウイークエンド、サーキット全体がアツいツインリンクもてぎで、レースを楽しんでみてはいかがだろうか。