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『アナ雪』はフェミニズム映画のスタンダードに? 映画の新たな評価軸“F-rating”の意義と課題

2017年03月16日 10:23  リアルサウンド

リアルサウンド

リアルサウンド映画部

 世界最大の映画データベースIMDbが、掲載しているそれぞれの映画に対し“F-rating”(Fの評価)を始めた。これを聞いた時、筆者の頭に真っ先に浮かんだ“F”を意味するものは、俗にフォーレター・ワードと呼ばれ、下品とされるあの言葉だったが、フェミニストもしくはフィーメール“F”だという。


参考:映画の地上波放送はどう変化? 『日曜洋画劇場』終了とフジテレビ『アナ雪』批判から考える


 昨年、一昨年とアカデミー賞の主要俳優部門にノミネートされた20人が全員白人だったことから、黒人俳優や監督らから「白すぎるオスカー」と批判が噴出した。ウィル・スミス&ジェイダ・ピンケット=スミス夫妻やスパイク・リー監督が授賞式をボイコットするまでの大騒動となったのは記憶にも新しい。ハリウッドでの人種の多様性の向上を求める声とともに、近年、男女間のギャラや待遇の差を撤廃すべく、映画業界で働く女性たちが声を上げ始めている。


 “F-rating”は2014年、バース映画祭(イギリス)のエグゼクティブ・ディレクターのホリー・タルクィーニによって考案された。1本の映画につき、「監督が女性か」、「脚本家が女性か」、「女性の権利に基づき、女性が重要な役として描かれているか」の3点に焦点が当てられ評価される。タルクィーニが主催するウェブサイトF-Ratedでは、この3点をすべて満たした映画として、『アナと雪の女王』、『American Honey(原題)』、『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』を挙げ、これらの映画を「ゴールドスタンダード」と呼んでいる。


 というわけで、筆者は15年来お世話になっているIMDbの『アナと雪の女王』のページに飛んでみた。どこに“F-rating”の記述があるのか期待を抱きながら…。しかし、細かく隈なく見ても、どこにも“F-rating”の文字は見当たらない。これは一体どういうことか? IMDbが“F-rating”を取り入れたという有名メディアの様々な記事を見ても、具体的にどうすれば“F-rating”の評価が付いているのかがわかるのか、というのが書かれていなかったのである。記事を書いたジャーナリストたちも、実はわからなかったのではないだろうか?


 幸い、ウェブメディアINSIDERの記事で検索方法を知ることができたので従ってみた。まず、ある作品が“F-rated”されているかどうかは、その作品のページに行く。ここでは『アナと雪の女王』を例に挙げる。そこで“Plot Keywords”という単語を探す(Ctrl+Fのショートカットをオススメする)。次に“See All”をクリック。そして、やっと“F Rated”のタグが見つかる(もちろん、これもCtrl+Fで探すことを推奨)。“F Rated”のタグをクリックすれば2万2千本以上タグ付けされた“F-rated”の作品が現れてめでたしというわけだ。何ともわかりにくく、長い道のりである。


 次にIMDbのトップページから“F-rated”された作品を探す方法について。トップページの検索窓に“F-rated”と打ち込むと、その下に様々な作品名が現れるが気にせずEnterキーを押す。すると下の方の“Keywords”に“F-rated”のキーワードがあるのでクリックすれば前述した2万2千以上の作品にたどり着ける。


 IMDbのCEOコル・ニーダムはBBCに、「“F-rating”はスクリーン上やカメラの後ろで働く女性にスポットを当てる素晴らしい方法」と自信たっぷりに語っているが、現時点では、2億5千万人を超える月間ユーザーに“F-rating”を伝えられているとは言い難いかもしれない。IMDbは一般の映画・ドラマファンのみならず、映画業界の人間も頻繁に使用しているため、“F-rating”の魅力をうまく伝えられれば映画業界の女性たちが願う「男女平等」につなげられるはずだ。


 実は“F-rating”にはIMDbでの検索方法のほかに、もう1つの問題が存在する。英語圏で“F”というアルファベットは、テストでの“Fail”(不合格)や“Failure”(失敗作)、はたまた筆者が勘違いした下品なあの言葉など、あまり良い意味で使われないイメージが強い。すでにイギリスの40の映画館や様々な映画祭で採用され始めているという“F-RATED”のマーク(映倫のPG12のような形状のマーク)が、まさにパッと見が“ダメ出しを受けた作品”のように見えてしまい、一部不評の声が上がっている。


 タルクィーニによると、昨年の興収トップ250作品で女性監督の割合は3.6%、脚本家は4.4%、プロデューサーは10.4%だという。確かに数字で見れば“女性の権利向上”を声高に叫ぶべき必要性に疑う余地はない。彼女たちの思いが反映されている“F-rating”。その存在意義を効率的に印象良く伝えていくために、まずはIMDbでの検索方法の改善とマークのデザインの再検討に期待したい。(賀来比呂美)