2017年03月16日 09:23 弁護士ドットコム
子ども時代に知らなかったことの1つが、社会人になっても、勉強が続くことだろう。転職を見据えて資格取得を目論む意識高い系サラリーマンにかぎらず、「資格をとれ」と命令を下されて、しぶしぶ勉強にいそしむ「社畜」もいる。
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通信系の女性会社員ナオ子さん(32)は、年に数回、資格試験を受験する。「TOEICのようなメジャーなものであれば納得がいきますが、昇級のために非常にマイナーな検定試験も受験しないといけないので、イラっとします」と話す。費用は6000~8000円くらいが多いが、全額自腹だ。
以前の勤務先に怒るのは、マユ子さん(30)。勤務先はIT系だったが、「勝手に試験に申し込まれていて、試験料は給与天引きだったんです。しかも『合格者のみ返金』という、わけのわからない制度でした」。そんな不満も募って、退職に至った。
キャリアアップや転職を見据えて、転職活動を行うことはいいだろう。しかし本人の意思に基づかない場合でも、受験費用は本人が負担しなければいけないのだろうか。上林佑弁護士に聞いた。
「会社が業務命令によって、労働者に資格試験の受験を命じたとします。その場合、受験費用は、会社の業務上の必要性に基づいて要する費用ですので、会社が負担すべきものでしょう。労働者に受験費用の負担を強いてまで資格試験の受験を命じることは、『業務命令権』を濫用したものと評価される可能性が高いと思います」
労働者本人が自発的な意思で受験する場合には、どう判断されるのだろうか。
「会社が、資格試験の受験を労働者に対して奨励しているだけで、労働者自身が受験するか否かを自由に選択できる場合には、受験費用を会社が負担する必要はありません。労働者が自己負担で資格試験を受験することに特段の問題はありません」
冒頭で紹介した「合格したら返金」というケースは、どう判断されるのだろうか。
「前述したように、労働者が会社の業務命令によって資格試験を受験する場合、その費用は会社が負担するべきです。
『合格者のみ返金』という例でいえば、労働者の給与から受験費用を控除することは、控除した受験費用相当額分の賃金を未払いにしていると言えます。会社が給与から受験費用を控除することは、賃金の全額払いの原則に反します」
返金を求めることはできるのだろうか。
「労働者は、自己負担すべきでない受験費用を給与から控除された場合には、会社に対して、控除された金額の返金を求めることができるでしょう。労働者の資格試験の合否という結果によって左右されるものではありませんので、会社は、給与天引きした受験費用を、その合否にかかわらず、労働者に対して、返金する必要があります。
なお、そもそも会社が給与からその一部を控除できるのは、法令に別段の定めがある場合、もしくは、労使の間で協定がある場合に限られています。
仮に、受験費用を労働者が負担すべき場合であっても、当然に会社が給与から受験費用相当額を控除できるわけではありません。会社は、受験費用を徴収する必要がある場合には、給与は全額労働者に対して支払い、別途受験費用を徴収するとの扱いをすべきです」
心当たりのある人は、会社と交渉してみてはどうか。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
上林 佑(かみばやし・ゆう)弁護士
仙台弁護士会所属。労働問題を中心に、その他企業法務一般、交通事故、知的財産権等、広く取り扱っている。
事務所名:三島法律事務所