2017年03月15日 19:34 弁護士ドットコム
最高裁大法廷(裁判長・寺田逸郎長官)は3月15日、令状なしで捜査対象者の車などにGPS(全地球測位システム)端末を取り付ける捜査を違法だと判断した。また、発行する令状についても、立法で整備することが望ましいとした。
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GPS捜査の違法性をめぐっては、下級審の判断が分かれており、最高裁が判断を示すのは初めて。今後、警察が捜査の手順を変えることが求められる。
この裁判は、2012~13年に関西方面で、店舗荒らしを繰り返し、窃盗などの罪で起訴された男性被告人(45)の上告審。裁判では、GPS捜査の結果が、犯行を裏付ける証拠として提出されていた。
一審・二審とも、男性を懲役5年6カ月としたが、GPS捜査についての判断は分かれた。一審はGPS捜査について、プライバシーを侵害する可能性があるとして、証拠採用しなかったのに対し、二審は「重大な違法はない」として証拠採用した。
被告人の男性は起訴内容を認めていたが、GPS捜査について判断を仰ぎたいとして、上告した。
今回、最高裁は、令状なしのGPS捜査を違法とした一方で、男性の量刑については、一・二審を支持し、懲役5年6カ月とした(上告棄却)。
上告審の大きな争点は、(1)GPS捜査は強制捜査か、任意捜査か、(2)強制捜査だとしたら、従来の(検証)令状でできるのか、の2つ。
警察の捜査には、尾行や張り込みのような「任意捜査」と、対象者の意思に反して行う「強制捜査」の2種類があり、強制捜査には裁判所の令状が必要とされる。警察はこれまで、GPS捜査を任意捜査として、令状を取ってこなかった。一方、弁護側は、GPS捜査は対象者のプライバシーを侵害するとして、強制捜査に当たると主張していた。
また、強制捜査だとすれば、令状が必要になるが、弁護団は令状の範囲も問題視した。今回の事件では、警察がGPSを取り付けるため、私有地に入ったり、バイクのパーツを取り外したりしていたからだ。「令状があれば、何でもありになるのか、権力の暴走を招くのではないか」。弁護団はGPS捜査を可能とする令状について、法律をつくって、可能な範囲を定める必要があると訴えていた。
今回の最高裁判決では、GPS捜査は「プライバシーを侵害しうる」と判断。「公権力の私的領域への侵入」だとして、GPS捜査は令状が必要な強制捜査だと判断した。
また、GPS捜査に必要な令状についても、「その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい」とした。弁護団の主張がほぼ認められた形だ。
被告人男性の主任弁護人を務めた、亀石倫子弁護士は「今後、科学技術を活用した新たな捜査手法が登場すると思う。実施するに当たっては、人権とのバランスが問題になるはずだ。その際に(今日の判決が)必ず参照される指針になるだろう」と述べた。
一方、GPS捜査を行なってきた警察庁は、午後5時半ごろ、弁護士ドットコムニュースが電話取材したところ、「資料が用意できていない。本日中にコメントを発表できるかも分からない」と慌ただしい様子だった。
また、日弁連の中本和洋会長は、今回の判決について「当連合会の意見の趣旨に沿うものであり、高く評価できる」とする談話を発表した。
【追記】
警察庁は15日中に、全国の警察に対し、GPS捜査の自粛を通達。翌16日、「今後、本判決の内容を精査の上、移動追跡装置(編集部注・GPS)を用いた捜査の在り方について、適切に検討してまいりたい」とするコメントを発表した。
(弁護士ドットコムニュース)