技術ウォッチャーの世良耕太氏が、2017年のF1新車、マクラーレン・ホンダMCL32の気になるポイントを解説。F1バルセロナテストではパワーユニット等のトラブルにより本来の速さを発揮できずに終わってしまったが、リヤサスペンション周りなど興味深いパッケージがみてとれる。
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マクラーレンは14年以降、リヤサスペンションの構成が定まっていなかった。きっかけはビームウイングの廃止だ。ディフューザーの効果を高めるデバイスとして機能していたビームウイングが廃止されたので、14年のMP4-29は上下のリヤサスペンションリヤ側レッグ/ロッドを衝立状にしてビームウイングの代わりを務めさせようとしたのでが、このアイデアは1年でお蔵入りとなった。
15年のMP4-30は、リヤサスペンションの構成を変更。ロワーアームとトーコントロールロッドを複雑な立体形状にして、空力的な役割を受け持たせていた。しかし、このアイデアも1年でお役ご免になっている。
16年のMP4-31はロワーアーム後ろ側レッグとトーコントロールロッド、ドライブシャフトをシュラウドで包み込んだ構造にした。それまでは強引にダウンフォースを奪いにいく姿勢が見てとれたが、ドラッグ(空気抵抗)を意識した処理に変わった。独自のアイデアではなく、トレンドに追随した格好である。
さて、17年はどんなソリューションを採用してくるのだろうと期待して待っていたが、MCL32のリヤサスペンションの処理は基本的に16年のMP4-31を踏襲している。
MP4-31と同様、シュラウドでロワーアームのリヤレッグとドライブシャフトを包み込む構造だ(写真:1)。さんざんいじりまわした末に、「これが最適」という結論に到達したのだろうか。
昨年と同じだからといって、面白味がないわけではない。リヤウイングの荷重を受け止めるステーの構造が変わっている(写真:2)。MP4-31はメインのテールパイプを貫通した1本ステーで荷重を受け止めていたが、MCL32は逆U字のがっちりしたステーでメインテールパイプをまたぐ構造とした。17年の規則変更でリヤウイングは16年までより200mm幅広になり(最大950mm)、発生するダウンフォースが増えることになった。
しかも、搭載位置が16年までより後ろになったため、荷重を支えづらくなっている。支えが不十分でウイングがぶれてしまっては本来の性能を発揮しないので、しっかり固定する必要がある。テールパイプ貫通型1本ステーから逆U字ステーへの変更は、リヤウイングの仕様が変わったことに対するマクラーレンなりの回答なのだろう。
リヤウイングの翼端板がクランク状に折れて車両中心側に狭まっているのは17年型マシンに共通するが、MCL32は翼端板の下端だけでなくクランク部分にもスリットを設けているのが特徴(写真:3)。
クランク部のスリットは外側から内側に空気を取り込む形状なのに対し、下端のスリット(写真:4)は内側から外へ流す構成になっているのが興味深い。
ディフューザーには形の不揃いなバーチカルフィンが並んでおり、リヤタイヤに最も近い位置の下端は水平フィン状に処理されている(写真:5)。手の込んだ細かい処理はフロントから取りかかるのが一般的だ。
開幕前の段階でここまで手の込んだ処理が行われているということは、相当に早い段階で開発に着手したことが推察できる。構築した空力パッケージが効果的かどうかはまた別の話だが……。