3月8日放送の「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)で、尾木ママこと教育評論家の尾木直樹さんが、「日本人の男性が世界で最も家事に協力的でないのよ」と説明する場面で、番組ゲストでKAT-TUNの亀梨和也さんに「亀梨君は独身だからまだいいのよ~」と言う場面がありました。
「独身だから家事をしなくていい」と受け取れる発言です。教育者としてそれはどうなのかと疑問に思いました。(文:篠原みつき)
独身なら母親か誰かに家事を任せきりでいい?
この日の番組テーマは「日本はこのままで大丈夫?危険な現実が続々と」で、各界の研究者や評論家が「日本のここが危うい」と、それぞれの角度から警鐘を鳴らすものでした。
その中で、尾木さんは「日本人の男性は家事労働が非常にヤバイ」と説明します。男性が行う1日の家事労働の平均時間は、日本は62分、ノルウェーは184分。一方で「日本の女性は300分(299分)なんですよ。4.8倍。5倍近い時間、女性は一生懸命やっている。働いている人もよ」と解説しました。
背景には日本企業の長時間労働という問題もあるものの、日本では家事労働のほとんどを女性が担っていると明らかにするデータで、重要な指摘です。
しかし、この説明の前フリがヘンでした。尾木さんがブラックマヨネーズの2人と亀梨さんに向かって、「みなさん家事やってます?」と聞いた上で、亀梨さんが「家事ですか?」と話そうとするのを遮り、
「亀梨君は、独身だからまだいいのよ~」
とにこやかに話していました。
独身だったら(やらなくて)いいなら、一体誰がやるのでしょう。この発言には"人が生活する上で、家事は誰かがやらなくてはならないもの"という視点が抜けており、「独身なら母親か誰かに家事を任せきりでいい」と受け取れて違和感を覚えます。
尾木さん自身が「親はいつまで子どもの面倒をみるつもり?」と言っているのに
いま、30~40歳を過ぎても実家から自立できない独身者たちを問題視する声があります。背景には、現役世代の経済的困窮という問題はあるものの、家事も親に頼りきりという面があるのではないでしょうか。
こうした問題は、尾木直樹さん自身が自著「取り残される日本の教育~わが子のために親が知っておくべきこと」(2017年1月発行/講談社+α新書)の中で、で指摘しています。本書で尾木さんは、いつまでも相互に依存し合う「仲良し親子」について、
「30代、40代になっても自立できず、精神的にも経済的にも親に依存し続けるようになってしまったら、どうするのでしょうか。親はいつまで子どもの面倒をみるつもりなのでしょうか」
と危機感を募らせていました。
そうした視点をしっかりお持ちであるにも関わらず、「独身だからまだいいのよ~」と言われたら、一読者・視聴者としてはガッカリしてしまいます。もちろん、バラエティー番組ですから笑いを優先に、全体にキャッチーな演出をすることは分かっています。
しかし、例えばこれがスウェーデンなら、テレビでも常に「男女平等でなければないけない」と言っており、男女平等の意識は幼児教育からの細かい配慮で培われていくといいます。(参考:「男も女も生きやすい国、スウェーデン」三瓶恵子/岩波書店)
長時間労働の問題もありますが、日本の男性が家事労働に非協力的なのは、子どものころから家のお手伝いなどをする機会が少なく、また家事をしなくてはいけないという認識を親がつけることなく大人になった男性が多いことの現れとも考えられます。
そんな中、あの発言は、亀梨さんをひいきして尾木ママのキャラを際立たせ、テレビ的な笑いを取るには十分だったと思いますが、フェミニズムの視点からも、教育評論家としても、ずいぶんワキが甘い発言だと思うのは、私の考えすぎでしょうか。
ちなみに亀梨さんは、「家事は一人暮らしだからむしろやります。(結婚しても)掃除と料理はやりたいです」と答えていました。