2017年03月14日 19:03 リアルサウンド
SCREEN modeが、2月22日、コンセプト2ndミニアルバム『SOUL』をリリースした。同作は、これまで数々のアニメ主題歌を手がけてきたSCREEN modeにとってアニソンを含まない意欲作。先日、その作品におけるインタビュー(「SCREEN modeが語る、新たな季節の始まり “アニソンなし”で見せた表現の奥行き」)を掲載したが、今回改めてSCREEN modeのサウンドプロデューサー太田雅友にインタビューを行った。今作をリリースするに至った経緯から、これまであまり語られなかった雅友の音楽ルーツ、現在の音楽シーンとブラックミュージックの関わり、ライブに対する姿勢など、アニソンの未来だけでなく、自身の音楽観についてもじっくり話を聞くことができた。(編集部)
・「アニメにひもづく音楽しか作ってないとアーティストとしての強度が低くなってしまう」
——新作はこれまでと毛色の違う作品になりました。まずはどんな思いでアルバム制作に向かったんですか?
雅友:僕たちのようなアニソンを作っているアーティストはアニメ作品にひもづいて音楽を作っていますが、去年の年末に年間オリコンランキングのアニソンチャートではキャラソンが上位に入り、アニソンアーティストが苦戦しているという報道があったんです。どうしてそうなったのか? と考えたときに、アニメにひもづく音楽しか作ってないとアーティストとしての強度が低くなってしまうと考えたんです。自分たちの音楽性をその都度アニメ作品に寄せて書いていかないといけないので。
ーーアニメ作品ありきになりますし、匿名性も高くなりますし。
雅友:そう。それにアニメにおもねるアーティストになっちゃうと、それはそれでアニメに失礼だなと思ったんです。アーティストとしてもちゃんとやってて、アニメ作品と対等な関係だからこそシナジーが生まれると思って。それこそRADWIMPSの「前前前世」があって映画の『君の名は。』はさらに素晴らしい作品になってると思うから。そのためには、1回、タイアップに頼らず作ってみよう。そこでちゃんと表現できるアーティストになる必要があるだろうと思ったんです。
ーーお題ありきではなく、作り手発信で音楽を作っていこうと。
雅友:そう。はっきり言っちゃえば、マーケティングせずに作ろうと。
ーーそこで今回の作品に『SOUL』と名付けた理由は?
雅友:2つ理由があって。音楽的な部分で「じゃあ、何をやる?」と考えたときに、今までやってきたロック以外がいいんじゃないかと。ボーカルの勇-YOU-が学生時代にソウルやR&Bを歌ってたんですが、アニメソングだとなかなかそのテイストをやれる機会がないんですね。じゃあ、そのルーツを辿っていこう。そうして作品に深みを出そうと思ったんです。
ーーもうひとつの理由は?
雅友:今の僕らは、アーティストとしてのSCREEN modeを知ってほしいとか、曲を聴いてほしいとか、そういう気持ちが強いんですね。僕らが置かれている現状を考えると、それがいちばん言いたいことだと。とはいえ、それじゃ歌にならないから、それを恋愛に置き換えて、片思いの男の歌のようにしていこうと思ったんです。
ーーなかなか気持ちが伝わらなくてもどかしい、みたいな。
雅友:そうです。全然振り向いてもらえない、だけど、すごく熱い男みたいな。それを裏テーマに歌詞を書いていったら一本芯が通って、尚且つ、本当の意味で作り物じゃないものができるんじゃないかと。
ーー本当の気持ち、心の内を歌ってますよという意味での「SOUL」なんですね。
雅友:そうです。作ってるときは「非モテの西野カナで」って言ってたんですけど(笑)。
ーー先程、勇-YOU-さんは学生時代にソウルやR&Bを歌っていたというお話が出ましたが、雅友さんのルーツミュージックはどんなものになるんですか?
雅友:音楽へのめざめという意味で、中学生の頃に好きだったのはBARBEE BOYSです。そこかEpic Records周りのREBECCAとか岡村靖幸さんとかを聴いていって、中学の途中くらいからB’zを好きになって。当時、松本(孝弘)さんが好きな洋楽を流すラジオ番組をやっていて、そこでいろんな洋楽に触れ、趣味が変わっていったんです。
ーーハードロック系に?
雅友:そうです。Deep PurpleとかLed Zeppelinとか(エリック・)クラプトンとか。
ーー雅友さんもそのタイミングでなにか楽器を手にするんですか?
雅友:その頃、友達にアコースティックギターをもらって。だから松本さんのラジオを聴いている頃は特にエレキを弾いてなかったんですけど(笑)。
ーーバンド活動はいつからですか?
雅友:高校時代は本当趣味程度で、大学に入ってからサークルに入ってやり始めました。いろいろやってましたけど、一番長くやってたのはメタルですね。超常現象について歌うメタルバンドをやってました(笑)。『ムー』とかを読みながら歌詞をみんなで考えるっていう(笑)。
ーーバンドでは「A」という音楽ジャンルをやるけど、家では「B」という音楽ジャンルを聴くっていう人もいますよね。
雅友:そのタイプでしたね。バンドはメタルなんですけど、個人的には大学の頃はORIGINAL LOVEが好きでメッチャ聴いてました。その流れでJamiroquaiとか。
ーーそこでソウルやR&B、アシッドジャズが出てくるんですね。
雅友:一方で、僕はアコギを弾いてたんで、あるラジオ番組で知ったスーパー・ギター・トリオのアル・ディ・メオラがすごく好きになって。その時期の彼はWorld Sinfoniaっていうユニットも組んで、ワールドミュージックをアコギでやってたんですね。それも聴いたり、その流れでチック・コリアとかもよく聴いてました。
ーージャズ/フュージョン系も聴くようになったと。
雅友:だから、ソウル系は大学くらいからなんです。オリラブの元ネタをディグって聴いていく、みたいな。
ーーでは、ソウル音楽で好きなアーティストを3組挙げると?
雅友:誰だろうなぁ。カーティス・メイフィールドとか、あとはサム・クックとか。あと、これはソウルに入るかわからないけど、トム・ジョーンズとか。いわゆるレア・グルーヴ系のソウルアーティストはあまり好きじゃなくて。歌がしっかりあるモノが好きでしたね。
ーーでは、ファンクで好きなアーティストとなると?
雅友:ファンクとなると……FunkadelicとかEarth, Wind & Fireとか。ジェームス・ブラウンも聴きますし。Graham Central Stationとか含めていいなら、そっち系も聴きますね。
ーー幅広いですね。
雅友:音楽をやるためにはあらゆる音楽を知っていなければならぬ、みたいな不安に苛まれてた時期が若い頃にあって。たとえば中学生の頃はThe Beatlesがあまり好きじゃなかったんです。でも『ギター・マガジン』とか『Player』とかを読んでると、いろんなアーティストがThe Beatlesが最高だと言ってる。自分は音楽をやりたいのにThe Beatlesの良さがわからないのは最悪だと思って、1カ月以上、毎日The Beatlesだけをウォークマンで聴いてた時期があるんです。
ーー強制的に体に入れていこうと。
雅友:そしたらだんだん好きになってきたんですよ(笑)。初期の頃のThe Beatlesってハーモニーがギリギリっていうかピッチが際どいんですよ。そういうところがあまり好きじゃなかったんですけど、だんだん、それも味だなと思うようになってきて。そういう体験があるから、いろんなモノの良いところを探して聴くようになって、それでさらに幅広い音楽を聴くようになっていったんだと思います。例えばDragon Ashが出てきたときは、全然ギター小僧だったのに急にサンプラーを買ってみたりとか(笑)。
・「星野源さんはすごい好きです。でも悔しい(笑)」
ーーそうしてたくさんの音楽に触れる中で、作曲家として影響を受けたのは誰なんですか?
雅友:やっぱりめざしたいのはBARBEE BOYSのいまみち(ともたか)さんなんです。でも、いまだにああいう感じの曲はなかなか書けなくて。その他にお手本にしているのは松本(孝弘)さん、ASKAさんですね。
ーー少し話を戻して、オリラブといえば、新作に収録された「Last Train」にはちょっと彼らっぽい匂いを感じたんです。90年代渋谷系経由のソウル感というか。
雅友:確かに。これくらい跳ねてる曲は常々やりたいと思いながらも、アニソンだとなかなかやる機会がないのでアイデアを温存していたんです。個人的な作家仕事では、Kis-My-Ft2でこういう感じの曲はやってるんですけど、なかなかそれを話す機会もなくて。と思ってたら、星野源さんが出てきて、「んー、やられた!」と思って。
ーーやられたというのは?
雅友:チャート常連の人でブラックミュージックのエッセンスをきちんと落とし込む人が出てきたんだって。Suchmosも2016年の途中くらいからグングン頭角を現したじゃないですか。フェスでもすごいたくさん人を集めていて。そういうのを見ていて、J-POPのシーンが変わってきたなと思いましたから。だから後追いみたいになっちゃうなと思って、ちょっと悔しいんですよ。星野源さんとSuchmosには「はぁぁ、やられた」って感じです。僕らがデビューした3年前に今回のアルバムを出しておけば良かったと思って。
ーー「俺もそれ、できるのに」っていう。
雅友:そう。全然やりたかったことのひとつでもありましたし。
ーー時代を遡ると、小室哲哉さんやつんく♂さんもソウル感を絶妙な加減で楽曲にまぶしていたと思うんです。彼らのプロデュース楽曲をどう捉えていますか?
雅友:今のJ-POPっぽいディスコのフォーマットを作ったのはモーニング娘。の「LOVEマシーン」だと思います。小室さんはTM NETWORKの曲で「黒くなろうとしてる」みたいな曲はあったけど、そこからレイヴ音楽を始めて……からの安室(奈美恵)さんじゃないですか。だから、僕は小室さんにはスウィング感っていう部分で黒人音楽の要素をあまり感じないんですね。ブラックミュージックってグルーヴだと思うんで。でも、つんく♂さんはそこを意識してらっしゃるのを感じますね。
ーー星野源さんやSuchmosのブレイクで、そういう歌謡曲やJ-POPにおけるソウル感が変わってきたなと思いますか?
雅友:つんく♂さんや小室さんがよく使うのはダイアトニックスケールという普通のドレミファソラシドなんです。だけど、星野さんとかSuchmosのメロディーはオルタードテンションとか、ジャズのスケールなんですよね。彼らが出てくる前にも当然そういう楽曲はありましたけど、それがメインストリームではなかった。
ーー売れる音楽ではなかった。
雅友:例えばaikoさんも結構際どいテンションを使ったメロディーなんですけど、彼女はブラックミュージックではないと思うんです。白いジャズというか。でも、星野さんがやってるのはちゃんとブラックミュージック感があって、でも日本人のポジションからそれを放とうとしているのもはっきりわかる。だから「先にやられた」って思うんです。
ーーつくづく、そこに戻るんですね(笑)。
雅友:だから、すごい好きです、星野さんは(笑)。でも悔しいっていう(笑)。
ーーそういう日本人的ブラックミュージック感を今後もSCREEN modeで求めていきたいと考えているんですか?
雅友:僕たちはライブを重要視してるんですが、アニソンって特定のところに収束しつつあって、どのアーティストも曲の雰囲気がある程度似てるんですよね。そうするとライブの演出もどうしても似たような感じになりがちなんですよ。
ーー曲調が似てくれば、見せ方も似てくる。
雅友:だから、僕はそうならないよう、過去にプロデュースしたアーティストではアルバムにビッグバンドジャズの曲を入れたりとか、いろんな工夫してきたつもりなんです。大きな会場でいろんな景色を作れるようにって。で、SCREEN modeもそういうふうにしていきたいという思いがもともとある。なので、今回のアルバムがそこに向かうための第一歩になるというか、基本ロックな姿勢でも、1回こういうことをやっていれば、次に何かやっても「この人たち、こういうこともやるよね」と取ってもらえるんじゃないかと。
ーー1回違う顔を見せたことで、たとえば次にジャズをやっても「今度はそういう方向をやったんだね」と受けとめてもらえるかもしれない。
雅友:そう。次はそっちモードのSCREEN modeなんだねと。だから今後のことも見据えて、ライブの演出も見据えて、自分たちの幅を出すためにこういうことをやりたかったんです。そういう意味では、今後も今回のような要素は入れていきたいと思ってます。
ーー 一作曲家としてこういう音楽をつくりたいんだけど、SCREEN modeではそれが表現できない、みたいな。そういうストレスは感じていますか?
雅友:それはあまりないですね。確かに、やってることがずっと同じだったら飽きると思うんです。それがブラックミュージックだったとしても。いろんな要素をやっていきたいと思っていますが、今回はLantisさんの理解によって、こういうアルバムを出させてもらえた。SCREEN modeは多様性が認められている部分もあるので、今の体制でやるぶんにはそういうストレスはないですね。
ーー先程話されたように、むしろ今後はもっといろんなことがやれそうだと。
雅友:そうですね。今回こういうアルバムを作れたことで楽しみが増えましたから。そうやってアーティストとしての自分たちの底力というか戦闘能力みたいなものを高めて、その力でアニソンをもっとよくしていきたいっていう思いがあるんですよね。たとえば去年流行った『おそ松さん』というアニメの「SIX SHAME FACES ~今夜も最高!!!!!!」という曲もすごくかっこいいファンクなんですよ。でも、それはキャラソンなんですよね。アーティスト発信でそれが出てこない。そこを変えていきたいんですよね。
(取材・文=猪又孝)