技術ウォッチャーの世良耕太氏が、チャンピオンチームであるメルセデスの新車の気になるポイントを解説。F1バルセロナテストでは8日間合計で5102Kmの距離を走破したメルセデス。テスト期間中の総合タイムはフェラーリに後塵を喫してしまったが、ディテールの細かさからポテンシャルの高さが感じられる。
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一般的に、風洞試験を1週間行えば空力効率(L/D)は1ポイント(0.01)向上する。10週間費やして10ポイント向上させると、ラップタイムは0.33%向上する。1周90秒のサーキットなら、0.3秒だ。メルセデスは17年型F1 W08 EQ Power+のシェイクダウンまでに30週分の風洞テストを実施したというから、すでに30ポイントは空力効率を向上させていると考えてよく、ラップタイムのゲインは出発点に対して0.9秒になる。
それだけのゲインはあるだろうと思わせるくらい、W08はディテールまで手の込んだつくりをしている。前車軸の下にあるターニングベーンの造形やバージボード、ポッドウイング、リヤビューミラーのステー周辺のつくりは非常に凝っている。
ポッドウイングは3連(TOP写真)になっているが、それぞれが翼断面をしている。その断面形状から、車両の外側を負圧にする意図のようだ。フロントタイヤを起点に発生する乱流が、サイドポンツーン側面に沿って流れる空気を邪魔しないようブロックする狙いだろうか。
空力の基本にかかわる部分で目に付くのは、フロントのアップライトだ。通常、上下のサスペンションアームはホイール(13インチ=33cm)の内径に収まっているものだが、W08の場合はアッパーアームの取り付け点が上に飛び出している(写真:2)。
つまり、アッパーアームが通常より高い位置にあるということだ。アッパーアームの位置を高くしたかったのではなく、高くしたかったのはロワーアームの方。高くしたロワーアームに対して一定のスパンを確保すると、アッパーアームはホイールより高い位置にきてしまう。そこでアップライトから腕を伸ばし、支持する構造としたのだろう。
ロワーアームを高くしたのは、フロントウイング内側のチップ(写真:3)で作った縦渦の通り道を邪魔しないようにするためだ。
リヤサスペンションのロワーアームとトーコントロールロッドをドライブシャフトとともにシュラウドで覆う構造は、16年の時点ですでに一般化しているが、17年のメルセデスはこの部分の設計に手を入れてきた。手持ちの写真では詳細まで確認できないものの、ドライブシャフトまわりの処理は変わっているように見える(写真:4)。
新車発表時にはオーソドックスなエンジンカウルだったが、バルセロナテストではシャークフィンやTウイングを試した。シャークフィンは上辺に開口部を設けたチムニー形も持ち込んでいたし、Tウイングはバイプレーン(複葉)である(写真:5)。翼断面を観察すると、リヤウイングへの整流を目的とするのではなく、それ自体でダウンフォースを発生させることを目的にしているようだ。
W08の凝り具合からは、4連覇に向けて「ぬかりなし」の勢いが感じられる。