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今宮純のF1合同テストインプレッション:伸び悩んだ王者と、衝撃を与えた跳ね馬

2017年03月14日 06:40  AUTOSPORT web

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テストで好調だったフェラーリとライコネン。1分18秒台の最速タイムを記録した
全日程が終了したF1合同テストは、総合ワン・ツーをフェラーリのキミ・ライコネンとセバスチャン・ベッテルが占め、メルセデスのバルテリ・ボッタスが3番手という結果に終わった(2016年、この位置にいたのはニコ・ロズベルグ)。

 つまり、トップ3を占めたチームと序列は16年とまったく一緒だ。1年前はテストでの好調ぶりにフェラーリ躍進の話題が広まり、チーム首脳も打倒メルセデスを宣言。しかし、16年シーズンの結末はご存知のとおりだった……。いまは一喜一憂を戒めつつ、第2回プレシーズンテストをレビューしてみたい。

■アップデート不発? 王者メルセデスはなぜ伸び悩んだか

 メルセデスは16年、8日間のテストで合計6024Kmを走破したが、17年は5102Kmと1000Km近く少ない。ボッタスが8日間で最多の628周を周回したが、これも16年にロズベルグが周回した656周より28周少なかった。彼らは他チームとの比較ではトップの走行距離だが、3レース分に及ばない走行距離は気になるところだ。2回目のテストでは、チームが想定していたプログラムをすべてカバーすることができなかった。

 ドライバーふたりのコメントを深読みすると、ルイス・ハミルトンの表現が微妙に変化していくことがわかる。初回のテストでは「マシンはもうサイコー、他よりも1000倍くらい良い」と絶賛。

 それが徐々にトーンダウンしていき、テスト最終日の自己ベストタイムが1分19秒352にとどまり「開幕までに改善するところがある」とコメントが変化。アップデートの効果を感じられず、普段は控えめなボッタスも、暗にそれを認めた。

 メルセデスに唯一起きた不安なトラブルは、第2回合同テスト初日の午前、ハミルトンの走行中に発生したフロアのダメージだ。朝から温度が高まるコンディションで彼はトラブルを訴え、4時間のセッションで49周にとどまった。

 これはトラブルが相次いだマクラーレン・ホンダのストフェル・バンドーンが午後のセッションで周回した46周並で、メルセデスとしては非常に珍しい事態だ。スピンなど喫していないのにフロアにトラブルが起き、エアロバランスが狂った事象から、この日試したアップデートが機能しなかったと読みとれる(むろん、チームは一切のコメントを出していない)。

 合同テスト1回目はボッタスが1分19秒705(タイヤはウルトラソフト)で首位。2回目は1分19秒310(スーパーソフト)を記録し、3番手タイムでしめくくったメルセデスの伸び率は、それほどでもない。ひょっとするとその真因は“トリックサスペンション疑惑問題”の絡みなのか、それを外したシステムを試みたのか。

 FIAがサスペンションに関する規定解釈基準を全チームへ通達して以降、彼らのペースが停滞気味になったことに気付く。しかし、それでもレースシミュレーションでのペースはまずまず。17年シーズンの基本戦略として、彼らは予選より決勝重視策にシフトしたのかもしれない。

■打倒メルセデスの筆頭候補? フェラーリ×ライコネンはどこが速いのか

 テスト総合結果ワン・ツーにもはしゃがないフェラーリ。個人的には、大きな変化がチームとマラネロの本社内に起きていると予想する。セルジオ・マルキオンネ会長以下、首脳陣は“音なしの構え”だ。

 ドライバーふたりの走りにはワン・ツーの結果以上のインパクトをうけた。ライコネンのマークした1分18秒634の内訳は、ストレートスピードが16年より伸びておらず、セクター1は22秒779(16年ポールのハミルトンは22秒370)というもの。では、どこでタイムを稼いだのか?

 ニューマシン、SF70Hの過去作との歴然たる違いを感じるポイントをいくつか確認できた。スムーズにクリッピングポイントにつけ、ステアリング修正がまったくなく、高速コーナー、ターン3の旋回中にステアリングのスイッチを操作する余裕(!)も。セクター2のタイムは29秒402、16年ポールのハミルトンに対し、マイナス1.377秒上回る。セクター3は26秒401。同じく、16年ハミルトン比でマイナス2.335秒だ。

 驚愕のポイントは、低速シケインで余分なステアリング操作がなく、スイスイッと一発でコーナーをクリアしていく挙動だ。燃料搭載量にかかわらず、メルセデスより修正の少ないオン・ザ・レール。フェラーリの新車には衝撃を受けた。

 ひとつ気になるのは、テスト6日目に起こったライコネンの3コーナーでのスピンだ。そこまでテストで彼が攻めるのは珍しい。前述したように、このセクター1では2と3ほどタイムアップしていない。

 ドライビングミスか、マシントラブルだったのかは不明だが、3コーナーをもっと攻められればさらに速さを引き出せるだろう。

 ベッテルは「まだタイムを気にするときじゃない、テストプログラムに集中していくだけだ」とコメント。この言葉に余裕を感じる。彼のセクターベストをつなぐと1分18秒781になり、ライコネンとは0.147秒差。ベッテルとライコネンのペアは、メルセデス勢やレッドブル勢より長く、ライバル意識も希薄な、まさに最高の“チームプレイヤー関係”。フェラーリの強みはそこだ。

■低速セクションで輝くレッドブルと、マッサ率いる中団グループにも注目

 ダウンフォースを追求したレッドブルのマシンは、17年の規定変更によって期待されていたものの、現状はもうひとつに見える。マックス・フェルスタッペンのベストタイムは総合6位。低速シケインでの回頭性が素直で俊敏、エアロ効率が低下する低速エリアで特にポテンシャルを示していた。

 RB13はルノーPU(TAGホイヤー)の進化レベルに合わせ、パワー&トルクにシンクロさせた空力マッピングをつかむ、有意義なテストを過ごした。そこから進化するであろう開幕本番仕様を待ちたい。

 中間4チームの勢力、ウイリアムズ、トロロッソ、フォース・インディア、ルノーはベストタイムが拮抗。復帰したフェリペ・マッサがエースドライバーとして、かつてのミハエル・シューマッハーのように頼られ、元気なのは大いにけっこう。18歳の新人、“お坊ちゃま”ランス・ストロールもクラッシュの痛みから学び、失った走行距離をカバー。テスト最終日に132周をこなした。

 現時点では、ウイリアムズのマッサが中団グループの先頭にいるとみていい。ルノーPUに変わったトロロッソはマイナートラブルがあったものの、カルロス・サインツJr.が総合7番手タイムで、ルノーとフォース・インディアに対し先行。開幕序盤戦はこの集団のドライバーズ・バトルが見どころになるだろう。

■苦しいスタートを切った3年目のマクラーレン・ホンダに望みはあるか?

 参戦2年目のハース、新生3年目のマクラーレン・ホンダ、参戦25年目のザウバーがテストタイムのボトム3。16年は最下位タイムだったハースが8位にアップ、ザウバーは最下位に。マクラーレン・ホンダは16年の8位から9位にダウンした。

 ハースの走行距離は昨年より1000Km以上多い、全体で6番目となる3328Km。ザウバーは4番手の3668Km。タイムこそ低調だが、ザウバーは開幕序盤に荒れがちなレースを生き残り完走、そして入賞を狙う。その方針故に“16年フェラーリPU”を選択したのだから。

 ここまで低迷している3年目のマクラーレン・ホンダ。こうなってしまったのはリーダーシップの瓦解が響いているのではないだろうか。

 ロン・デニス体制が一掃され、新組織構築に追われてしまい、17年のプロジェクトに支障をきたしたか……。ホンダPUは栃木県『HRD Sakura』研究所では問題がないのに、実走するやいなや、次々に不具合が出たのは解せないこと。

 なによりも信頼性優先主義のホンダF1長谷川祐介総責任者だけに、新設計のPU開発にもそれを徹底したはず。しかし、こうなったからには現実を受け入れ、一歩下がっても信頼性を再確認したスペックを開幕序盤に投入し、同時に、攻めたチューニングのアップデートをどこかのGPに的を絞り開発を進めるのが良いだろう。

 1歩下がっても2歩進むには、マクラーレン側と足並みをそろえてターゲットを設定したうえで開発のタイムテーブルを明確にフェルナンド・アロンソとバンドーンに提示し、ドライバーからの信頼を取り戻すことが必要だ。

 チーム体制も、マシンの名称も、カラーリングも、何もかもが変わったマクラーレンなのだから、もう名門意識は捨て、謙虚に谷底から崖を登る気構えを望みたい。故・本田宗一郎さん生誕111年のシーズン、いまこそ『ホンダ・スピリット』を――。