2017年、F1ドライバーたちがクリーンなスタートを決めるのは、これまでよりずっと難しくなるだろう。クラッチとパドルに関して、FIAが新しいルールを導入したからだ。
FIAが進めてきた「ドライバーエイド」削減の一環として、すでにエンジニアがスタート時にドライバーを支援をすることについては、いくつもの制限が課されてきた。それは無線の通信内容やクラッチのバイトポイントの規制から始まり、昨年はさらに厳しくなって、ドライバーが使えるクラッチパドルはひとつだけと決められた。
そして今年からは、クラッチの制御方法や、パドルの作動域とレイアウトにも制限が加えられたのだ。
最大の変更点は、ステアリングホイールにあるパドルでクラッチをどう制御するかに関わるもので、今年からはその制御をリニア(直線的)なものにしなければならなくなった。
これまでは、エンジニアが設定をマッピングすることで、パドルストロークのおよそ8割をクラッチの「スイートスポット」とすることが可能だった。これはあまり微妙なコントロールを要さずに、いつも最適なスタートができる可能性が高いことを意味する。
これについて、ケビン・マグヌッセンは「(昨年までは)10%と80%の間のどこかでリリースすれば、それでOKだった」と説明している。
「その範囲内であれば、路面の状態、タイヤ、燃料の搭載量に応じて設定されたフラットなマップがクラッチを制御してくれた。つまり、以前のスタートは100%エンジニアがやっているようなものだったんだ。でも、今年はすべてがドライバーの操作にかかってくる」
リニアな制御になると、スタートでのホイールスピンやエンジン回転数の低下を避けるには、クラッチパドルのどの位置が最適なミートポイントなのか、ドライバーが指先の感覚で探し出さなければならない。
ザウバーのパスカル・ウェーレインは、「つまり、マニュアルシフトの乗用車のクラッチペダルと似たようなものになるってことだよ」と語った。
「ドライバーはバイトポイントを自分の感覚だけで見つける必要がある。これまで、セットアップに問題がないかどうか、クラッチが正しくつながるかどうかは、どちらかと言えばエンジニアの仕事だった。だけど、今年は全部ドライバーが自分の手でやることになり、クルマの方で調整ができる余地もなくなるんだ」
また、ドライバーに微妙な操作を要求することを目的として、クラッチパドルの設計にも新たな制限が課せられる。
クラッチのバイトポイントを探しやすくするために、チームがステアリングホイールの裏側に何らかのデバイスを取り付ける可能性を予見して、パドル周辺には他のものを一切設けてはならないゾーンが定められたのだ。これによりチームは、クラッチパドルとステアリングホイールの他の部分との間に、50mm以上の間隔を確保しなければならない。
この「50mm規定」の唯一の例外として認められるのは、ドライバーの指がパドル以外の場所に触れないようにするためのストッパー機構だ。
そして、クラッチパドルのストローク量も、最大80mmまでに制限される。ストローク量を一定の範囲内に制限しないと、チームはその作動域を極端に大きくして、ドライバーが理想的なミートポイントを見つけやすくする可能性があるからだ。
バルセロナで行われたプレシーズンテストでもスタート練習が実施されており、ドライバーの第一印象によれば、このルール変更でスタートが以前ほど楽ではなくなったのは確かなようだ。
「ドライバーにとっては、スタートがすごく難しくなるだろう」と、ウェーレインは言う。
「ちょっと運が良ければ、いいスタートが切れるかもしれないし、運が悪ければスタートで大きく出遅れることにもなるかもしれない」