2016年、フォーミュラEでランキング2位を獲得し、17年も同シリーズへ参戦しているルーカス・ディ・グラッシが、今季のシリーズ創設がアナウンスされている電気自動車GT選手権『EGTエレクトリックGTチャンピオンシップ』向けに開発された『テスラ・モデルS』のテストを行った。
同じく電動モビリティであるシングルシーター選手権のフォーミュラEに、アプト・シェフラー・アウディスポートから参戦するディ・グラッシは、イタリア・バレルンガのトラックで『テスラ・モデルS P85D+』のステアリングを握った。
1日のテストセッションのほぼ全行程でドライブを担当したディ・グラッシは、初めてのドライブとなるテスラで20周以上を走行。今回の個体は年明けに発表されたP100Dをベースとする最新の『モデルS Ver.2.0』ではないものの、このマシンの最終バージョンは「世界でもっとも強力なGTカーになる可能性を秘めている」と語った。
「そのほかのあらゆる新技術と同様に、僕は(EGTを創設した)彼らが何を達成したいのか、理解したいと思っているんだ」とディ・グラッシ。
「フォーミュラEも非常に複雑で、かつ“エキゾチック”なテクノロジーの塊だ。でもこのマシンは、市販のプロダクトに反映できる技術が満載されているし、スリックタイヤを履いて、ロールケージを入れて、余計な重量物を降ろせばすぐにでもレースカーに仕立てることができる」
「最大の重量物であるバッテリーが床一面に積載されているから、マシンは低重心で本当にクイックだ。これはレーシングカーに必須の要素だよ」
リヤウイングやフロントスポイラーの効果を認めつつ、空力面での体感ダウンフォースは最小限だと語るディ・グラッシだが、それ以上にピレリによるスリックタイヤからくるグリップの大きさが印象的だったと振り返る。
「ピレリはいい仕事をした。かなり柔らかいコンパウンドだけど、良いメカニカルグリップを実現している。最大の問題は、マシンにまだ熱制限があることだ」
「予選アタックモードで走ると、次の15~16周程度はノーマルパワーに制限されることになる」
「その間、温度管理に気をつけて走れば、ふたたびピークパワーを使うことができる。モーターを過熱させることなく、できるだけ速いラップを刻めるかが課題だね」
テストで使用された最初のテスト車両であるP85D+は、後輪駆動モデルで約380kW(約510ps)の最高出力を誇るが、制御が働くと出力が半分に抑えられる。
現在、EGTの運営チームが実際のレースに投入しようと計画している最新のP100LDは、約585kW(784ps)のピークパワーを持ち、4輪駆動とすることで、運動性能の向上とタイヤライフの延長を狙っている。
ディ・グラッシはいくつかの課題はあるものの、将来的には「GT3マシンと同等か、それ以上の速さには到達できるだろう」との見方を示した。
「LMP2マシンとほぼ同等のパワー・トゥ・ウエイトの比率を持っているし、世界でもっとも速いと目されている日本のスーパーGT(GT500クラス)と同じ土俵で比較できるようになる可能性もある」
「そのためには、今よりも多くのダウンフォースが必要だし、冷却面と熱問題、バッテリー管理の水準を高める必要がある。1周では最速でも、レース距離ではまだそうじゃないからね」
これまで、元F1ドライバーのハインツ-ハラルド・フレンツェンや、カルン・チャンドックといったドライバーがマシンのテストに参加してきたが、アウディスポーツが許せば、ディ・グラッシも「電動シリーズで初の勝者となるのは、いつだって最高の気分だからね」と、シリーズへの参加を前向きに検討したいと語った。
このEGTチャンピオンシップは、今季の初開催を予定しており、シルバーストンやニュルブルクリンクなど欧州のトラックを中心に、17年後半のラウンチが見込まれている。