2017年03月12日 10:34 弁護士ドットコム
ドラマ撮影のため、6歳の子役を未明まで長時間にわたり働かせたとして、衛星放送のWOWOWが3月1日、ホームページで謝罪した。同日、文春オンラインにて「WOWOWドラマで天才子役が号泣した徹夜の違法撮影」と題した記事が掲載されたことを受けてのもの。
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WOWOW社は、子役、保護者に対して「深くお詫び申し上げます」と謝罪した上で、「児童の健康等への配慮から、午後8時以降撮影しない、また長時間に及ぶ撮影は行わないという方針であたってまいりましたが、同日の撮影スケジュールに遅れが生じたため、現場の判断でこのような事態に至りました」と弁明した。
子役は、1月20日正午から翌日午前2時まで、また同月21日正午から翌日午前5時まで行われた撮影に参加していたという。「働く子ども」の労働について、法律ではどのように定めているのだろうか。太田純弁護士に聞いた。
「今回は、基本的に子役を深夜業には就かせないという局内(社内)方針がある中で、たまたま現場での撮影が延びてしまったとのことです。事態の発覚を受けて局が取った行動は、改めて局内の方針を徹底することと、児童福祉への配慮の姿勢を示した点で、適切であると思います」
太田弁護士はこのように述べる。
「労働基準法(以下「法」といいます)では、未成年の労働者に関して、3つの年齢区分によって、(1)未成年者(満20歳に達しない者)、(2)年少者(満18歳に満たない者)、(3)児童(満15歳に達する日以後の最初の3月31日が終了するまでの者)を、保護するための規定を設けています。
そして、(3)の児童に関しては、当然ですが、(1)と(2)に関する保護規定も適用されます」
そもそも、児童を労働者として使用することに問題はないのか。
「大原則は、児童を労働者として使用することは、児童の健康と福祉、修学の機会保障のため、本来禁止されています(法58条1項)。
許されるのは、あくまでも例外的場面です。13歳以上の児童につき、一定の非工業的業種に限り、ア)健康及び福祉に有害でなく、イ)労働が軽易であること、ウ)修学時間外の使用であること、エ)労基署長の許可を得ること、の4つの条件を充たした場合に、労働者として使用することが認められます(法56条2項前段)。
その更なる例外として、13歳未満の児童については、映画の制作又は演劇の児童に限り、
これらア)~エ)の4つの条件を充たした場合に、はじめて使用することができます(法56条2項後段)。
労基署長の許可に関しては、年少者労働基準規則という規則が許可条件を規定しています。
それによると、演劇子役として、例外的に使用が許されるためには、労基署長に対して、修学に差支えがないことを証する学校長の証明書や、親権者または後見人の同意書を提出して許可を得る必要があり、それらの証明書、同意書、さらに年少者の年齢を証する戸籍証明書を事業所に備え付けなければなりません(法57条)。
このように、そもそも労働者として使用できるのか、ということについて、法令の定める条件をきちんとクリアする必要があります」
「これらの条件をクリアした上で問題になるのは、どの程度の時間、働かせられるのかということです。
15歳以下の児童の場合、時間管理をするにあたっては、労働時間だけでなく、修学時間も含めてカウントされる点に注意が必要です。つまり、『修学時間+労働時間(舞台稽古や衣装の着替えなども含めて)』が1週間に40時間、1日に7時間を超えてはなりません(法60条2項)」
深夜に働くことについてはどうなっているのか。
「まず、18歳未満の者が深夜業(午後10時~午前5時)を行うことは、原則禁止です(法61条1項)。児童の場合、例外規定によって労働者として使用できるとしても、さらに『深夜業』の時間が厳しく定められています。すなわち、午後8時以降午前5時までの深夜に使用することは、原則禁止とされています(法61条5項前段)。
そうすると、午後8時まで舞台が続いていたときに、午後8時にピタッと、子役を交代させなければならないのか?と疑問に思われるかもしれません。業界でも、プログラムを午後8時までに終演させるか、午後8時以降は子役を交代するような演出にするのかは、悩みの多いところでしたから、いわゆる構造改革特区構想を巡り、政府内でも議論が繰り返されてきました。
その結果、厚労省の労働政策審議会が答申を取りまとめ、『深夜=午後8時~午前5時』の定義に関して、演劇と映画製作に関しては、厚生労働大臣の認める場合で、地域と期間を限定した上で、これを『午後9時~午前6時』と、1時間繰り越して適用できることとされました(法61条5項後段)。これによって、子役を大人に交代させる必要がなくなったのです」
労基法上の規定に違反した場合、罰則はあるのだろうか。
「児童を保護するための労基法上の規定に違反した場合、とりわけ、年少者の労働時間・休日及び深夜業の規制に違反すると、6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が法定刑として定められています(法119条)。
また、児童であっても、賃金は直接本人に支払われなければなりません(法59条)。未成年者の場合は独立して賃金の請求ができ、親権者らはこれを本人に代わって受け取ってはならないとされています」
「ここまで、児童が労働基準法上の『労働者』に該当する場合についてお話してきましたが、かつて、児童が『労働者』ではなく『事業者』に該当するとされたケースもあります。
昭和63年当時、国民的な人気を誇った光GENJIさんのメンバーに14歳の方がおられ、深夜業の可否について、議論がなされました。その時、労働省(現厚労省)から出されたのが、いわゆる『タレント通達』です(昭和63年7月30日 基収第355号)。
これによれば、芸能活動などを行う場合に、(1)本人の提供する歌唱、演技等が他人によって代替できず、本人の個性が重要な要素となっていて、(2)その報酬が労働時間に応じて定まるものではなく、(3)労働時間の管理の面で原則として拘束を受けず、(4)契約形態が雇用契約でない場合には、『事業者』であって、そもそも労基法上の『労働者』に該当しないとされました。この通達によって光GENJIさんのメンバーには労基法が適用されず、深夜業の制限を受けないこととなったのです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
太田 純(おおた・じゅん)弁護士
訴訟事件多数(著作権、知的財産権、労働、名誉棄損、医療事件等)。その他、数々のアーティストの全国ツアーに同行し、法的支援や反社会的勢力の排除に関与している。
事務所名:法律事務所イオタ
事務所URL:http://www.iota-law.jp/